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2012年6月9日10時57分
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木版画、多彩な情景 東京と岩手で展覧会

写真:浅野竹二「疏水風景」(1929年ごろ 木版・紙 個人蔵)拡大浅野竹二「疏水風景」(1929年ごろ 木版・紙 個人蔵)

写真:萬鉄五郎「芸術座の人」(1913年ごろ 木版・紙 岩手県立美術館蔵)拡大萬鉄五郎「芸術座の人」(1913年ごろ 木版・紙 岩手県立美術館蔵)

 自分で絵を描き、木の板を彫り、ばれんを使って刷る。小学校の図工の時間や手作り年賀状。誰でも一度は木版画を作ったことがあるだろう。その多様な表現を紹介する展覧会が、東京と岩手で開催中だ。身近さゆえに見過ごされがちな、精密かつ高度な手の技にも目を向けさせる。

■ほのぼの色彩/紙の凹凸で効果

 「創作(木)版画」が生まれたのは明治末期。一人の作家が描き・彫り・刷る方式は、絵師・彫師・摺師(すりし)の分業制をとる浮世絵に相対するものだった。版画職人として修業した後、東京美術学校に学んだ山本鼎(かなえ)らが運動の中心となり、大正から昭和初期に盛んとなる。

 東京都府中市の市美術館で7月1日まで開催中の「イメージの叫び パワー・オブ・創作木版画」は、大正から現代までの作家56人を158点で紹介する。

 作品を年代順ではなく「静けさ」「幻想」といった切り口ごとに展示する。

 ベン・シャーンが称賛したという浅野竹二の切り口は「ゆかい」。「疏水風景」は簡素な造形と豊かな色彩で、ほのぼのした味わいを醸す。色数を抑えた「親鳥と雛(ひな)たち」「老婆」では一転、鋭い線が瞬間を切り取る。

 見せ方もユニークだ。「親しみを持って見てほしい」と、ほぼ全ての作品をガラスケースや額に入れずに「生」で展示。鑑賞者はマスク着用が必須だ。

 飯野農夫也(のぶや)「竹林」(1968年ごろ)に目を近づけると、でこぼこに気づく。作家が刷る前に紙をもんだためだ。重ねた灰色の版の効果とあいまって、吹きぬける風が見えるようだ。

 漆黒の背景に気品漂う、日本画家・麻田辨次(べんじ)の「アイリス」(36年)、版画と思えぬほどの重量感がある馬淵聖(とおる)の「くさや」(53年)――。技術は高く多彩だ。

 木版画の力とは何か。同美術館の志賀秀孝学芸係長は「俳句に通じる情景の切り出しのうまさ、ウイット」。日本独自の表現として、もっと評価すべきだという。「こういう時代だからこそ、木版画の持つアットホームなものが伝わってきます」

■時代感じさせないポップさも

 岩手県花巻市の萬(よろず)鉄五郎記念美術館で8月26日まで開催中の木版画展は、創作版画運動の一地域での展開をたどる企画だ。

 6月24日までの第1部では、花巻出身の萬鉄五郎を岩手の創作版画の源流と位置づける。フォービスムを採り入れた油彩などで知られる萬は、1919年の日本創作版画協会第1回展に「坂」を出品するなど木版画への関心も高かったようだ。盛岡での展覧会に、版画を出したとの記録もある。

 同構図の油彩がある「太陽と道」(12年ごろ)、裸婦を題材とした晩年の作品などは、作家研究の上でも興味深いだろう。

 「体操」(48年)の構成に優れたデザイン感覚をみせる萩原吉二、ポップな表現にも挑戦した舞田文雄、独特な文字が印象的な高橋忠彌。昭和初期から盛岡を拠点に活動してきた彼らの作品は、時代を感じさせない。

 現在、全国的には「有名」とは言い難い彼ら。その活動の力強さが、創作版画の裾野の広さと奥深さを物語る。(増田愛子)

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