インタビューに答える花村萬月さん=東京都千代田区、高波淳撮影
アウトサイダーと呼ばれる人々の生き方を通じて人間の本質に肉薄している作家、花村萬月さん(53)が、戦後の新宿を舞台にした全3巻の小説『ワルツ』(角川書店)を出した。わずかな報酬で組事務所の襲撃を請け負った元特攻隊員・城山龍治、朝鮮人であることを隠しながら自分が何者なのか問い続ける美青年・林敬元(イム・ギョンウォン)、暴行されそうになって疎開先から逃げてきた岡崎百合子。3人が繰り広げる生きる闘いは、すさまじく、そして切ない。(田中京子)
戦災孤児があふれ、カストリ焼酎を売る飲み屋が並ぶ新宿。城山が刀を右手にくくりつけ、野中組に殴り込みをかけるところから物語は始まる。館岡組の男から、わずかな金とたばこで頼まれたのだ。その場にいた全員を一人で屈服させた城山の強さはたちまち評判になる。
城山の襲撃した現場に居合わせた林は、賭場にいたものの、野中組とは距離を置いていた。城山と林は、館岡組の世話になることになった百合子と出会い、その色香にひかれる。
城山は慕ってきた元野中組の若者たちと組を組織、親子のような関係を結ぶ。百合子は自分を助けた館岡組の純代を姉と呼び仕える。林は危険を顧みず、米兵に襲われそうになった百合子を助ける。人と人をつなぐのは金銭でも立場でもなく、偽りのない相手を思う心だ。「戦争で家族関係が崩壊したからこそ、疑似家族のようなものに心を寄せる人が多かったはず」
濃密な性愛と暴力シーンも特徴だ。「暴力は悲しいコミュニケーションの形。肯定するわけではないが、ふるわざるを得ない人間の弱さにも目を向けたい」。性愛の場面からは登場人物の孤独が浮き彫りになる。「百合子が城山と林の両方に抱く欲望を隠さず書いたのは、女性賛歌のつもり。子どもを産む性の強さを描きたかった」
最近、近代も含む広い意味での「時代小説」を積極的に書いている。『ワルツ』もその一つ。近著『私の庭 蝦夷地篇』は幕末維新の北海道が舞台。現在は「問題小説」誌に「武蔵」を連載中だ。
いまは京都に暮らす。町内会の副会長として地域の行事にも参加しながら、1日10枚のペースで書き続けている。
「生を否定するのは簡単だが、肯定し続けるのは難しい。物語の結末では、苦しくても生きようとする人にご褒美をあげたかった。幻想かもしれないが、生きることの素晴らしさを伝えたい」