江戸時代の小袖、能装束や道具類……。呉服商がルーツの百貨店が所蔵する美術工芸品が注目を集めている。着物のデザインの参考にするために収集したものが多く、これまで内部資料として扱われ、大々的に公開される機会は少なかった。新たな光があてられて、積極的に文化発信していこうという動きが出ている。
刺繍(ししゅう)や箔(はく)押し、染めなど多彩な技法を駆使し、花鳥風月、詩歌といった絵画のような意匠を凝らした小袖。「小袖 江戸のオートクチュール」展(9月21日まで、東京・六本木のサントリー美術館)は、松坂屋秘蔵の小袖、能装束など約300点が出品される。大半が初めて公開されるものだ。
松坂屋は、呉服商として、江戸時代の1611年創業。百貨店になり、1931年、最高級の呉服をつくる参考にするため、京都仕入店に「染織参考室」を設置した。江戸時代の小袖を中心に、帯や能装束、エジプト、インドなど国内外の裂(きれ)地を、オークションや古美術商を通じて意欲的に収集した。
雛(ひな)形本、今でいうなら“デザイン集”は、100種を超える。江戸時代、木版本の出版が盛んになり、小袖を仕立てるときの見本帳としてつくられた。総数は200種弱とされ、約半数がそろう最大級のコレクションだ。「小袖の流行をたどり、現存する小袖の制作時期を突き止める貴重な手がかり。びょうぶ絵に描かれた衣装や、美術工芸品の装飾を研究する参考にもなる」と、サントリー美術館の丹羽理恵子学芸員。
1831年創業の高島屋は江戸時代の大名家伝来のものを中心に能装束400点以上を所蔵。昨年、国立能楽堂で一般公開された。国立能楽堂の門脇幸恵主任は「能面の調査の際、能装束について問い合わせたところ、質量ともに傑出したコレクションと分かって驚いた。日本文化を継承していくうえで、百貨店の貢献は大きい。伝承してきた文化を発信してほしい」と話す。
興味深いのは、明治以降、美術家との交流によって集まった作品だ。海外輸出向けの染織品やタペストリー、斬新なデザインの着物をつくる際に、京都の新進気鋭の日本画家らに着目。京都に「画工室」とよばれたアトリエを開設。竹内栖鳳(せいほう)、都路華香(つじ・かこう)、津田青楓(せいふう)らが下絵(図案)の制作にいそしんだという。下絵の数は約千点にのぼる。
全体で5千点を超える美術品と資料を、大阪・日本橋の高島屋史料館(電話06・6632・9102)で保存、一部を公開している。しかし「評価・鑑定が不十分で、作者、由来が不明の作品もある」(同館)ため、京都女子大の廣田孝准教授の協力で、まず下絵の調査を8月から始めた。
松坂屋の掛谷誠三・京都業務染織デザイン研究所長は「呉服デザインの重要な資料として非公開にしてきた。時代が変わり、今後は公開する機会を増やしたい」と話している。(青山祥子)