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2012年6月7日10時29分
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「劇場法案」増えるか自主事業 借り手の反発必至

写真:東京文化会館拡大東京文化会館

写真:月見の里学遊館で上演された市民参加劇「ゴリ押し結婚」=2009年拡大月見の里学遊館で上演された市民参加劇「ゴリ押し結婚」=2009年

 「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律案」(劇場法案)の国会提出の準備が進んでいる。劇場を舞台芸術発信や人材育成の拠点、そして地域の「新しい広場」にすると位置づけるが、法案が描く理想と現状の間には深い溝がある。

     ◇

 法案は、美術館のような根拠法がなかった劇場や音楽堂に法的裏付けを持たせ、国や自治体が環境整備のために予算確保などで努めるよう促すことが柱だ。また、専属の劇団や楽団が創造発信する欧米型に近づけようと、運営者に自主事業を通じた芸術水準の向上を求めている。

 現状は、全国で2千カ所近い劇場やホールのほとんどは自治体の施設。公会堂に源流を持ち、ジャンルを問わずに施設を貸す「貸館」が主体で、催しの中身は借り主任せが長く続いている。これを改める狙いだ。

■支えは興行主や芸術団体

 この方針に頭を痛めているのが、東京文化会館だ。

 1961年の開館以来、米国メトロポリタン・オペラ、ロシアのボリショイ・バレエなど一流どころがしのぎを削ってきたが、多くは場所貸しだ。昨年度の668公演中、自主事業は96公演。興行主や芸術団体が支えてきた、いわば「日本一演目の豪華な貸館施設」なのだ。

 法制定をにらみ自主事業を段階的に増やす方向だが、毎年の稼働率はほぼ100%。ただでさえ狭き門を絞れば借り手の反発は必至だ。松本辰明副館長は「4、5年先まで埋まる予約を押しのけてまで自主事業は増やせない。創造発信強化のための増員も財政面などで厳しい」とこぼす。

■地元住民の理解カギ

 自主事業を増やしさえすればいいとも言えない。法案にいう「新しい広場」をめざしながらつまずいたのが、静岡県袋井市が2001年に開館した「月見の里学遊館」だ。

 芸術文化の体験プログラムを軸にした自主事業を、市民グループを加えて運営する点が画期的だった。市民参加によるモリエールの演劇「ゴリ押し結婚」やドイツの合唱団による障害者向けワークショップ、不登校の子向けの出前公演など年間40〜50件。年間予算1億6千万円の小規模施設としては積極的だった。

 ただ、先進性が市民全体に広く受けいれられたとは言い難い。「本来巻き込むべきだった地元文化団体を、事業の質確保を理由に運営側が事実上締め出し、溝が深まった」(関係者)。今年3月、事業を主導した事務局長と企画担当職員らが退職。4月に就任した根津幸久館長は「ワークショップは続ける」と語るが専門職員はおらず、今年度の事業計画も固まっていない。

 法案は、施策実施にあたり「国民の理解を求めるよう努める」とするが、施策以前に劇場の存在自体に疑問符がつくこともある。

 サンポートホール高松(高松市)は市が256億円を投じ04年に開館。1500席の大ホール、300席規模の小ホール二つがあるが、大規模イベントは少ない。昨年、公認会計士の包括外部監査で「修繕時にホール機能を全て維持する必要があるのか」とされた。

 運営する市文化芸術財団の八木祐之・事業グループディレクターは発信力強化のため、今年度は地元の大学と提携する演劇ワークショップなど、裾野を広げる事業に力を入れる。

 劇場やホールの利用者の支持だけを多額の公的支援の根拠にするのは財政面などから難しい。八木さんは言う。「劇場に来ない市民が納得してくれる存在にならないと、10年先はない」(星野学、木村尚貴)

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