2年目の「ミシュランガイド東京」の発売会見。中央が責任者ナレ氏。左は「ビバンダム」
優れた観光地を格付けする旅のガイド、「緑のミシュラン」の日本編(フランス語版)が3月に発売されるという。ところで、食のガイドである「赤いミシュラン」の東京版は、どうなったのか。
2年目の「ミシュランガイド東京」の売れ行きは1年目に比べて芳しくない。07年11月に日本に初上陸した時は、発売4日で初版12万部が売れ、増刷した15万部も年内にほぼ無くなった。最新版は最初から26万部を刷り、発売週こそ各書店で首位だったが、尻すぼみ。ある大手書店員の話では「去年の4分の1くらいかな」。
東京版のミシュランは2年続けて同じ批判を、メディアや食の評論家筋から受けた。「調査が不十分」「欧州版と違って高級店ばかり載せている」「写真が多い。その分、必要な情報が少ない」……。
編集責任者ジャンリュック・ナレ氏は、発売時に来日した際、「東京版を星付きの店に絞ったのは、最初に決めたこと」と話し、「安い店を探したければ他のガイドをどうぞ」とも言った。しかし、高級路線では、景気の急減速がこたえたことだろう。
欧州各国版のミシュランは星三つで様々な店を評価・掲載するが、星の無い店も数多く掲載し、得意料理や支払額の目安などの情報が付く。ミシュランの太っちょキャラクター、「ビバンダム」のマークが付く掲載店もあり、これは「お得な店」の目印。写真は使わず、的確な短文と豊富な記号で高級店から大衆店まで網羅するのがミシュランの長所だったはずだ。
「規格の違い」は、04年に責任者になったナレ氏の、グローバル化の方針による。05年、初のニューヨーク版ミシュランで写真を入れた。「読む欧州各国版」に対し、日米は「眺めるミシュラン」。写真で薄めた内容に馬鹿にされた――と思うのは私だけだろうか。写真の質も低く、料理がおいしそうではない。
昨秋にニューヨークの最新版が出た際、地元紙は「ミシュランとザガットは、評価の仕方が全く違うのに、選ぶ店は似通っている」と書いた。ザガットは米国で約30年続く食のガイドで、評価は一般投票だ。数人の覆面チームが評価するミシュランとは違う。なのに結果が似通うということは、ニューヨーカーはミシュランを見て、まずまず納得するのだろう。
さて、この不景気。もっぱら高級店の飲食ガイドを、大勢が手にとる日は、いつまた来るか。仏文学者の鹿島茂さんは09年版の発売後に言った。「日本人は番付好きでブランド好き。1年目は流行して当然。もう一つの日本人の特性は飽きやすさ。熱狂は続きません」
ナレ氏の口調には、ミシュランが「不変の方針」を権威の元としていることを感じた。それは、飽きやすい人には新味が無いと映る。その上に、間口を絞る高級路線。まさか撤退もあり得るだろうか。いや、パリをもしのぐ星の数を与えた都市を去るなら、食の権威に、これ以上のダメージは無い。(古賀太)