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2012年3月7日10時43分
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〈はじめての古事記〉神々の愛憎 壮大な冒険

図:はじめての古事記拡大はじめての古事記

 今年、完成から1300年を迎えた「古事記」。国の成り立ちを巡る神々の物語は色あせぬ魅力に満ち、「最古の歴史書」としては今なお多くの謎を抱えている。

■日本最古の歴史書

 「古事記」の成立は序文によれば、天武天皇が命じ稗田阿礼(ひえだのあれ)が暗記した伝承や天皇の系譜を、太安万侶(おおのやすまろ)が書き記して712年、元明天皇に奏上したとされる。

 天地創成から推古天皇の時代までが記録され、よく知られるイザナキ・イザナミの「国生み」やアマテラスの「天の岩戸」伝説などの神話、ヤマトタケルの物語などが中巻までに収められている。

 日本最古の歴史書とされるが、国史としては「日本書紀」が正統とされ、江戸時代に本居宣長が「古事記伝」を著すまで、歴史の表舞台から忘れられた存在だった。正史に記述がないことなどから、偽書説も有力だったという。逆に明治以降は、両者を「記紀」として一体に扱うようになる。神話も含め歴史として学校でも教えられ、皇国史観を支えた。戦後はその反動もあり、教育現場で取り上げられる機会が激減するなど、数奇な運命をたどっている。

■支配者より敗者に肩入れ

 古事記も日本書紀も、天皇が編纂(へんさん)を命じたとされ、律令国家制度強化のために、天皇の正統性を確立する目的があったと考えられる。しかし、実は両者は大きく異なる。

 日本書紀は当時、東アジアの盟主であった中国の歴史書を手本に漢文で書かれ、古事記は漢文と日本語の音に合わせた変体漢文が交じっている。佛教大学の斎藤英喜教授は「日本書紀は、国際的に通用するグローバルな文書。古事記はローカリズムを強調した国内向けの書物の性格が強い」と語る。

 内容も、古事記ではアマテラスに国譲りを迫られるオオクニヌシのエピソードなど、出雲神話が大きなウエートを占めるが、日本書紀にはあまり登場しない。敗者の側に肩入れしたような記述が多く、支配者側の正統性を示す文書としては矛盾する部分も多い。本文の仮名遣いの分析などから、古事記が日本書紀以前に書かれたことは確実視されており、天皇が命じたとする序文だけが、後に付け加えられたと考える立正大学の三浦佑之教授の説などもある。

■ミステリー的な面白さ

 古事記が歴史の波間に消えずに伝えられてきたのはなぜか。最大の理由は「物語の面白さ」だとされる。語り継がれた古層の物語が持つ力。試練を経て成長する神々が繰り広げる愛と憎しみ。壮大なスペクタクルとファンタジーは現代人をも引きつけてやまない。

 文学や歴史学、神話学といった専門分野だけなく、丸山真男や吉本隆明といった思想家も、近代の問い直しの中から古事記に言及している。ユング心理学や構造主義からのアプローチ、マンガやアニメ、ゲームなどサブカルチャーへの引用も多い。何より、読めば誰でも世界の神話との類似性や史実との関連など、あれこれ推理したくなるミステリー的な面白さがある。イデオロギーのくびきから離れ、自由に語ることのできる現代こそ、古事記にとって幸せな時代なのかもしれない。(山内浩司)

〈読む〉

 岩波、講談社学術、角川ソフィアの各文庫が入手しやすい。作家の訳では石川淳(ちくま文庫)、福永武彦(河出文庫)などがある。個性的な訳では『口語訳古事記』(三浦佑之訳・注釈、文春文庫)も。

〈見る〉

 五月女ケイ子『レッツ!!古事記』(講談社)、こうの史代「ぼおるぺん古事記」(ウェブ平凡で連載中)はユニークなイラスト。手塚治虫、諸星大二郎、星野之宣、安彦良和らも漫画作品で取り上げている。

〈訪ねる〉

 出雲神話の舞台、島根県では「神話博しまね」(7月21日〜11月11日)。奈良国立博物館では6月16日から特別陳列「古事記の歩んできた道」も。ゆかりの地を持つ自治体はウェブサイトで情報発信している。

■試練を克服、日本人の原点 俳優・浅野温子さん

 2003年から古事記を脚色した「浅野温子 よみ語り」の舞台を各地の神社で続けています。

 お恥ずかしい話ですが、最初は「因幡の白うさぎ」や「ヤマタノオロチ」が古事記のお話だということも知りませんでした。様々な形で自然と、生活の中で伝えられてきていたことに驚きました。

 ゼロから勉強していくうちに、古事記は日本人の喜怒哀楽がぎっしりと詰まった、あらゆる文芸・物語のルーツなのだと思うようになりました。登場する神さまたちも天衣無縫でストレート。親子の愛情や夫婦の絆を真っ向から豊かに描く。愛(いと)しいから愛しいとぬけぬけと言ってしまうようなところがすてきです。“胸キュン”の物語も多く、試練を乗り越え成長していく姿にも胸を打たれる。古代の日本人が持っていた自由な想像力のすごさを感じます。

 昨年起きた大震災から立ち上がる人々の姿にも、古事記の世界が重なりました。こんなにもおおらかで、しなやかで、よみがえりの精神に満ちた物語を風化させてはいけない。日本人の原点として、残していかなければいけないという思いで演じています。

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