現在位置:asahi.com>文化・芸能>芸能>舞台>演劇> 記事 〈06回顧:9〉演劇 「東京裁判」から60年、責任・「正義」・痛み検証2006年12月29日10時44分 身近な人に指摘された。 「ここ数年、回顧は戦争の話が多いね」 確かにその通りだ。戦火とテロの絶えない世界と、力が幅を利かせる社会に向き合う演劇人の優れた仕事を振り返ると、悲しいことに今年もまた、そうした主題を避けて通れない。 ●井上ひさし3部作完結 「東京裁判」が始まって60年の今年、井上ひさし作「東京裁判3部作」が完結した。最終作「夢の痂(かさぶた)」は、主語を明確にしない日本語の特性を通し、反省や総括をあいまいにしてきた戦後の日本人のあり方を問う。 木下順二が裁判の速記録をもとに書いた「審判」は劇団民芸によって36年ぶりに再演された。日本人自身の責任を考えると同時に、原爆投下の犯罪性などをあいまいにした裁判の矛盾を鋭く突く。戦争と人間についての思索を戯曲に託してきた木下は、10月に92歳で世を去った。残された「過去を清算する努力は怠りたくない」という言葉は、ずしりと重い。 ●古典に現代の悲劇 自らたのむ「正義」を遂行した果てに何があるか。 蜷川幸雄は古典に現代の悲劇を投影した。シェークスピアの復讐(ふくしゅう)劇「タイタス・アンドロニカス」は英国の観客にも衝撃を与え、ギリシャ悲劇「オレステス」では、宗教によって対立する国々の旗と歌を刷ったビラを大量に降らせ、神が導く都合の良い結末に激しく反発。野田秀樹の旧作「白夜の女騎士(ワルキューレ)」を革命闘争の物語と読み直し、野田作品に新たな光を当てた。 その野田は、英国で初演した「ザ・ビー」と最新作「ロープ」(ともに作・演出)で、個人や国家、メディアなどによる様々な暴力を告発した。 娯楽性が強いはずの音楽劇でも、戦いと流血の痛みは表現された。 シェークスピア悲劇を脚色した「メタルマクベス」はヘビーメタルに乗せて、戦争の続く未来を描く。ウィーン・ミュージカルの作家・作曲家が書き下ろした東宝「マリー・アントワネット」(栗山民也演出)は、フランス革命を通して、人間の暴力性を見据えた。 戦いに直面している人々の姿をドキュメンタリー風に描く英戯曲の翻訳上演、燐光群「スタッフ・ハプンズ」(D・ヘアー作、坂手洋二演出)、一跡二跳「アラブ・イスラエル・クックブック」も印象深い。 個人では、ケラリーノ・サンドロヴィッチが「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?」などで演出の手腕を発揮。劇作では、鈴木聡の「ハゲレット」「あしたのニュース」、三谷幸喜「エキストラ」、松尾スズキ「まとまったお金の唄(うた)」、永井愛「書く女」なども力作だった。 また本谷有希子、岡田利規、三浦大輔、前田司郎、青木豪、蓬莱竜太ら若手・中堅も、それぞれの劇世界で注目を集めた。 歌舞伎では、三谷と市川染五郎らが組んだ疾走感あふれるパルコ歌舞伎「決闘!高田馬場」と、「東海道四谷怪談」を串田和美が二様に演出した、中村勘三郎らのコクーン歌舞伎が同時期に上演され、春の東京・渋谷を大いに沸かせた。 国立劇場は開場40周年を迎え、記念して「元禄忠臣蔵」を3カ月かけて通し上演。重厚な史劇を格調高く提示し、底力を見せた。一方で、伝統劇の世界を長年支えた文楽人形遣いの吉田玉男、永山武臣・松竹会長が世を去った。 ●高齢者劇団に1000人以上 地域発では、静岡県舞台芸術センター(鈴木忠志芸術総監督)と新国立劇場が3本を共同制作。鈴木16年ぶりの東京公演が話題に。 埼玉県の彩の国さいたま芸術劇場では、芸術監督の蜷川が作った高齢者劇団「さいたまゴールド・シアター」が大きな反響を呼んだ。オーディションに1000人以上が集まり、発足半年余で2度の発表会を開く活発さは、演劇の新しい可能性を示す動きと注目されている。(編集委員・山口宏子) ◆「06回顧」は終わります。 PR情報この記事の関連情報
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