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古典的で新しい冒険 尾上菊之助

2007年06月29日15時53分

 花の中の花として、女形と立ち役を行き来する。

写真歌舞伎役者の尾上菊之助さん

 声を聞いていただきたい。

 鈴が鳴るようで、強い。りりしい男声にして、なまめいた女声が同居する。しかも、しわがれにくい。「のどは強いほうかもしれません。役の説得力は、男女両方の声を勉強する中で出てくるのでは」

 28日まで福岡市で再演されていた「NINAGAWA 十二夜」。来月は東京に巡る。男装女性の登場で恋の三角関係が生じるシェークスピア喜劇を歌舞伎化した作品だ。演じるのは男装の女形と双子の兄の立ち役。05年初演時、男装の女形芸に苦闘した。声も縮み上がった。

 「完全を求めてしまうところがあって。計算して男女の声を使い分けたのですが、窮屈でした。シェークスピアを意識しすぎて、現代劇に近く演じようともしてしまった」

 再演ゆえの安心感が余裕を生み、冒険へと踏み出させた。

 「あいまいであやうい形のほうがおもしろく自由で、お客さんと一体化できる気がします。今回は、せりふ回しも歌舞伎に引き寄せ、球技のパスのようにポンポン進めています。声も、ボリュームのつまみを動かすように自在に出してみました」

 踊りの場面も、劇の内容に関連づけて改作した。「三角関係を表現し、自分の役の恋のはかなさもにじませたい」。「京鹿子娘道成寺」などを連想させる所作。冒険は、あくまで古典的だ。「『古典でありつつ、新しい』という境地を追究しています。即席の型は、時間がたつとどうしても腐るので」

 目も、見ていただきたい。

 何かを清純に訴えてくる。時折、色気と憂いが兆す。中田秀夫監督の初主演映画「怪談」で、この目がものをいうのだ。原作は三遊亭円朝の「真景累(しんけいかさね)ケ淵(ふち)」。自ら演じる新吉と富本節師匠・豊志賀の逃れがたい宿業の恋をホラー風に描く。

 前半、黒木瞳が演じる豊志賀と出会う場面がある。「『禁断の出会い』を、目の演技やせりふで表現せよと要求されて、難しかったです」。映画は「自分にあるものしか出せないと痛感しました」と話す。

 「尾上菊之助だけだと、自分を見失う。豊かな表現者になるには、本名の寺嶋和康でいる時間をより多く持つこと。これが今、とても大事なんです」

    ◇

 おのえ・きくのすけ 77年生まれ。96年に五代目菊之助を襲名。女形、立ち役と幅広く演じ、現代劇にも出演する。第5回朝日舞台芸術賞寺山修司賞を受賞。「NINAGAWA 十二夜」の東京公演は歌舞伎座で7月7日から。映画「怪談」は8月4日公開。

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