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極限での現代人描く 桐野夏生さん新刊「東京島」

2008年6月7日15時3分

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 桐野夏生氏が新作長編『東京島』(新潮社)を発表した。無人島に漂着した女性1人と男性三十数人のサバイバルを描くが、古典的な漂流ものとは異なり、脱出への動きは混沌(こんとん)としてゆく。極限状況で露呈する現代人の特質や、共同体の原初のシステムをあぶり出しながら突き進む、波乱に富んだ物語だ。

 唯一の女性・清子は40代。夫の隆と共に海難事故で5年前に無人島に流れ着いた。やがて日本人の若者23人、中国人11人も別途、漂着する。日本人は島を「東京島」と名付け、集まる広場を「コウキョ前」、何者かに投棄されたドラム缶が転がる浜を「トーカイムラ」などと呼び始める。

 桐野氏は「昔から無人島ものが好きで、耐久生活がおもしろいと思っていた。(戦時中に女性1人と男性多数が取り残された)アナタハン島事件も踏まえ、なるべくグロテスクな設定にしようと思って、若い男たちとその母親ほどの年齢の女性1人、という集団にしました」と語る。

 5年の間に、最年長だった隆、清子の2番目の夫が怪死、「王殺し」の時代を過ぎて今は凪(なぎ)の状況にある。清子は、くじ引きによる理不尽な夫選びを強いられるものの、性を武器に日本人と中国人の両グループ間をしたたかに渡り歩く。やがて、誰が父親かわからない子供を身ごもる。

 「くじ引きは屈辱的だが、平穏を保つために男が定めた秩序が清子の意思を封じている。でも清子は身勝手な人間でサバイバルのために立ち回り、落ちぶれたら〈島の意志で妊娠した〉と、なんとか神格化を図るんです」

 生活力にたけた中国人と、生きがい探しに走る日本人は互いに干渉しない。日本人は「シブヤ」「ジュク」「ブクロ」などのすみかに分かれてゆく。『十五少年漂流記』のような団結もなく、ゴールディング『蠅の王』のような闘争にも発展しない。求心力を欠く共同体に現代性がある。

 「立ちゆかなくなってバラけた、ゆるい状況の方がリアル。新しいリーダーも清子も凋落(ちょうらく)し、移り変わりが激しい。何もない中で生きてゆく時に、集団がルールやタブーを決めたりすることに興味があるんです。持ち場を持ちたい者、異議を唱える者、聖地・信仰をつくる者が出てくる。そこに、集団のダイナミズムが出ると思うんです」

 とりわけ、村八分にされたワタナベがユニークだ。裸でウミガメの甲羅を背負い、独りパラダイスを満喫する。さらに隆が残した日誌を盗んで読みふけり、「言葉」に触発されて清子への愛憎を抱く。

 「嫌われ者のワタナベと清子は表裏一体で、共同体での異物。清子への執着と憎しみを募らせるうちに、グロテスクになる。でも端から見て笑っちゃうようなことが、人間の営みとしての文化の発生なのかもしれません」

 「清子を妊娠させたことで時系列ができたので、横軸としていろんな人物を掘っていけた。無人島では人間の弱いところ、変なところが出てくる。真剣ゆえにこっけい。何もないところだからこそ、本当の自分への執着が生まれるんですね」(小山内伸)

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