2018/03/16

【日本の未来を語ろう in school vol.2】もし、男子がチア部に入りたいと言ってきたら…
授業クリエイター集団《POTETOPIC CLASSROOM》による「ジェンダー平等」の授業@東京都立高島高校

古野香織(POTETO Media)with 朝日新聞DIALOG編集部

「日本の未来を語ろうin school」第2弾

朝日新聞DIALOGでは、学校や教育現場との連携を深めるため「日本の未来を語ろうin school」という連載企画を実施しています。
第1弾はこちら

今回は、ついに第2弾。
第1弾と同じく、都立高島高校の3年生を対象に実施された「ジェンダー平等」に関する授業プログラムをご紹介します。

ゲストティーチャーは、授業クリエイター集団《POTETOPIC CLASSROOM》

講師には、政治・経済・国際などの最新ニュースをイラストやアニメーションなどでわかりやすく発信しているメディア「POTETO Media」から派生した教育事業チーム《POTETOPIC CLASSROOM》より、慶應大学の古井康介(22)、早稲田大学の毛利裕一(22)と間宮秀人(19)、明治大学の横田莉奈(21)、そして私中央大学の古野香織(22)が参加しました。

《POTETOPIC CLASSROOM》とは?

「POTETO Media」ではメディア事業と同時に、教育事業にも力を入れています。 2017年3月には「ロヒンギャ族の難民問題」、5月にはフランス大統領選挙へ現地取材を行ったメンバーによる「フランス大統領選挙とEU」、7月には都議会議員選挙の前に「待機児童問題」など、その時期にちょうど話題となっているニュースを題材とした授業プログラムを作成し、教育現場へ提供してきました。メディアから受動的に情報を得るだけではなく、その情報に対して新たな問いを投げかけたり、みんなで議論することによって、高校生の皆さんに「ニュースっておもしろい!」と感じてもらいたい。こんな思いから、教育事業をスタートさせました。

2017年7月実施「東京都の課題」(都議会議員選挙の直前授業)の授業風景

こういった授業プログラムの企画・作成・実施などを行っているのは、POTETO Mediaの教育事業チーム《POTETOPIC CLASSROOM》です。このチームは現在5名程度の学生が中心となっており、今後「授業クリエイター集団」として活動の幅を広げていく予定です。

どんな授業をしたの?

今回は、高校生の皆さんに「ジェンダー平等」について考えてもらうための授業プログラムを実施しました。

きっかけは、2017年11月1日(水)~3日(金)に開催された国際女性会議(World Assembly for Women, 通称WAW!)に、代表である古井康介(慶應大学4年)を含めPOTETO Mediaのメンバー5名が出席したことにあります。

このWAW!では、世界及び日本国内から有識者が集まり、「変化する世界において女性の活躍を推進していくために、様々なステークホルダーはどのような行動が必要か」について議論が行われ、参加者から出された主な提言が「WAW! 2017東京宣言」として取りまとめられています。

本授業を通して、「WAW! 2017東京宣言」を机上の空論で終わらせないために、現在SDGs(持続可能な開発目標)やWAW!で目指されている「ジェンダー平等」について、若者世代が一丸となって本気で考える機会を用意したい。そんな思いから、この「ジェンダー平等」についての授業プログラムは作成されました。

授業の流れ

今回「POTETOPIC CLASSROOM」が実施した授業は、以下の2つの内容に分かれています。

<1時間目>(50分)
部活動から考える「ジェンダー平等」 男子がチア部にやってきた!

<2時間目>(50分)
いま世界各国が目指している「ジェンダー平等」ってなに?――近年のSDGs・WAW!の議論から

今回は、特に1時間目の『部活動から考える「ジェンダー平等」―男子がチア部にやってきた!』を中心に、当日の様子をお伝えします。

<1時間目>(50分)
部活動から考える「ジェンダー平等」―男子がチア部にやってきた!

