2018/06/18

【日本の未来を語ろう in school vol.3】「AIの発達した未来は、怖い?」ライフイズテック本社で、高校生らがディベート

Written by古野香織(POTETO)

日本の未来を語ろうin school 第3弾は、「ポスト・シンギュラリティ」

学校現場における先進的な「対話の場」を紹介する「日本の未来を語ろうin school」。 第1弾では「投票の質」、第2弾では「ジェンダー平等」について特集しました。

第1弾はこちら
第2弾はこちら

第3弾となる今回は、千葉県市川市の高校生が「ポスト・シンギュラリティ*」をテーマに大激論。この学校で授業を担当している数学、情報、社会科の先生、OB・OGも参加しました。当日の様子をレポートします。

*ポスト・シンギュラリティとは
AI(人工知能)の能力が人間を上回る転換点のことを「シンギュラリティ」と呼び、2045年ごろに訪れるといわれています。ポスト・シンギュラリティとは、それ以降の世界のことです。

今回の学校は…

今回取材させていただいたのは、千葉県市川市にある日出学園中学・高等学校。2008年から、「コミュニケーション・ディベート」という教育実践を行っています。設定したテーマに沿って生徒と教員、(ときどき)ゲストが「対話」をする取り組みで、生徒の主体的な学びを促し、すべての参加者の学びを深化させる(本当の)アクティブラーニングとされています(HPから)。参加者は相手を論破するのではなく、答えのない問いに向かって同じ目線で「対話」をするのです。

同学園でコミュニケーション・ディベートを進めてきた社会科の能見太一郎先生は、「多様性がキーワード」だと言います。今回も高校生に加え、数学、情報、社会科などを教えている4人の先生、この春に卒業したOB・OGに加え、なんと取材者の私まで参加させていただくことに。年齢や所属、考え方など、多様なバックグラウンドを持つ参加者が集まるからこそ、毎回おもしろい議論になるといいます。

通常は放課後に校内で開催することが多いのですが、今回は「ライフイズテック株式会社」とのコラボレーション企画のため、3月9日(金)に東京都港区の同社で実施されました。

ライフイズテックとは?

中学生、高校生のためのプログラミング・ITキャンプ/スクールを実施している株式会社です。2010年に設立され、これまでに延べ2万5千人の中高生がプログラムに参加。最近では、ディズニーと共同で開発したプログラミング学習教材「テクノロジア魔法学校」をリリースしたことでも話題となりました。 今回のコミュニケーション・ディベートには、「IT×教育」分野において第一線を走り続けるLife is Tech!から、取締役の 讃井 ( さぬい )康智 ( やすとも ) 氏も参加しました。

まずは、科学技術に対する「不安」を洗いだそう

例えば、バレエを習っているという生徒から、こんな声が上がりました。

AIの発達によって、仕事がなくなるっていうのはよく言われていますよね。私はその中でもなくならない仕事は、人間が創造すること、つまり私が関わっているような芸術関係の仕事かな、と思っていました。でも、それすら人間の仕事ではなくなるかもしれない

この生徒は、最近オリンピックにEスポーツ※の導入が検討されていると知り、人々の「スポーツ」に対する価値観が変化しているのでは、と感じたそうです。スポーツで、生身の人間同士が競うのではなく、コンピューター同士が競うようになれば、「芸術」も人間だけのものではなくなるかもしれない。「そんな日が来たら不安です」と話してくれました。

※Eスポーツとは、エレクトリック・スポーツの略称。コンピューター上の対戦ゲームを、スポーツや競技として捉える際の名称。

このように、科学技術が高度に発達した社会における人間の役割や価値について不安を感じる、という意見は決して少なくありません。

ドラ〇もんの世界は、とんでもない犯罪が起きそうだなっていつも思います。

命あるものへの価値観が変わりそう。おばあちゃんがアイボ(ソニーが開発した犬型の家庭用ロボット)のお葬式とか挙げる時代になるかも

他に不安要素として多く挙げられていたのは、「情報格差」に関するものです。

今の時代でさえ、科学技術を使いこなすことができない世代がいる。これからは更に、情報格差が進みそうだなって思います。ついていける人が少なくなっていくんじゃないかな

下の世代の子たちは、私たちが学校で習っていないことを習う。ちゃんと教育を受けられなかった世代が、時代に取り残されるのでは?という不安があります

AIの普及で知的労働者の枠が減り、知的労働者と肉体労働者との差が広がると思う

生徒だけではなく、先生からも不安の声が寄せられました。

科学技術を悪い人が使うのは怖い。もし讃井さんがすごく悪い人だったら、困るなあ(笑)

