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“ギリシャ悲劇”20世紀の九州を舞台に

2007年10月19日14時35分

 演出家の鈴木裕美が新国立劇場(東京・初台)で初めて演出した舞台「たとえば野に咲く花のように」が上演されている。鵜山仁芸術監督が企画した連作「三つの悲劇――ギリシャから」の第2弾。劇作家・脚本家の鄭義信(チョン・ウィシン)が「アンドロマケ」をもとに新作を書き下ろし、小劇場演劇出身の気鋭の2人が初めてコンビを組んだ作品でもある。

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「戯曲は冒険の地図。大きな物語を丁寧に立体化したい」と語る鈴木裕美

 「アンドロマケ」はトロイア戦争で夫を失い、敵国に奴隷として連れてこられた女性をめぐる四角関係のドラマ。エウリピデスによる同名の悲劇や仏劇作家ラシーヌの古典「アンドロマック」で知られる。

 鈴木は「昔からラシーヌ版を読んでいて、実は相当愉快な話ではないかと思っていた」と話す。「好きな人に振り向いてもらえないとすぐに『殺してしまえ』なんて騒ぎだす人がいて、恋をした人の愚かさとおかしさに満ちている」

 悲劇を変奏する現代の作者を演出家が選ぶこの企画で、鈴木は鄭を真っ先に指名した。

 「悲劇と喜劇がないまぜになった世界を描けるのが鄭さんのすごさ。けいこ場では大の大人が一つの単語や句読点の位置にこだわり、何百回も戯曲を読み込む。面白い本でないと長いけいこがつらくなる」

 鄭は朝鮮戦争の特需に沸く1951年の九州の港町を舞台に、アンドロマケに当たる満喜(七瀬なつみ)を朝鮮人に、彼女を愛する安部(永島敏行)を元日本軍人にした。安部を追う婚約者のあかね(田畑智子)と彼女を慕う安部の部下・竹内(山内圭哉)の4人の恋愛のもつれを軸に、海の向こうの戦争を見つめて生きる庶民の姿を描く。

 「書き留めなければ忘れ去られてしまうことを声高にならずにつづった戯曲です。朝鮮と日本という鄭さんのライフワークに、俳優たちと全力で取り組んだ」と鈴木は語る。

 日本女子大在学中の82年に劇団「自転車キンクリート」を結成した鈴木は、丁寧な人物造形とスピード感のある切れ味鋭い舞台作りに定評がある、女性演出家のトップランナーの一人。それを支えるのが、一部で伝説化されているほどの「しつこいダメ出し」だ。「舞台という一番傷つきやすい最前線に出ていってくれるのが俳優。できる限り後方援護するぞ、という思いの表れです」と笑う。

 「鄭さんの生んだ人々はみな、すごいエネルギーを抱えて生きている。『軽自動車はいらない。3ナンバーの車があちこちにぶつかりながらも疾走するように演じてほしい』と出演者にお願いしました」

 11月4日まで、同劇場中劇場。7350〜3150円。劇場(03・5352・9999)。

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