女優の森光子さんが亡くなった。小柄で色白、柔らかな笑顔。だが優しげな姿の内には、鋼の強さが張り詰めていた。遅咲きな女優の道に、厳しく激しく、向き合い続けた生涯だった。
戦時に向かう日本で、芸能界への道は平坦(へいたん)でなかった。歌謡ショーの前座、軍の慰問。ようやく迎えた戦後、関西で喜劇の舞台に立った。菊田一夫さんの目にとまり、代表作となる舞台「放浪記」主演をつかんだ時には41歳になっていた。
菊田さんが自身の苦悩を重ねるように劇化した林芙美子は、極貧の中で社会に認められぬ苦悩にもがき、愛に飢える孤独な女。生涯の大半を一人で暮らし、長い下積みに「あいつよりうまいはずだがなぜ売れぬ」と嘆きを詠んだ森さんも、その姿に自らを重ねた。生まれたのは負けん気な背中に孤独がにじみ、強さと危うさが同居する、魂をえぐるような芙美子。だからこそ、初めて社会に打ち勝ち、喜びを爆発させるでんぐり返しは名場面になった。