2009年6月16日10時42分
ベネディクト16世(右)と話すホーキング博士=昨年10月、ロイター
全国公開中の映画「天使と悪魔」(主演トム・ハンクス)は、世界10億人のカトリック信徒をたばねるバチカン(ローマ法王庁)が、何者かの攻撃にさらされる話だ。娯楽作品とはいえ、その背景にある「宗教と科学の緊張関係」は現実のものでもある。
バチカンのオッセルバトーレ・ロマーノ紙はこの映画を「無害なエンターテインメント」と評した。同じ原作者ダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」が映画化されたときは、バチカン高官が「根拠なき挑戦」と非難している。今回も不愉快だったはずだが、かなり抑えた印象だ。
筋書きは、カトリック教会に迫害されたガリレオ(1642年没)らと18世紀のある秘密結社を結びつける。それが現代によみがえったと思わせる設定で、虚実が交じる。ただ、地動説を唱える者が裁判にかけられたのは事実。ガリレオの正式な名誉回復は1992年になってからだ。
宗教は合理的な説明の及ばない領域を受け持つ。その権威を、科学の発展は突き崩しかねない。なかでも大きなテーマの一つは宇宙の始まりについて。理論物理学者ホーキング博士は著書「ホーキング、宇宙を語る」(早川書房)で、81年の故ヨハネ・パウロ2世との謁見(えっけん)時のエピソードを明かしている。
「法王は、ビッグバン以後の宇宙の進化を研究するのは大いに結構だが、ビッグバンそれ自体は探究してはならない、なぜならそれは創造の瞬間であり、したがって神の御業(みわざ)なのだから、と語った」
宇宙がある一点から始まったとするビッグバン理論は、バチカンにとって脅威ではない。それだけではまだ、宇宙の始まりには神がかかわったと言えるからだ。しかし「創造の瞬間」だけは譲れない。