現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. ニュース
  3. 文化
  4. トピックス
  5. 記事
2012年7月7日11時47分
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

隕石の視点で見てみよう 独の現代美術展「ドクメンタ」

写真:2面スクリーンに投影される文敬媛&全濬晧(韓国)の映像作品拡大2面スクリーンに投影される文敬媛&全濬晧(韓国)の映像作品

写真:トマス・バイルレ(独)の展示空間拡大トマス・バイルレ(独)の展示空間

写真:巨大な盆栽を思わせる宋冬(中国)の作品拡大巨大な盆栽を思わせる宋冬(中国)の作品

写真:ウィリアム・ケントリッジ(南アフリカ)の映像。影絵が行進する場面拡大ウィリアム・ケントリッジ(南アフリカ)の映像。影絵が行進する場面

写真:廃棄物で構築したララ・ファバレット(イタリア)の展示拡大廃棄物で構築したララ・ファバレット(イタリア)の展示

 現代美術はいま、何を表現しているのか。その動向を探る国際展「ドクメンタ」の第13回展がドイツ中部の都市カッセルで開かれている(9月16日まで)。経済格差や「アラブの春」など、世界の現実を色濃く反映した作品が目を引く一方、多文化主義的なアプローチで、戦後の歴史を問い直し、未来へ想像力を羽ばたかせる秀作も目立った。

 ドクメンタはほぼ5年に1度、美術館や公園、駅舎などを会場にして開かれ、1人の芸術監督が全体の指揮をとる。今回の芸術監督は米国出身のキャロライン・クリストフ・バカルギエフ。「国際美術展によってカッセルとドイツは民主的な社会を再建した」と語り、現代美術の枠を超えた方向性を打ち出した。

 それを象徴するのが、現代美術の作品とともに主会場の美術館に展示された、先史時代の石像群。同芸術監督は、開幕に先立つ記者発表で、南米から隕石(いんせき)を運んで展示するプロジェクトが頓挫した事実を明かしつつ、「世界を隕石の視点から見ること」を呼びかけた。人間の尺度を超える時空間への想像力を作家と鑑賞者双方に求めた、といえるだろう。

 それに応えるかのように、文敬媛(ムン・ギョンウォン)&全濬晧(チョン・ジュンホ)(韓国)は、未来に想像をはせて、世界の終末を目撃する芸術家と、荒廃した未来に生きる女性という2人の物語を描く映像を発表。被災地向けの集合住宅を提案する建築家・伊東豊雄やデザイン集団takram(タクラム)、ファッションデザイナー津村耕佑ら日本勢も協力し、「未来から現在を見る」(全)深遠でスタイリッシュな映像を創出した。

 トマス・バイルレ(独)は、奇妙な形のエンジンが祈りのような音を発する立体などで、戦後の産業社会を寓意(ぐうい)化。公園に積み上げた生ゴミがやがて植物に覆われて巨大な盆栽に化す、宋冬(ソン・ドン)(中国)の作品は、人間の行為と無為、自然との関係へと想像を促す。

 国際現代美術展の「常連作家」も力作を発表している。

 ジャネット・カーディフ(カナダ)はジョージ・ビュレス・ミラー(同)とともに、駅構内をさまようかのような映像を制作。鑑賞者はその映像を記録したiPodとヘッドホンを身につけ、音声の指示に従って駅構内を歩く。ユダヤ人迫害の歴史や作家の個人的な悪夢などが語られ、映像と現実が融合する感覚に陥る。

 手描きアニメーションなどで知られるウィリアム・ケントリッジ(南アフリカ)は、古い建物の一室で実写とアニメーションなどが入り交じる映像を壁面に投影。疲弊し重荷を背負った人々の影絵が延々と行進する場面には、困難な現実にあってなお歩みを止めない民衆への共感をにじませる。ベテラン作家の集大成的な展示といっていい。

 ゴミか芸術か。開幕前から論議を呼んだ作品がある。大量の金属廃棄物で構築した、ララ・ファバレット(伊)の展示だ。カッセルにはかつて兵器工場があり、そのため連合国側の爆撃で市街が破壊された。その歴史を想起させる。

 ドクメンタは芸術による戦後復興を掲げて1955年に始まった。第2次世界大戦という巨大な破壊から約70年。世界の復興はなったのか。世界は新たな破壊、またはその予兆に満ちているのではないか。戦後の歴史と世界の現状を見つめる多くの作品が、そうした問いを放っている。(西岡一正)

PR情報
検索フォーム


朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介