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井上ひさし「ロマンス」でチェーホフ描く

2007年09月11日15時27分

 井上ひさしの最新戯曲「ロマンス」で、主人公のロシアの作家・劇作家チェーホフはこう語る。「人はもともと悲しみを持って生まれ落ちる。でもその内側に笑いは備わっていない。だから自分の手で作り出し、分け合い、持ち合うしかありません」。そこに自身の思いを託す井上に聞いた。

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チェーホフと笑いを語る、井上ひさし=東京・三軒茶屋で、飯塚悟撮影

 「チェーホフは昔から読んできましたが、初期の小説には爆笑編がたくさんあって圧倒されます。でも後期の名作戯曲の舞台は退屈なことが多い。それをずっと疑問に思ってきた。つかまえどころのない人だと」

 しかし、書簡集などを読む中でヒントを見つけた。

 「彼は『素晴らしいボードビルを書きたい』と書いている。調べてゆくと、寄席芸とは違う、ストーリーと音楽と笑いがある『欧州型ボードビル』の内容が分かってきた。なるほど、叙情劇のようにみられる『三人姉妹』も『桜の園』も馬鹿なことをいっぱいやっているボードビルなんです。この切り口でチェーホフを書こうと思いました」

 初めはチェーホフに尽くした妹マリヤ(松たか子)と、妻になった女優オリガ(大竹しのぶ)の葛藤(かっとう)を軸にするつもりだったが、「素晴らしい男優陣(木場勝己、段田安則、生瀬勝久、井上芳雄)を、女優激突の間で便利に使うのは申し訳ない」と、チェーホフの生涯を年代ごとに4人が演じるスタイルを考えた。

 笑いを作ろうとしたチェーホフに、喜劇を書き続ける井上が重なって見える。

 「生活の質を少し良くするヒントを提供するのが我々の仕事。私はそれを笑いで実現したい。笑うことで人と人とのむき出しの衝突が避けられる。それは余裕、博愛といってもいい。価値観が一つになるのは本当に危ない。笑いは、それぞれが違いを認め合うことにつながるのです」

 劇中、一流作家になったチェーホフが「ブンガク」を書く自分は、笑いの作り手になろうとした少年・青年時代をなくしてしまったと嘆く場面がある。

 「月とスッポンですが、僕も小説に関しては同様の思いがあります。初期のようなバカバカしいものを今書ければなあ、と」

 ただ、演劇ではそれは感じない。「目の前に観客がいて、確かな反応があるから。浅草フランス座の下っ端文芸部員の時と同じ、お客さんと共に生きているという確かな感覚があるのです。その手応えの大きさに支えられています」

 今後、モリエールと引退後のシェークスピアを題材に書いてみたいという。

 「海外劇作家シリーズです。なんでも3部作にする癖があるものですから」

 ◇舞台(栗山民也演出)は30日まで、東京・世田谷パブリックシアターで。当日券あり(電話03・5423・5906=シス・カンパニー)。戯曲は「すばる」10月号(集英社)に掲載。

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