DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2018/06/25

(前編)社員の7割が知的障害者「彼らなしに会社の成長はない」 国内トップのチョークメーカー・日本理化学工業

Written by 丹羽菜々香(POTETO) with 朝日新聞DIALOG編集部
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東京から多摩川を越え、のどかな土手沿いを歩いたところに日本理化学工業の川崎工場がある。学校で使うチョーク市場の国内シェア50%以上を誇るトップメーカーだ。ホタテの貝殻をリサイクルして作る「ダストレスチョーク」は、筆者が通った小中学校や高校でも先生が使っていた。

1937年に創業し、従業員数は86人(2018年6月現在)。大山隆久社長(49)は、祖父、父から継いだ3代目だ。メインの川崎工場のほか、北海道美唄市にも工場がある。

そんな日本理化学工業の特色は、社員の70%以上が障害者だということだ。川崎工場で働く約50人のうち知的障害者が36人いる。障害者雇用を始めたのは、半世紀以上前の1960年。工場内で、障害をもった社員たちはどのように働いているのだろうか。現場には、長年かけて積み重ねられた、きめ細かな工夫がちりばめられていた。

「彼らがいなければ成長できなかった。彼らがいることでこの会社は回っている」

大山社長はそう語る。社長自身も、かつては、障害をもつ人はできないことが多いと思っていたという。障害者を大勢雇っていては会社が成長できないのではないかと危機感を抱いたが、一緒に働くうちに自分の考えが間違っていたことに気づかされた。

それはいったいどのようなことなのでしょう? そう尋ねると、「工場を見学してもらえればわかります」と大山社長。私たちは工場へ足を踏み入れた。

工場には小さな工夫が詰まっていた

それぞれの持ち場で黙々と仕事をこなしていく社員たち。手際よくチョークを作り上げていく。彼らが知的障害者だとは、言われなければ分からない。当初はシール貼りなどの単純作業だけを担当していたが、個人の理解力に合わせて仕事の幅を広げていき、今では製造工程の全ラインを障害者が担当している。

いまに至るまでに、どのような工夫の積み重ねがあったのだろう。

どんな仕事を任せられるか。最初に考えたのは材料の計量作業だったそうだ。てんびんを使って重さを量るときに、材料の種類によって量りとる重さが異なるため、数字が苦手な障害者には難しかった。そこで考えたのが、色で分ける方法。材料が入った缶、計量に使う容器、そして重りを、材料ごとに青と赤にそれぞれ統一する。そうすれば、赤の缶から取った材料は赤の容器に入れ、赤の重りと釣り合わせるようにして、てんびんで量ることができる。このアイデアは、前社長で障害者雇用を始めた大山泰弘会長(85)のひらめきだった。一人で通勤できることを入社の条件にしていたので、信号の識別ができれば色分けも理解できるだろうと考えたのだ。

ほかにも、細かい工夫がたくさんあった。たとえば不良品のチョークがないか点検する作業では、本来は「ノギス」と呼ばれる測定工具を使うが、ここではこのような四角い入れ物を利用している。

このくぼみにチョークをはめ、もし入らなければ太すぎ、一番下まで入ってしまえば細すぎる、と判断する。

こうした工夫は、障害に関する専門知識をもたない社員たちが、日々、障害をもつ社員たちと接するなかで編み出されたものだ。個々の理解力に合わせるため、社員には一人ひとりファイルがある。何かうまくいかないことがあると、どこがダメなのか、どうすればうまくいくのかを考え、様々な方法を試して、その過程を全てファイルに保存する。

「一人ひとりに成長してほしい」

現場を管理する社員の亀田昭人さん(51)は、「もしその後、似たような事例があったときに、ファイルから昔の対処法を知ることができます」と話す。

亀田さんは今年で入社6年目。以前は生産ラインではなく営業担当として働いていた。作業の合間にインタビューさせてもらった。

――働き始めて、戸惑ったことや自分の中で変化したことはありますか?