『人間以上の力を持つロボットが反乱を起こす』というストーリーのアニメや漫画は昔からたくさんある。人間が完全に理解していないものを、このまま使って大丈夫? という不安はあります。自然への畏怖と似ているかもしれない

怖いのは、生きている意味の喪失です。自分にしかできないことを探さなければならない恐怖。科学技術が発達したら、自分にしかできない領域がどんどん減る。すでに映像授業も始まり、友達ともSNSで繋がっている。先生や学校の価値はどうなっていくのでしょうか

そんな中、「不安は絶対にない」と言い切ってしまう生徒も。

だって、みんなiPhoneが発売されたときに『不安だ~』って言わなかったでしょ? 科学技術は人間の生活を豊かにするはずで・・・。逆に、不安がないことが不安です(笑)

その「不安」って、本当なの?

Life is Tech!の讃井氏は、全員から科学技術に対する「不安」について話を聞いた後に「その不安って、本当なのでしょうか?」と問いかけました。

「AIやITへの恐怖を語るとき、『それはどんなたぐいの恐怖なのか』と考えてみることが大切です。」そう前置きして、讃井氏は6つの「恐怖」の種類を示しました。

・本当の恐怖(リスク)
「確かに、科学技術の発達によるリスクは存在します。最近では、小型ドローンが初めてシリアで攻撃に使用されたというニュースに世界中が驚きました。悪意によって科学技術が利用されるリスクは常にあり、法整備なども必要となってくるでしょう」

・別の原因による恐怖
「でもこのシリアのニュースでも、本当に怖いのは技術ではなく、使う側の人間ですよね。学校でLINEいじめが起こると、『LINEはダメ』という話になる。いじめは以前からあったはずなのに・・・。科学技術そのものが原因ではないのに、『恐怖』として捉えられてしまう場合もあります」

・これまでにもあった恐怖
「AIの登場で『今までとは違う仕事を探さなければいけなくなる』と言われますが、これは今に始まったことではありません。スマートフォンの登場以降、携帯電話会社に勤めている人たちは働き方を変えてきたはずです。大人は皆、時代の変化に適応して仕事をしています。『変化が怖い』というのは、これまでもあったことで、AIの登場とは関係がありません」

・恐怖とは限らない
「AIが絵を描いたり、音楽を作ったりという話がありますが、これはむしろ新しい創作の可能性が広がったと言えるのではないでしょうか。例えば、工業用ロボットの動きとダンスを掛け合わせたユニークなパフォーマンスをしているチームがあります。ITによって、これまでとは違う演出が可能になるということを考えれば、必ずしも恐怖とは限りません」

・なんとなくの恐怖
「具体的には言えないけれど、なんとなく先行きが見えない不安。こういった不安は、いつでも、誰にでもあるものです。『大学へ行くことへの不安』に近いかもしれません」

・そもそも恐怖ではない
「例えば、『人間の意志に関係なく、自動車が動くなんて怖い』という声があります。しかし、車の自動ブレーキシステムや誤発進抑制機能などは、すでに実装されており、私たちの生活の中に当たり前にあるものです」

最後に、讃井氏は「科学技術の発展で、みんなが向き合う恐怖やリスクは、『そもそも本当にリスクなのか?』『それは何故か?』ということを、常に問い直す必要があります。多くの場合、そのリスクは超えることができたり、単にリスクだと思い込んでいるだけということもあるのです」と語りました。参加者も「なるほど!」と納得の表情でした。

科学技術の発達の先にある、ポジティブな未来とは?

