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科学と宗教「心」に迫る 接点探る講演会

2008年10月24日15時40分

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 見て、聴いて、考えて、笑って、泣いて。そういう自分の本質が「心」。その心に、自然科学と宗教はそれぞれのアプローチで迫っている。両者の接点を探る講演会で、認知脳科学者の藤田一郎・大阪大教授と原始仏教が専門の佐々木閑(しずか)・花園大教授が対話した。この“出会い”を手がかりに、現代人の心のよりどころを考えた。

 東京・駒場で9月に開かれた講演会「科学と仏教の接点」(東京禅センターなど主催)。藤田さんは、人間は本当に「自分の意思」で物事を判断しているのだろうか、という問いかけをした。

 目から入った情報は、脳で処理されて初めて「見えた」ことになる。絵に描かれた明暗(光と影)の配置から人が凹凸を感じ取るように、脳は日常に即して情報を加工しており、見えたものは「現実」通りではない。複数の選択肢から一つを選ぶときに「一度でも見たものを、見たこと自体を忘れていても、知らず知らず選んでしまう」現象も分かってきた。

 そう説明して藤田さんは、こう語りかけた。

 「自ら判断し、行動しているつもりが、無意識に支配されている。確かだったはずの“自分”が揺らいでいます」

 続いて佐々木さんが、釈迦が2500年前につくった当時の仏教について話した。現存する最古の経典で、釈迦は「真理の探究」を熱心に説いているという。

 「自分」から見た主観的な世界は、錯覚でゆがんでいる。それが苦しみの根源だ。だから真の安らぎを得るには自分を中心におく発想をやめ、客観的な真実を見極めることが必要だと釈迦は説いた。「主観を排し、客観性を重視する姿勢は、まさに自然科学と同じです」

 会の後、2人に改めて聞いた。藤田さんは、こう振り返った。

 「私には若いころから合理性や科学的真実を最重視する傾向があり、心の糧としての宗教に興味を抱くことはありませんでした。なので、宗教の一つである仏教が科学と同じ『真理の探究』から生まれた、という話は印象的でした」

 佐々木さんも言う。

 「人間の精神活動の多くは錯覚から逃れがたい。科学もそう語り始めたことは心強い。釈迦の時代には出家して修行の末にやっと到達できた理解が、今は科学のおかげでスッと得られるのですから」

 現代人の苦悩と宗教について、佐々木さんはこう語った。

 「現代とは『自分という存在は絶対だ』という認識が揺らぎ始めた時代だと思います。他方、現代人は合理的な思考に親しんでいるため、多くの宗教が掲げる“救い主”の存在を信じにくくなってもいます」

 では、どうするか。佐々木さんは、仏教の起源にあった“合理性重視”の再発見に期待する。

 「自分を改造して錯覚を除こうと訴えた原始仏教は、『自己鍛錬システム』とでも呼ぶべきもの。過去の人々のように、無邪気に何かを信じられない現代人にこそ、科学の合理性とも齟齬(そご)のない釈迦の思想は意義があります」

 藤田さんは、この対話で少し自分が変わったという。

 「日ごろ合理性、論理性を第一に考え、行動しようとしていますが、里山で見かけた石仏に話しかけたりすることもあるのです。矛盾した行動で、自分でもよく解釈できていません。が、こころが温かくなる瞬間です。ただ、それを宗教と結びつけて考えたことはなかった」

 「合理的な思考と折り合える宗教もあるとわかった今は、ぬくもりを求めるこころの声にも注意深く耳を傾けてみようと思います。科学と宗教は相いれないと決めつけず、お互いを新鮮な目で見つめ直せば、長い間には新しい宗教観や科学観が生まれるかもしれません」(織井優佳)

■科学は自然の掌上でうろうろ 宇宙物理学者・池内了氏

 絶対者の神を信仰する西欧社会では、科学は神を否定しながら発展した。『物理学と神』(集英社新書)を書いた宇宙物理学者の池内了さんによれば、科学は自然界を動かす法則を追究し、神の領域をどんどん狭めてきた。それでも宇宙誕生の経緯など、まだ説明が見つからない分野は多い。

 「すべてわかったと思うと、その先にまた新たな地平が広がっている。その繰り返しで、大きな『自然』の掌(たなごころ)の上でうろうろしている感じ」と池内さんは話す。

 「その大きさを擬人化して“神”と呼ぶ人はいるが、自然を神が生んだと科学者は考えない。科学がもっとずっと進歩したら、現時点で棚上げしている説明もきっと可能になる、と私は思う。人類の滅亡には間に合わないかもしれないが」

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