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谷崎文学、舞台に 村上春樹手掛けた英演出家

2008年02月18日15時03分

 英国の演出家サイモン・マクバーニーが、日本の俳優と谷崎潤一郎の世界を舞台化した「春琴」が、東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアターで今月から上演される。評論「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」と短編小説「春琴抄」をもとに10年以上、構想を温めた作品だ。

写真サイモン・マクバーニー

 マクバーニーは日本で制作した「エレファント・バニッシュ」(03年初演)で村上春樹の世界を舞台化。東京のほかロンドン、ニューヨークなどで観客を魅了した。「あの作品には東京のど真ん中に来た私の印象を反映させた。一方で、日本における美学的な体験や西洋と異なる伝統をどうとらえるかという思いが、いつも心にあった」と語る。

 谷崎文学との出あいは95年の初来日直後。作家マイケル・オンダーチェに「陰翳〜」の英訳を渡された。電灯やガラス窓が普及した1933年に、行灯(あんどん)や障子が生むほの暗い空間への傾倒をつづったこの小論に心が動いた。

 「It’s not clear. はっきりしていないことは、あからさまな明示よりも強力です」

 「陰翳〜」の直前の作の「春琴抄」は、盲目の三味線師匠・春琴に、奉公人で弟子の佐助が破滅的ともいえる献身をする。幕末〜明治の大阪が舞台のこの短編には、「鵙(もず)屋春琴伝」という架空の種本や、句読点や改行を極力避けた文体など、谷崎のたくらみが幾つも見え隠れする。

 「英訳で読んだ当初は、春琴は実在すると信じた。だが、様々な視点で描いた春琴は一つの像を結ばず、あいまいになってゆく。30年代はバージニア・ウルフやジェイムズ・ジョイスなどモダニズム文学の時代。谷崎もその時代の作家と同じく、自らの文体と戯れ、実験を重ね、偽ドキュメンタリーとしての春琴伝を完成させたのでしょう」

 こうした谷崎の豊かな想像力を、どう演劇に昇華させるのか。マクバーニーが主宰する劇団コンプリシテでは、「共犯者」というその名の通り、俳優と長期間かけて共同創作するのが慣例だ。今回の舞台も、英国と東京で長くけいこを続けたが、「最終的にどんな作品になるか、まだ自分でもわからない」と言う。

 「最も興奮するのは作品をつくるプロセス。谷崎の文学性を維持しつつ、作品を解体し、こじ開けると、何らかのエネルギーが解放される。そこに生の実感があるのです」

 欧州で活動するヨシ笈田や、深津絵里、立石凉子、宮本裕子、高田恵篤、チョウソンハらが出演。21〜25日はプレビュー。26日〜3月5日。7000〜3000円(プレビューは1000円引き)。電話03・5432・1526(劇場)。

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