★ひろふみの深読み〈完〉/名人の猛烈パンチ
対局生中継・棋譜中継はこちらからいや〜、終わってみれば、この碁は山下名人が羽根挑戦者を圧倒した形になりました。1日目は黒の布石がうまく、これは挑戦者の名局になるのではと思ったのですが、2日目、名人の猛烈なパンチが炸裂(さくれつ)しました。
白88、90の切りノビはちょっと強引な気もしますが、そこから名人がペースをつかみました。挑戦者も対局後のコメントで、「戦えるかと思ったが、イメージと違った」と話していました。
常に何かを狙う名人の中盤の打ち方が光った最終局。短手数ではありましたが、中身の濃い一局でした。両対局者がそれぞれの持ち味を出し切ったシリーズだったと思います。2日間、ありがとうございました。
■山下名人が初防衛
第37期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第7局は13日、甲府市の常磐ホテルで2日目が打ち継がれ、午後5時50分、山下敬吾名人(34)が挑戦者の羽根直樹九段(36)に138手までで白番中押し勝ちし、4勝3敗で名人位を防衛した。昨年秋の初奪取に続き、名人2連覇を飾った。
持ち時間各8時間のうち、残り時間は羽根挑戦者が1分、山下名人が13分。
★ひろふみの深読み〈6〉/名人優勢か
黒113は上辺黒の生きを図りつつ、右上白への狙いを秘めています。挑戦者の冷静かつ我慢した手です。
これに対し、白116とツイで黒の狙いを封じたのが名人の好手でした。形勢は名人優勢に傾いたようです。
★ひろふみの深読み〈5〉/名人の流れか
午後4時を回りました。名人の猛攻が続いています。白102から上辺黒へ迫りました。ここで挑戦者は黒103を打ち、105、107と出切りましたが、この103がどうだったでしょうか。単に黒105、107と出切った方が、しのぎには良かったように思います。
この辺り、どうも名人が流れをつかんでいるような気がします。ただ、モニターに映る挑戦者は落ち着いた表情です。なにかいい手を見つけているのでしょうか。
1手間違うと30目損するような大事な局面ですので、両者時間を使って慎重に打ち進めています。
■女将(おかみ)の心づくし
午後3時過ぎ、対局者におやつが運び込まれた。きょうはストレートの紅茶とバームクーヘン。出す直前に、料理長のアイデアで生のブドウの果肉が添えられた。ブドウは山梨特産の「甲州」だ。最近は白ワインの品種としても人気がある。
朝の対局開始時に出されたのも山梨のお菓子。中に白あんが入っている干し柿だった。
そんな「山梨産」にこだわったおやつは、女将の笹本かほりさんが毎回、選んでいる。夫は常磐ホテルの3代目社長で、女将になって7年ほど。実家はホテルや旅館関係ではなく、「結婚してから、すべて学びました」と話す。
お菓子を選ぶ時は、季節感とともに、対局者の気持ちを考えてみる。「大変な緊張のなかで対局されている、その気持ちを揺るがせないように。一方で、ほっとくつろいでほしいとも思っています」。ほっこりした気持ちになってほしいから温泉まんじゅう、今が旬の柿やブドウは体をさわやかにしてくれる――。そんな思いで選ばれたお菓子は、見た目にもかわいらしい。
ほかにも、対局室を飾る花に菊など匂いの少ないものを選んだり、室内を飾る品々を考えたり。対局の裏には、女将をはじめとしたホテルスタッフの心づくしがある。
★ひろふみの深読み〈4〉/最大の勝負どころ
黒87まで、挑戦者は地を稼ぎつつ左上の黒を安定させました。ここで名人は30目もの大きな手を放って、ついに中央白88の切りを決行しました。上辺か下辺か、あわよくばどちらかの黒の一団を取ってしまおうという勢いで、強烈な攻めに出ました。戦いは一気にヒートアップです。
まずは下辺を攻め、やがて上辺も狙うでしょう。ここで白の決め手があるのか。それとも黒が踏みとどまるか。最大の勝負どころを迎えました。
■対局再開
午後1時になり、対局が再開された。3分ほどして羽根挑戦者が81手目を打った。決着まで、もう休憩はない。
■今日のお昼も……
正午、昼食の時間になった。名人はもちろん、昼食なし。対する羽根挑戦者は昨日と同じく、あたたかいそば。えびとなす、しそのてんぷら、こんにゃくのいり煮。デザートにみかんが添えられた。
