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官軍の側の史観に異議 佐々木譲さん「婢伝五稜郭」刊行

2011年2月19日10時20分

写真:佐々木譲さん拡大佐々木譲さん

 幕末から明治へと向かう大変革期、官軍と旧幕府軍による戦いの最終場面を迎えた箱館五稜郭。榎本武揚率いる旧幕府軍が降伏したのちも「共和国建設」の夢を追って戦う残党を描いた佐々木譲さんの『五稜郭残党伝』『北辰群盗録』に続く『婢伝(ひでん)五稜郭』(朝日新聞出版)が刊行され、「五稜郭」三部作が完結した。「官軍の側から書かれた歴史に対して、異議申し立てができた」という佐々木さんに聞いた。

    ◇

 冒頭、官軍は箱館病院分院を襲う。ベッドに伏せる傷病兵ばかりか、医師すらも惨殺する。佐々木さんは史実に基づいて書いたという。

 「これまで五稜郭シリーズで、官軍史観におずおずと異議を唱えてきたが、今回ははっきりと虐殺の場面を描き、官軍のやったことを示したかった」

 西洋医学を学び、医師を手伝う志乃の目前で彼女の思い慕う青年医師が殺され、「戦う女」へと変身していく。戦う女性を主人公に据えたのは「観念で戦う男たちと生活実感で戦う女性とを対比したかったから。明治初期の北海道で、具体的に医学という専門性を生かしてアイヌの人たちの力になれる主人公を設定した」。

 青年医師を惨殺した官軍兵への復讐(ふくしゅう)を果たし、追われる身となった志乃が出会うのが榎本軍の残党、三枝弁次郎。共和国建設の夢を捨てきれない三枝と居場所を失った志乃は、迫る官軍と激しく戦いながら、北海道の奥へ奥へと逃げ続ける。途中、迫害されるアイヌの人たちの厳しい現状を知る。

 ともに戦い、心通わせる二人だが、共和国建設という夢に生きる三枝と、今ここで苦しむ人たちを救うことこそが共和国建設だと思い至る志乃。二人の切なくもさわやかなラストが用意されている。

 「五稜郭」三部作は、箱館戦争終結後の後日談にあたる。それに先立つ物語を佐々木さんは『武揚伝』として著している。一連の作品群は、明治維新を別の角度から浮かび上がらせてもいる。

 「明治維新が薩摩長州の視点でしか書かれていないのに疑問があった。幕府と朝廷の対立が前近代と近代の対立のように語られることもあるが、単に日本の西と東の内戦の側面もあった。西の人と東の人ではみえるものが違う。北海道から見ればもっと違う。書いてみて、ぜんぜん違う歴史があるじゃないかとわかった」という。

 「五稜郭」三部作は完結したが、「海軍の残党の話はいずれ書きたい。明治政府側からみれば海賊だが、自らは共和国海軍との思いで戦いを挑んだ男たちの物語です」と話している。(都築和人)

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