現在位置:asahi.com>文化・芸能>芸能>舞台>演劇> 記事 〈第7回朝日舞台芸術賞 グランプリ〉「THE BEE」2008年02月07日10時31分 第7回朝日舞台芸術賞(朝日新聞社主催、テレビ朝日後援)の各賞が決まった。現代を鋭く見つめ、心揺さぶる舞台を作った受賞者を連載で紹介する。
◇「人間は暴力に慣れる」 脚本・演出・出演 野田秀樹 横行する暴力、報復の連鎖、そして戦争……。近年の野田秀樹は、現代の世界にはびこる様々な問題を果敢に描き続けてきた。そうしたテーマが、硬く、そして質量の高い結晶になったのが、日英2カ国語で上演した「THE BEE」(野田脚本・演出・出演、C・ティーバン共同脚本、NODA・MAP製作)だ。 ある夕方、会社員・井戸は、脱獄囚・小古呂が自宅を占拠し、妻子が人質にされたことを知る。井戸は、小古呂を説得してほしいと彼の妻を訪ねるが、拒否され、逆にその家にたてこもり、小古呂の妻と幼い息子を傷つけ始める。井戸の家でも小古呂が同じことをしているのだろう。残虐行為の応酬は果てしなく続く。 作品が生まれたのはロンドン。野田は「内容が『やられたら、やり返す』という今の状況に合致している」と感じ、筒井康隆の小説「毟(むし)りあい」を題材に、英国の俳優たちとワークショップを始めた。 その中で、井戸役を女優のキャサリン・ハンターが、小古呂の妻役を野田が即興的に演じて、作品の核ができた。 2人は暴力が支配する日常の演技を20回繰り返してみた。「被害者を演じていて、初めのうちは逃げたいと思った。でも途中から、生きていられれば、もうどうでもいいという感覚が生まれてきた。人間は暴力に慣れる。それを実感するのに、身体表現にも優れたキャサリンの存在は大きかった」と野田は言う。 「人間を深く掘り下げる意識が強い英国の俳優たちと作ったことも、この作品にとって大きかった」 こうして出来たロンドン版(06年初演)と、その日本版を07年6〜7月に東京・三軒茶屋のシアタートラムで連続上演した。出演者4人、井戸役以外の俳優は何役も兼ねるスタイルは共通するが、演出も舞台装置などもまったく変えた。 日本版では、井戸を野田が、小古呂の妻を秋山菜津子が演じた。性別の逆転がなくなり、レイプ場面などに生々しさが加わった。ダンスカンパニー「コンドルズ」を率いる近藤良平とベテラン浅野和之が共演。彼らのしなやかで鋭い演技が作品に膨らみを生んだ。 「わずか70分ほどの舞台だが、見続けるのがつらいという人もいた。でも、何でも消費してしまう今の日本の文化状況の中で、観客となれ合うのはとても危険なこと。そうならない志は持っていたい。でも、観客はこういう作品を見に来てくれた。それがありがたいと思っています」。野田はそう語る。 * のだ・ひでき 55年生まれ。劇団夢の遊眠社、英国留学を経て、NODA・MAPを母体に活発な創作を続ける。第1回グランプリ作品「野田版・研辰の討たれ」の脚本・演出。「赤鬼」「走れメルス」の作・演出・出演で第4回舞台芸術賞を受けた。 PR情報この記事の関連情報文化・芸能
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