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老剣士が問う、生死の意味 新選組3部作完結、浅田次郎さん

2011年1月25日15時7分

写真:浅田次郎さん=門間新弥撮影拡大浅田次郎さん=門間新弥撮影

 作家・浅田次郎さん(59)の新選組3部作が『一刀斎夢録』(文芸春秋)で完結した。明治から大正に時代が変わるなか、70歳近くなった元新選組三番隊長の斎藤一(はじめ)が、若き剣士に幕末から西南戦争に至る自らの体験を伝える。多くの命を奪い、戦場では悪鬼のようであった剣士が語る物語でありながら、成長小説の味わいを持ち、生死の意味を問いかけていく。

    ◇

 老剣士は坂本龍馬を殺害した記憶から語り始める。居合の達人である斎藤が龍馬の額を横なぎに斬り、その後、見廻(みまわり)組がとどめを刺した……。「龍馬暗殺の実行犯は京都見廻組という説が有力ですが、こうであっても不思議ではないだろうという仮説です。諸説がいまだにあるのは事実が隠されているからではないでしょうか」

 斎藤一はマンガ『るろうに剣心』の敵役として若い世代に人気があるが、小説ではあまり描かれてこなかった。「沖田総司や土方歳三のように固まったイメージがなく、『壬生義士伝』や『輪違屋糸里』を書いたときからこの無口で偏屈な斎藤を主人公にしたいと思っていました。ニヒルな剣豪というだけではなく、剣にも表れているように合理的なものの考え方をする人だったと思います」

 その合理的な目には、西南戦争は日本の近代化に備えた軍隊の大演習をした芝居と映る。「自衛隊にいたとき何度も聞かされた行進曲『抜刀隊』の歌詞を知ったときには驚きました。西郷隆盛を朝敵ながら古今無双の英雄とうたっているのです。同時代でもその歌詞に込められた意味を見抜く人はいたはずです」

 武士の世の価値観を貫いて生きた斎藤の話を聞く近衛師団の梶原中尉は、明治から大正という時代の変化に戸惑っている。歴史を単純化せず、そこで生きる人々の姿からこまやかに描くスタイルは、昨年のベストセラー『終わらざる夏』にも通じる。「ここ数作、自衛隊にいた経験が生きる小説が続きました。軍隊もまた究極の合理性を求める場で、そこからは政治や社会の非合理性が見えてきます」

 そんな浅田史観が存分に展開されながら、昔ながらのチャンバラ小説好きもうならせる。「最近はゲームのように人がばたばた死ぬ小説が多い。斎藤が100人を斬り殺すのを描くにしても、そこに死生観や哲学を込めて描きたかった」

 斎藤はお気に入りの日本酒を飲みながら、7夜にわたり梶原に語り続ける。酒の味が伝わってきそうな語り芸になっているが、実は浅田さんは一滴も飲まない。「飲まないからこそ観察する時間がたっぷりあって、酔っぱらいが分かるのです」(加藤修)

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