
古典読み物中心の夏の文庫フェアの中で、朝日文庫「いま、戦争を考える」が異彩を放つ。体験者の証言や歴史の謎の考察などさまざまな視点で戦争をとらえ直す6点だ。熱のこもった言葉と冷静な目が両立し、戦争の本質を考える手がかりになりそうだ。
『父の戦記』は、終戦から20年後に「週刊朝日」の募集に応じた戦記50編を収録。中国大陸やサイパンなどで、実際に武器を手にした兵士の肉声が詰まっている。捕虜の処刑、孤児の救出、自決と水の奪い合い。浅ましくも美しくもある人間の多面性を、戦争の真ん中にいた人たちが現実としてつきつける。
『戦争文学を読む』は、文芸評論家の川村湊氏と歴史学者の成田龍一氏が、上野千鶴子、奥泉光、イ・ヨンスク、井上ひさし、高橋源一郎の各氏と『レイテ戦記』や『黒い雨』など戦争を題材にした文学を読み解く。戦争を描くが、自作についての発言がほとんどない作家古処誠二さんとの座談も収録。戦闘シーンを避ける、戦地で生活を送る人々を描く、などの創作姿勢を語っている。
朝日新聞社編『原爆・五〇〇人の証言』は広島・長崎をはじめ全国の被爆者への質問をまとめ、1967年8月に朝日新聞紙上で連載された記事を再構成したもの。けがの状況や原爆症の認定の有無、アメリカをどう思うかなど40項目の共通の質問を通し、それぞれの事情が立ち上がる。核廃絶の機運が高まりつつある今こそ読まれたい。
ほかに小森陽一著『天皇の玉音放送』(45年8月15日の玉音放送のCD付き)、多田実著『硫黄島玉砕 海軍学徒兵慟哭の記録』、保阪正康ほか著『戦争と天皇と三島由紀夫』。(吉村千彰)