2009年7月25日4時55分
「夏目漱石」は誰のものか――。漱石の次男の孫らが今年4月、一般財団法人「夏目漱石」を設立したが、漱石の長男の息子でマンガ批評家の夏目房之介さんら他の親族7人が異議を表明している。漱石は「我が国の共有文化財」であり、たとえ遺族でも「権利を主張し、一般の利用に介入すべきではない」というものだ。批判を受け、財団はホームページを閉鎖した。
この財団は、漱石の次男の随筆家・故伸六の孫でクリエーターの夏目一人(かずと)さんが代表理事を務め、一人さんの母で伸六の娘の夏目沙代子さんが役員に加わっている。漱石の著作権は1946年に切れているが、「漱石に関する人格権、肖像権、商標権、意匠権その他無体財産権の管理事業」や漱石賞、漱石検定を手がけるとしている。
設立の案内と協力依頼が房之介さんら他の親族に届いたのは、6月中旬。房之介さんは「漱石という文化的存在を将来にわたって維持し、享受や批判をさかんにして再創造につなげていくためにも、特定の者が権利を主張したり、介入したりするべきではない。また財団の活動が既成事実化すれば、ないはずの権利があるように思われ、混乱をもたらしかねない」と親族に呼びかけた。
漱石の長女の娘である随筆家の半藤末利子さんら6人が房之介さんに賛同、「財団とは無関係で、設立には反対の立場である」と表明した。
房之介さんはマンガ批評家として図版引用で苦労した経験があることなどから、これまで「漱石」に関する利用には謝礼を要求せず、利用への介入もしてこなかった。異議を表明した理由について、「マンガ批評家として著作権について考えてきたことをふまえ、権利と社会共有の利益のバランスをどう考えるのかということを問いかけるためにも、自分の社会的責務を果たさなければならないと考えました」と話す。
一方、夏目一人さんは「財団設立に際し親族間の行き違いがあり、現在当事者間の話し合いを進めているところです」とコメントしている。
一般財団法人は08年12月の法改正で生まれ、設立時に300万円以上を拠出するなどの要件を満たせば、登記だけで設立できる。(加藤修)