羽根挑戦者が昨日の昼食のそばをぜんぶ食べたと聞いた料理長は、そばの量を増やしたとか。今日も完食して、決着の時へ向けて力をたくわえるか。
■昼の休憩に
正午になり、羽根挑戦者が81手目を考慮中に昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は、黒番の挑戦者が5時間30分、名人が5時間32分。午後1時に再開する。
★ひろふみの深読み〈3〉/だんだん強火へ
白70のアテは柔軟な手ですね。白76まで左辺の白を安定させました。上辺白も弱いので、62、66の白二子を場合によっては捨てて打とうという態度を見せましたが、黒77と反発されると、一転、白78ナラビで二子を助け出しました。この辺り、一進一退といった感じでしょうか。
一方的な展開になった第6局までと違い、両者のリズムがかみ合っているような気がします。険しい局面ですが、いきなり激しくなるのではなく、両者歩調を合わせて、じっくり激しくなっていく。「弱火」からだんだん「強火」に、という感じです。それで言うと、いまは「中火」の状態でしょうか。
白からの中央のキリなど、いろいろな狙いが残っています。戦線拡大は必至です。
★ひろふみの深読み〈2〉/ついに来た
うわぁ〜、ついに来ましたね。急に面白くなってきました。名人は白62のノゾキから、中央を66、68と出切って黒を切断。激しい戦いのコースを選びました。昨日の封じ手の時の長考はこれを狙っていたのですね。相変わらず力強い。
名人の背筋がピンと伸び、姿勢や表情からは「やれるんじゃないか」という自信が感じられます。挑戦者も「来るべきものが来たか」というような顔つきになりました。もう後には引き返せない乱戦に突入です。
それにしても面白いのは、挑戦者は長考してごく自然な手を選ぶ。名人は長考して誰も気づかない手を打つ。それぞれ迫力がありますが、対照的ですね。
■文人の愛した部屋
最終局の舞台となった常磐ホテルは、井伏鱒二、松本清張ら多くの文人に愛された宿でもある。名人戦の対局に毎回使われている離れの「九重」は、山口瞳が好んで泊まった部屋。「凜(りん)とした、落ち着いたつくり」で、対局室に選ばれたという。
室内のしつらえは、窓の外と同じく深まる秋を感じさせる。床の間の花瓶には黄色とオレンジの小菊。記録係の後ろには、紅葉の林を描いた屏風(びょうぶ)を立てた。飾られた大皿に大きく描かれたブドウは、秋の恵みであり、山梨の特産でもある。
山梨といえば、富士山を忘れちゃいけない。名人、挑戦者をはじめ、記者ら関係者が泊まっているホテル高層階の部屋からも、山並みのはるか向こうに、堂々たるその姿をのぞむことができる。
ただ、対局室は木々に囲まれた平屋にあるため、見られない。そこでホテルは「せめて富士山を眺める時のような悠然とした気持ちに」と、床の間に富士山の掛け軸をかけた。ホテルの窓から見た時と同じような、山並みの向こうにそびえる富士山だ。
長いシリーズにいよいよ終止符を打つ最終局。緊張感が高まる中、悠揚迫らぬ富士山の姿に、両対局者は何を思うだろう。
★ひろふみの深読み〈1〉/予想外の封じ手
おはようございます。棋士の大橋拓文です。2日目もどうぞよろしくお願いします。
いやぁ〜、名人の封じ手白56にはびっくりです。この付近は予想されていましたが、ぴたりと当てられた棋士は現地の検討陣にはいませんでした。
意図としては、第一に不安定な左辺白の補強です。上辺と下辺の黒の連絡をうながしていますが、それにしても直接的なやり方で、ある意味、力強い。
モニターの表情を見ていると、名人は何か狙っている気がします。柔らかい手を打ちそうな顔はしていませんね。やはり嵐の予感がします。
■2日目始まる
山下敬吾名人(34)と挑戦者・羽根直樹九段(36)の3勝3敗で迎えた第37期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の最終第7局は13日朝、甲府市の常磐ホテルで再開され、2日目に入った。
定刻の午前9時、立会人の王立誠九段の合図で両対局者が1日目の55手目までを並べ直し、封じ手が開封された。山下名人が封じていた白56は中央「8の十一」だった。
名人が防衛を果たすか、挑戦者が奪取するか。今シリーズ最後の大一番は本日夜までに決着し、名人位のゆくえが決まる。