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2012年7月6日10時24分
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「暗黒の戦前」史料で挑む 井上寿一・学習院大学教授の「昭和史3部作」

写真:井上寿一・学習院大教授=麻生健撮影拡大井上寿一・学習院大教授=麻生健撮影

 戦前の昭和史を社会、外交、政治の三つの観点ごとに描く井上寿一(としかず)・学習院大教授の「昭和史3部作」が完結した。執筆は3冊同時進行。あえて難行苦行を試みたのは「複雑な戦前昭和史は一つの観点ではとらえきれない。三つなら姿が見えてくるのではないか」と考えたからという。

 社会の著作が『戦前昭和の社会 1926―1945』(講談社現代新書)。外交は『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書)。政治は『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ)。出版社側の都合もあり、刊行はそれぞれ昨年3月、昨年5月、今年5月となった。

 本来の専攻は戦前の外交史。これまでも『日中戦争下の日本』(講談社選書メチエ)や『昭和史の逆説』(新潮新書)など、戦前昭和史の著作がある。

 「外交史の研究では、日米開戦は直前まで回避の可能性があったことが分かっています。ではなぜ戦争になったのか。外交史だけでは納得できないと言われてしまう。そこで社会史や政治史に手を広げました」

 書いていて筆が乗ったのは『社会』だという。戦後同様の豊かさに危うさが潜む日常を再現した。エピソードが興味深い。富裕層向け女性誌で洋画家の藤田嗣治が防空演習向きのモンペを勧めるかと思えば、パーティーでヒトラーに扮するのは政治家の近衛文麿だ。

 アメリカに憧れた戦前の消費社会は、格差を生む。その是正のために大衆はラジオなどの新メディアを通して近衛というカリスマを求め、戦争につながったというのが全体の構図だ。

 『グローバリズム』は、1931年の満州事変以後も日本は国際協調や自由貿易を模索し、30年代は日本にとって「世界が最も広がった時代」だったと説く。 『国家構想』は、社会主義、議会主義、農本主義、国家社会主義(革新官僚の統制)の四つの思想が、順に挫折していく政治過程を描いた。「どれも未完に終わったので、戦後すぐに復活するわけです」

 3部作に共通するのは、「暗黒の戦前」という通念に挑む姿勢だ。「過去を断罪も美化もせず、素朴に史料を読み、戦前の試行錯誤を読者が追体験できるようにしました。ただ、研究者は通説を覆すのが仕事ではないでしょうか。異なる主張が現れて議論が深まれば、より立体的な歴史像がつくられるはずです」

(編集委員・村山正司)

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