「ポスト・シンギュラリティ」をテーマに始まった、このコミュニケーション・ディベート。
最後のクエスチョン「 科学技術の発達の先にある、ポジティブな未来とは?」について考えました。

ある生徒は、「不老不死を実現できるのでは」と答えました。

「人間の脳みそをコピーしてAIに組み込めるなら、身体はいらなくなる。不老不死が実現できるかもしれません。AIと人間と違いがなくなるから、恋愛もできるんじゃないですか」

私も、肉体からの解放が夢です(笑)。自分じゃないものになりきって生活したり、変身したりすることって、夢ですよね。現実の自分はカプセルに入っていて、VRでバーチャルな世界を現実の世界と錯覚しながら生きる。こんな選択肢があっても良いと思います

また、「人間の代わりにロボットが仕事をしてくれる」という意見も多く見受けられました。

いろんな仕事の効率が上がり、人間は好きなことができる。生身の体じゃ限界があるけど、機械には限界がない。分身ロボットを持って、その機械に働かせたい

これまでは人間に代わるものって動物だったけど、それがロボットに代わるなら、機能的にも精密。3K(きつい・汚い・危険)と言われる仕事を人間がやらなくても良くなる

人間が関与しなくても社会が回り、働かなくても生命維持活動ができるようになる。そうすると、みんなが好きなことをやって生きていける世界になるのではないか

皆が盛り上がったのは「生活環境をVR(バーチャル空間)にしたい」という意見です。

東京の首都がVRになればすごく良いのに、と思う。官僚や政治家は一か所に集まるのではなくて日本中、世界中に散らばることができるから、災害が起きても機能停止しないし」「そういえば武善先生(情報)、学園祭を全部VRにしようって言ってましたよね?(笑)
そうそう、装飾しないで全員がスマホをかざす学園祭ね
やりたい・・・
段ボールの粗大ごみが無くなるね

面白かったのは、「逆に、便利じゃないものの価値が上がる」という意見。
僕は歩くことや、紙の本を読むのが好き。科学技術が発達するにつれて、好きなものの価値が上がっていく気がします。『しなくてもいい」ことに対しての素晴らしさを、より一層感じることができる世界になるのは、個人的には楽しみですね。

数学の佐久間先生からは、最後にこんなコメントも。

『人間が想像できることは必ず実現できる』という言葉の現実味が、増していくんじゃないかな。『やらなければならないこと』よりも『やりたいこと』が重要になり、更にそれがどんどん実現できるようになる。これからは、『やりたいこと』を実現するためにAIをどう使うかを考えた方がいいと思う。僕が願うのは、全人類に1億円が当たる未来。つまりベーシックインカムをどうしたら実現できるかを、AIに考えてほしい。あとは、『宇宙はなぜできたのか』みたいな人類の大疑問もそうだよね。僕の生きている間に解いて欲しいな

若い世代が、どんどん活躍できる時代に!

色々な角度から、熱い議論が交わされたコミュニケーション・ディベート。Life is Tech! の讃井氏は最後にこんな言葉を投げかけました。

人間は常に変化をして、適応していく生き物です。もしその変化を恐れてしまうなら、今『スマホが怖い』って言っているおばあちゃん達と一緒になってしまいます。今の10代、20代が生きている社会は、相当面白いですよ。特に、仕事や職業選択においては『ここ100年間で最も面白い時代』だと言われています。明治維新って人々の価値が大きく変わりましたよね。今は技術によって、また価値観や生き方が変わってきています。そして間違いなく、若い世代がどんどん活躍できる時代になってきました。例えば20代前半で起業して成功している方がたくさんいますし、Eスポーツで活躍しているチームは、みんな大学生くらい。やりたいことを具現化できる技術はあるので、これからは人間のアイデアが大事になってくるでしょう。ゲームでも、踊りでも、本でも、何でもいい。技術とみんなの好きなものを組み合わせるときに、活躍できるチャンスがたくさんあります。好きなものを仕事にすることは、現実的な目標として考えてほしい。『よくわからないもの』として恐れるのではなくて、楽しみながら、この変化を乗り越えていってほしいです。

大白熱の「ポスト・シンギュラリティ」についての議論、いかがでしたでしょうか。 日本の未来を語ろうin school、次回もお楽しみに!

AUTHOR…古野香織/東京学芸大学大学院 教育学研究科 社会科教育専攻 (修士課程1年)

pagetop