喜多ふあり氏
大阪の専門学校で映画を学んだ。
村上龍氏の小説に触発され、「映像が隆盛の今日、文章だけで映像に勝てたらすごい」と考えて小説を書き始めた。新人賞に応募する小説と、自分が楽しむための小説をほぼ半々、20作くらい書き上げ、初めて後者で応募してみたら文芸賞に選ばれた。「友人に『こっちを応募してみたら』と勧められたので。暗いものより、笑いの要素が強いものの方がよかったのだとわかりました」
受賞作『けちゃっぷ』(河出書房新社)は、自殺願望を語るニートの女性が、奇妙な映画撮影に巻き込まれる話。主人公は言葉をしゃべらず、思ったことをすかさずケータイでブログにアップ、それを読んだ男優が話しかけて会話が成立する。書き言葉と話し言葉による対話という手法を持ち込んだ小説だ。
「そういう試みの第一人者になったのかな。ブログでだけ表現する主人公が描きたくて、この文体が生まれました」
撮影現場では、純白のワンピースを着た、うつろな目の女性が血に染まってゆく。それがケチャップなのか血のりなのか本物の血なのか、主人公にはわからなくなってゆく。
「血のりは、ケチャップと血の間にあるもの。ブログもバーチャルと現実のはざまにあると思う。他者や世界との距離感が崩壊した人たちを描きたかった」
ペンネームは「あえて、こういう作風を選んで書いていることを伝えたくて、ふざけた名前にした」という。「『ふあり』なら女性だろうとの先入観を逆手に取って、読者を翻弄(ほんろう)する。そんな作家でありたい」(小山内伸)