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能楽「金春流八十世宗家」が始動 能以前の古態を研究

2007年06月08日15時57分

 能楽シテ方の現存5流で最古とされる金春流八十世宗家を能楽師金春安明(55)が譲り受け、このほど継承披露の能会を開いた。宗家には室町期以前の芸能に関する資料も伝えられており、安明は研究に意欲的だ。最近、能楽に先行する「宴曲(えんぎょく)」の文献が残っていたことが分かった。「長い歴史を持つ金春流は、いにしえの芸の姿を今でもとどめているようです」と話す。

 明らかになったのは、宴曲の詞章と節付けを明記した文書「宴曲集巻第一」。末尾に「今春太夫秦鎮喜」と書かれていた。宴曲は中世歌謡の一種で鎌倉期ごろの発祥といわれ、一字を一音で明快にうたったため「早歌(そうか)」ともいわれる。能とは対照的に物語性が薄く、この文書も主題は春夏秋冬の物尽くし。神田裕子・明治大兼任講師が調べた結果、現存最古に近い14世紀半ばごろの綴本(とじぼん)だった。

 豊臣秀吉が演じた豊公能の一つで、宗家宅で00年に見つかった「この花」の謡本(うたいぼん)も、安明が調査を重ねてきた。ルビがなく不明確だった読み方や音韻を、別の古い謡本などと突き合わせて特定した。「古文献を調べることで、能を演じる時のよりどころが見つかり、自信が生まれます」

 能楽シテ方の他4流は観世二十六世、宝生十九世、金剛二十六世、喜多十六世で、金春の八十は破格だ。聖徳太子に仕えた秦河勝(はたのかわかつ)が流祖という説もあるが、「室町期以前は不明な点が多く、分かっている範囲では二十数代だと思う。明治期に権威付けで代数を増やしたのでしょう」と安明。

 しかし、故なきでもなさそう。例えば「能にして能にあらず」ともいわれる祈祷舞「翁」について、世阿弥は「風姿花伝」で、金春の祖が伝えたと記している。宗家には聖徳太子作とされる「白式尉(はくしきじょう)」、つまり翁の面も伝わる。安明は「家宝です。材質は通常使われるヒノキではなく、少なくとも鎌倉時代まではさかのぼれそう。この面をつけると翁の本家としてのプライドを持てます」と話す。

 金春流の芸風は、古風でおおどか。春の奈良・興福寺での薪能と、12月の奈良での「春日若宮おん祭」を重視する。いずれも野外の奉納芸だ。

 「外でもできる柔軟性と、己を捨てて神にささげる気持ち。これが芸風の基なのかもしれません。芸風を変えず、能作者の心を伝えるオーディオセットのような、無心な職人でありたいです」

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