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2012年6月27日10時23分
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禁酒、文化かため息か 古今東西、繰り返す葛藤

写真:夕暮れ時、福岡市庁舎(奥の中央)の近くで店を構える屋台=福岡市中央区拡大夕暮れ時、福岡市庁舎(奥の中央)の近くで店を構える屋台=福岡市中央区

表:各国の禁酒をめぐる動きの例拡大各国の禁酒をめぐる動きの例

 酒を飲むなという命令、のめますか? 福岡市長が市職員に1カ月間は自宅外で飲酒しないよう求めた「禁酒令」が21日午前0時で終わった。欲望を封じることでもたらされるものは。禁酒は文化かため息か。話の肴(さかな)にしてみよう。

    ◇

 酒を飲ませまいとする動きは古今東西に限りない。日本では1252年、鎌倉幕府が酒の売買を禁じた。明治時代にはキリスト教の布教を目的とした禁酒運動が起き、1922年に未成年者飲酒禁止法ができた。

 運動の象徴として建てられた遺産が岡山市にある。その名も岡山禁酒会館。23年築の木造3階建てに、アルコールは入れない。

 会館の川口慶行理事長が「つきあいで酒を飲むことはある」と言うように、急進的な活動家のとりでというより、酒をやめたい人を支援するのが主な目的。現在は月2回、別の禁酒団体が酒をやめたい人の相談に応じている程度だが、川口理事長は「酒で道を誤る人はいまもいる。啓蒙(けいもう)運動は必要」と話す。

 国立歴史民俗博物館の青木隆浩准教授によると、一般的に酒に対する規制の動きは飲酒量が増える時期と連動する。明治初期は酒造が自由化。酒を飲んで暴力を振るう男の記事が新聞に載った。1980年代は各社の新製品開発による「ビール戦争」が起き、大学生らの一気飲みが社会問題になった。

 酒を飲む人が減ったことが厳罰化の背景にある、と青木准教授はみる。「発言権が弱くなり、飲む側の論理が出なくなっている」

    ◇

 落語家の桂平治さん(44)は、世知辛さを感じる。「昔はもっと酔っぱらった人がいましたよね。駅のベンチに横になる人とか、お土産持って千鳥足の人とか」

 得意ネタ「禁酒番屋」では、宴席での刃傷沙汰で家臣を失った殿様が、禁酒を命じる。屋敷への酒の持ち込みを取り締まるために番屋を建てるが……。

 「家臣は『代々仕えてきたお殿様のため』に禁酒しても、市長は代わる」。早ければ4年で交代する主君に、職員はどこまで忠誠を誓うか、不満が爆発しないか注目という。ちなみに、禁酒令の間に外で飲んだのが発覚した職員は1人だけだそうだ。

 道路交通法でいうと、酒に酔った状態とは「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」を指す。まんじゅうを食べ過ぎて思慮を無くすことはない――とは、酒の咄(はなし)で使われる冗談だ。

    ◇

 福岡市職員でもある詩人の松本圭二さん(46)は5月末、東京の編集者と食事をした際、禁酒令に付き合ってもらった。気を使わせてしまったと感じる一方で、「職員以外も、禁酒ってどういうことかと考える機会になる」とも思った。

 酒どころがあり、海や山の幸も豊富。酒と切り離せない文化がある福岡だからこそ、禁酒令は「酒との付き合い方を考えるよう、職員に問うていると思う」。

 最近、酒を断つ効能を覚えた。小説を書くようになり、酒を控えることが増えた。「酒なしで思索を深める時間が欲しくなった。欲望に流されるのを断つ経験をすると、新たな創造性が出てくる」という。

 太宰治は「禁酒の心」という作品で「なすあるところの人物は、今日此際(このさい)、断じて酒杯を粉砕すべきである」とつづった。酒飲みだってたまには飲まないのもいいもんだと、薄々わかっている。たとえ誰かの無理強いでも、酒のない暮らしは、人を物思いで酔わせるようで。(井上秀樹)

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