まずは、こちらのストーリーを提示します。 少し長いですが、こちらをスライド形式で提示しながらシチュエーションを丁寧に説明します。

みんなが通う「POTETO高等学校(通称:ぽて高)」では、転校生である1人の男子生徒のとある要望について学校中が大激論となっていた。それは、本校では伝統のある強豪チームとして有名な「女子チアリーディング部」のマネージャーとして入部したいというものだった。女子チアリーディング部が設立されてから今日に至るまでの50年間、一度も「男子生徒」がマネージャーになったことはない。この男子生徒は、ちょうど先月に他の学校からぽて高へと転校してきた。現時点では本人の事情を詳しく知っている生徒はいなかったが、つい最近クラスメイトに「チアリーディングや頑張っている人が好きで、少しでも強豪チームのサポートをしたい」と話していたそうだ。

この男子生徒の「女子チアリーディング部のマネージャーになりたい」という要望をかなえるためには、「チアリーディング部の予算を上げること」と「校則を改訂すること」の2つが必要となる。

「チアリーディング部の予算を上げること」は、これまで女子生徒のみで使っていた合宿場の見直しや、男性用ユニフォームのデザイン費などにコストがかかるためである。ただしチアリーディング部の予算を上げるということは、代わりに他の部活の予算が減らされる可能性があるということであり、一部生徒からの反対が予想される。

また現在の校則では「男子生徒が女子部活の部室に入る」という行為は停学、もしくは退学という重い罰則が与えられることになっている。しかし男子生徒が女子部活のマネージャーになれば、マネージャーが部室に出入りできないことは部活動にも支障が出ると予想される。生徒総会においてこの罰則規定の廃止を求める発議をし、「校則を改訂すること」が必要不可欠である。

このように、これまでぽて高女子チアリーディング部では男子生徒が部員として加入したことがないため、この男子生徒がほかの生徒と同様に部活動を行えるよう、新たに環境を整備することが求められる。

ここまでストーリーを説明した上で、クラス全体に次のような課題を与えます。

議論の方法は、
・「賛成・反対カード」を使い、自分の意見をクラスに提示しながら歩く。
・30分の全体ディスカッションが終わった時点で、クラスの過半数が「賛成」であれば発議する、「反対」であれば発議しないこととする。
・クラス内に女子チアリーディング部員は5名。この中に、1人でも「反対」がいた場合も発議しないこととする。

としました。

賛成・反対カード(全員に配布)
チアリーディング部カード(ランダムに5名の女子を選出して配布)

※上記のカードは、いずれも折り返して使用します。

机を後ろに下げてスペースをつくり、全員にカードを配布したら、いざ議論スタートです!

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最初は、クラスの圧倒的多数が「反対」のカードを提示。
男子生徒の一部のみが「賛成」のカードを示していました。

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本人が入りたいって言ってるんだから、いいじゃん!
と、賛成派。

これに対し反対派は、
わざわざ生徒総会で発議するのはちょっと…
予算が上がるのなら、そこまでしなくてもいいかなと思う
一回事例を作ってしまったら、他の男子も入りたいといってくるかもしれない。女子の部室に男子が入るのはありえないし、怖い
などの意見を主張。

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「チアリーディング部」役の女子は、全員「反対」カード。
そのうちの1人は、「伝統がある部活だから、それを崩したくない」という意見です。
チア部だけで解決できることなら良いけど、学校全体を巻き込むのは責任が重すぎる」と話してくれた生徒さんもいました。

始めは教室の隅に固まっていた賛成派グループでしたが、反対派があまりに多いため、少しずつ分散しはじめました。しかしがんばって説得するも、賛成派は「6人」どまり。それ以外のクラスメイトは全員「反対」から動きません。

チャイムが鳴るまで、残り10分。
このタイミングで、こちらのスライドを提示します。

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これを見た生徒さんたちからは、どよめきの声が。
最後はこの条件のもとで、再び議論をしてもらいました。

スタート時からずっと「反対」カードを示していた生徒さんも、悩み始めました。

こちらの「チアリーディング部」役の生徒さん2名が「賛成」派にまわったことで、クラス全体の流れが一気に変化します。

ちょうど議論が白熱したところでチャイムが鳴り、話し合いは終了。
果たして結果は…

「賛成」16名、「反対」9名という結果に。

しかし「反対」派にチアリーディング部が2名含まれていたため、今回は『男子生徒の要望をかなえるために、一週間後の生徒総会で①チアリーディング部の予算を上げること②校則を改定することをクラスとして発議しない』ことに決まりました。

こういった議論を踏まえて、2時間目は『いま世界で目指されている「ジェンダー平等」ってなに?―近年のSDGs・WAW!の議論から』について解説しました。
※時数の関係上、2時間目の紹介は省かせていただきます。

