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2012年6月28日10時45分
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世界の今、映す想像力 独・現代美術館「ドクメンタ」

写真:大竹伸朗の作品「モンシェリー」拡大大竹伸朗の作品「モンシェリー」

写真:マリアム・ガニの映像作品。カッセルとカブールの二つの建築の内部をさまよう拡大マリアム・ガニの映像作品。カッセルとカブールの二つの建築の内部をさまよう

 世界最大規模の国際現代美術展「ドクメンタ」の第13回展が、ドイツ中部の都市カッセルで開かれている(9月16日まで)。1955年からほぼ5年に1度開催され、現代美術の動向を映してきた。今回は、経済格差が広がり、中東などで政治的な抑圧が続く世界の現状に関心を寄せ、想像力をはばたかせる展示が目をひく。

 木立の中にカラフルな小屋が立つ。童話の家のようだが、近づくと廃棄物のコラージュとわかる。内部に設置されたギターが不穏なノイズをかき鳴らし、屋根からは間欠的に水蒸気がたちのぼる。傍らの高さ20メートルを超す樹木には6隻のボートが載り、東日本大震災と原発事故を想起させる。日本から参加した大竹伸朗の展示だ。

 第2次大戦中、爆撃で市街が破壊された歴史をもつカッセルは、同時にナチスによるユダヤ人迫害の記憶もとどめる。その街で芸術による復興を掲げて始まったのがドクメンタ。60年近くを経た現在も初発の志は受け継がれている。

 「芸術家の想像力は政治、経済などあらゆる角度から世界を把握することに貢献できる」と、今回の芸術監督を務めるキャロライン・クリストフ・バカルギエフさんは語る。経済格差や戦争から農業の破壊、生物多様性の問題などに言及し、「人々のライフ(生命、生活)が危機にさらされているが、彼らを孤立させない」と世界の現状に関与する意思を表明した。

 美術館や駅舎、公園などを会場に、物故者を含めて190組を超す作家が出展する。出身地域では欧米以外の作家が約4割を占める。以前から「非西洋化」は顕著だが、今回はアフガニスタンの作家や学生と協力し、カブールに設けたサテライト会場(7月19日まで)でも展示するという試みにも取り組んでいる。

 例えば、米国出身でカブールも活動拠点とするマリアム・ガニ。戦災から復興したカッセルの美術館と戦乱によって廃虚と化したカブール近郊の洋風宮殿の内部を撮影し、その映像をシャッフルして2面スクリーンで上映する。美麗な美術館と無残な宮殿を旅するかのような映像から、類似性と差異、破壊の暴力と再建への希望が浮かび上がる。この作品はカブールでも展示されるという。

 「アラブの春」以降も政治的混乱が続く中東から参加した作家も目を引く。その一人、ベイルート在住で劇作家としても知られるラビア・ムルエは「銃撃」をテーマに展示を構成した。作品の一つは、シリアの民主化運動が治安当局と衝突した際に撮影された記録など銃撃の瞬間の映像を一こまずつ印刷した冊子。その映像の音声だけが流され、それに合わせてパラパラ漫画のように見る仕組みだ。最後に銃声が響きわたり、射殺の現場に居合わせたような感覚にとらわれる。

 出展作家や企画アドバイザーには科学者や哲学者らも交じる。開幕までに彼らの言葉をまとめた小冊子100点を刊行したことも、芸術と広範な知を連携させる意思の表れだろう。量子力学や生態学など自然科学系の展示も交じるが、視覚表現としては疑問が残るものもある。だが、総体として世界の現状を見はるかす視座は、各地の国際美術展の中でも一頭地を抜いているのではないか。(カッセル〈独〉=西岡一正)

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