2009年11月2日10時34分
外伝の巣守巻ではとみられる断簡。4行目に「中のきみはおとうとなれと」=池田和臣さん提供
「幻の写本」とされてきた源氏物語の大沢本。80年の空白を経た確認から1年、従来と異なる展開が書かれた部分が見つかった。さらに、54帖(じょう)の物語に続く謎の外伝「巣守巻(すもりのまき)」の一部と見られる断簡も出現。「古典中の古典」とされる名作の、豊かで多様な姿が見えてきた。
■大沢本 多様な展開映す
「写し間違えかな」
大沢本の蜻蛉巻(かげろうのまき)を読むうちに、伊井春樹・大阪大名誉教授は見慣れない展開にぶつかった。源氏物語を筆写した人物が、ページを飛ばして誤写したのだろうか。それなら過去にも見たことがあった。ところが物語はつながっていく。
全54帖の52番目に当たる蜻蛉巻は、薫と匂宮という2人の貴公子の間で悩んだ美女・浮舟が宇治の住まいから姿を消した翌朝から始まる。宇治へ向かう匂宮の従者、続いて浮舟の母君も。
ところが大沢本では、母君が先に宇治に着いているのだ。標準的な写本と異なる展開が22ページも続く。大沢本は主に、鎌倉―南北朝時代に作られたとされるが、蜻蛉巻は室町時代に補充して作られたとされる。
伊井さんの驚きの背景には、「古典中の古典」や「聖なる古典」とされる源氏物語の特別な歴史がある。
作者の紫式部による自筆本は現存していない。代わりに書写され、少しずつ内容が変化した様々な写本が伝承。鎌倉時代、藤原定家はそれらを整理、以後、研究が途切れることなく続いてきた。
見えてきたのは、源氏物語が多様に展開した可能性だ。中央大の池田和臣教授は「原文を尊重して一字一句忠実に書き写さなければいけないという考えは、平安時代の人たちにはなかった。物語とは自分で好きなように書き換えるもので、源氏物語も例外ではなかった」というのだ。