この授業で伝えたかったこと

この授業で生徒さんに気付いてほしかったのは、大きく分けて以下の4つです。

① 誰しも「男なら○○をする、女なら△△をする」といった“ジェンダー規範”を無意識に持っていること
授業後、生徒さんからこんなコメントをもらいました。
「結局、男だから、女だからって考えてる人が多いと感じた」
「男子と女子で意見が分かれたのもへんけんの目があるからなんだと思いました」
「みんな女子はだめとか、男子がだめとかにとらわれすぎだと思った」
「男女差別は良くないと知っていたけど、実際に(チアリーディング部に男子が入部することに)賛成か反対かになると、反対にしてしまう」
「トランスジェンダーと聞いて意見が変わったことは自分の中の差別の気持ちがあったということで、少し恥ずかしかった」

今回のシチュエーションを「チアリーディング部のマネージャー」に設定したのは、まさにこの部分に気付いて欲しかったからです。“女子がやるもの”というイメージが根強い「チアリーディング」というスポーツ、そして「部活のマネージャー」という立場。女子がやらなければならないという明確なルールはないけれど、自分たちが無意識のうちに規範をつくり、“男子”という性を阻害してしまっている状況が、見事に教室で再現されていました。

② この無意識の“ジェンダー規範”によって、誰かのやりたいことが阻害されるケースがあるということ
さて、このように“ジェンダー規範”そのものの存在に気付くだけでは、まだ「ジェンダー平等」を実現させるための入り口に立ったに過ぎません。大切なのは、“ジェンダー規範”によって「誰かのやりたいことを阻害してしまっているかもしれない」と気づけることです。

しかしそのためには当事者が抱いている心情を想像する力が必要であり、実はとても難しいことでもあります。
生徒さんからも
「当事者がアピールをいっぱいするのも必要だけど関係のない人が気づいて理解することが大事だと思った」
という前向きなコメントがある一方、
「いきなり転校してきて、どんな子も分からないのに入部を許可することは少し怖いと思った」
という現実的なコメントもありました。
自分と関係のない“誰か”が実現したいことについて、想像力を働かせることは確かに難しいことかもしれません。しかし社会全体で「ジェンダー平等」を実現するには、まずは自らの“ジェンダー規範”によって「誰かのやりたいことを阻害してしまっているかもしれない」と多くの人が意識することから始まるのではないでしょうか。

③ “意見の異なる他者”と対話することの意義、難しさ
この授業を受けた生徒さんから、“意見の異なる他者”との対話における意義と難しさについて多くのコメントをいただきました。
「一つのことをみんなで話すことのむずかしさを改めて実感しました」
「私は反対の意見からずっと変わらないと思っていました。しかし、一つの意見や主張だけでとても悩みゆらいでいたので、素直に人の意見を受け入れることは大切だと思った」
「初めは伝統だから、男子が入ってくるのはおかしいと思っていたが、その人の意見を聞いたり少しでも考えを変えるだけで色んな提案がでてきた。」

今回は机を後ろに下げて、生徒全員でフリーディスカッションができるよう、教室の手前に広いスペースをつくりました。25人で一斉に話し合うことは「難しかった」という声も寄せられましたが、同時に大きな意義も感じてもらえたようです。今回のようなオープンエンド形式の問いは、すぐに結論がでるものではありません。生徒さんは“意見の異なる他者”との対話を重ねることによって、「ジェンダー平等」というテーマへの関心や理解を深められたと回答してくれました。

④ 真の“ジェンダー平等”を実現するには、多くの人が状況を変革する主体となる必要があり、それには多少なりともコストや責任が伴うということ

これを伝えることが、最も難しかったように思います。今回あえて生徒さんに「クラスメイトとして生徒総会で発議するかどうか」という問いを投げかけたのは、状況を変革する主体として必要となるコストと責任について、立ち止まって考えてもらいたかったからです。反対派が圧倒的多数を占めるなか、「本人が入りたいと言っているのだから、チアリーディング部に入れてあげよう」と発言することは確かに勇気がいることであり、変革のための第一歩となる重要な行為です。しかし「誰かがやりたいこと」を実現するための予算や、制度や、すごしやすい環境などを用意するためには、当事者を含めてさらに綿密な議論が必要となります。

生徒さんから「1人の意見を大事にするか、多数の意見を大事にするか、とても難しい問題だと思いました。」というコメントをいただきました。今回のワークにおける究極のテーマは、こんな問いなのかもしれません。

次回のテーマは…

【日本の未来を語ろう in school vol.3】では、
「高校生300人に届け!東京2020に向けた『パラリンピック』の授業」を特集いたします!

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