フランス南西部のトゥールーズ市で開催されている現代美術祭「9月の春」(19日まで)を、仏外務省文化交流局の招待で取材した。42人の85作品を市内22カ所で見せる国際展。数百年前の建築物を文化資源として活用する自治体の試みや、自国の作家を外国に売り込む国家戦略など、アートと向き合う“姿勢”が印象に残った。(古賀太)
旧市立病院が展示会場の一つ。銃を並べたデルフィーヌ・リーストの作品は、人が近づくと、銃口がその人の方を向く。死と隣り合わせにさせられたような感覚が、暗い病院の中で浮かび上がる。
旧食肉工場を現代美術館に改装した建物も展示場。ファブリス・ジジの、鉄の滑り台のようなインスタレーション。奥にはバンサン・ラムルーの大きな風船が天井から下がる。失われた動物たちの“記憶”が立ち上がるようだ。
「忘れ去られた建築に潜む街の記憶を、アートを通じて呼び起こさせたかった」
同祭の芸術監督であるジュネーブ近現代美術館のクリスチャン・ベルナール館長は、そう語った。
旧食肉工場では、ほかにも興味深い光景を見た。ジョン・M・アームレーダーは展示にあたり、美術館の壁を極彩色に塗り替えていた。同館などの所蔵作品をそこへ展示、さらに現代美術を並置することで全体を“作品”にしていた。壁の活用も収蔵作の選択も作家任せ。使われた所蔵作にはルネサンス期のものもあった。
■政府が作家選び、海外に披露
もう一つ印象深かったのは仏政府の文化戦略だ。水門施設の跡に本物のバスを持ち込み、老女たちの歌を流す作品を発表したクロード・レベック。彼は今年6月の段階で早くも、来年6月のベネチア・ビエンナーレの仏代表に選ばれていた。今回の展示もそのお披露目を兼ねているという。
仏外務省の美術・建築部長のアラン・レノドーによると、仏では97年以降、政府の選定委員会が直接、代表作家を選ぶ。委員会がコミッショナーを選び、コミッショナーが作家を選ぶ方式をやめた。
「その方が、政府が売り出したい作家を選びやすい。実際ベネチアでは、97年のファブリス・イベールや05年のアネット・メサジェの国別金賞など、ほぼ2回に1回はフランス人が賞を取っている」
記者が招待されたのも、海外メディアに早めにレベックを紹介するためだった。
ちなみにベネチアの美術部門で、日本館は一度も金賞を取っていない。来年の日本代表の発表は今月16日。日本館コミッショナーの経験がある建畠晢・国立国際美術館長は「委員会が直接作家を選ぶより、数人のキュレーターに企画案を出させてコンペをする現在の形の方が日本にふさわしいとは思うが、選ぶ時期はもっと早くした方がいい」と語る。
「賞を取りに行く」ことはあまり重視されてこなかったようだが、一度正面から議論してはどうか。