亀田さん 製造工程に入った当初は、ほぼ毎日が戸惑いでしたが、一緒に働いてみると彼らから学ぶことのほうが多かったです。営業のころは、昼休憩や朝礼など、仕事以外の時間にしか関わりがなかったけれど、仕事場に立つ彼らは人が変わったように真面目でね。邪念なしで作業を行うから、一度教えたら正確にやってくれるし、驚きました。

あとは、日々勉強の積み重ねです。例えば、以前、私が厳しく注意している時にニヤニヤしている社員がいたんですよ。バカにされているのかと思ったけど、そうじゃなかった。本人は反省しているけど、表情と気持ちが別々に動いてしまうんですね。本で学びました。否定の言葉を使うとポロポロ泣いてしまう社員には、両腕を大きく使って「○」とか「×」とかやって伝えます。

――知的障害をもつ人と関わるうえで、気をつけていることはありますか?

亀田さん できないことを素直に言ってもらえる関係を築きたいと思っています。積極的に声かけして、メンタル面も気にかけて信頼関係を少しずつ作っていきたい。体調が悪くても自分から言い出せない人もいるので、毎朝体温を測って、トイレに行く回数も気にかけています。

一人ひとりに成長してほしいので、毎日目標を確認するようにしています。目標設定が高すぎてもよくないし、逆もよくない。適切な目標を持てているか毎日確認して、帰りにも達成できたか確認しています。

チームの目標が書かれたボードを見せてくれた亀田さん。かつては1日1000箱だった目標出荷数は、今では1日1800箱に。チーム全体の成長で、目標はどんどん上がっているそうだ。

工場を見学していて気づいたのは、写真の多さ。文字を読むのが苦手な社員のために、文字と合わせて写真が多く使われ、視覚的にわかりやすくなっている。 ほかにも、時計が読めない社員のために砂時計が置かれていたりする。

仕事が好き、が伝わってくる

ここで働く障害をもった社員はどう思っているのだろうか。入社15年目の竹内章浩さん(33)に話を聞いた。竹内さんは、大きなミキサーで材料を混ぜ合わせるチョークづくりの最初の工程を担当している。毎日の湿度の変化などによって水の量を調節する必要がある、難易度の高い作業だ。

――仕事の楽しさや、やりがいは何ですか?

竹内さん 自分で作った製品を使ってもらえること。混ぜる水の量の調節が難しいけど、はじめは少なめにして少しずつ足していくのがコツ。一発でうまくいくと、うれしい。最近はすぐできるようになってきた。

――目標はありますか?

竹内さん 1日8回ミキサーを回すこと。この目標を年間180日以上達成すること。それから、ミキサー以外の作業もできるようになりたい。

笑顔で答えてくれた竹内さん。その後、重そうな缶をもち、ミキサーに材料を入れる作業では、真剣な表情をしていた。

日本理化学工業では、休憩時間はチャイムが知らせ、食堂で昼食をとる。しかし、仕事に夢中になり、声をかけないとずっと作業をしている社員もいるという。取材中、お昼のチャイムがなり職員は片付けを始めた。しかし、なかなか出ようとしない人もいた。取材に答えてくれた竹内さんが、興味津々に他の生産ラインの作業場をのぞき込んでいたのも印象的だった。仕事が好きということが言葉はなくても伝わってくる。

「障害をもつ社員は戦力」社会に伝えることがミッション

大山社長は言う。

「私たちの会社は、知的障害者が全体の7割以上を占めていますが、しっかり経営ができています。障害をもった社員は戦力であり、この会社から障害者雇用をとったら何も残りません。しっかり利益を出して成長していく強い経営を行い、うちでできていることを世の中に伝えていくことが我々のミッションだと思っています。それが社会への貢献につながると信じています」

「障害者」。その言葉に私たちは縛られすぎているのではないか。一人ひとりは違うのに、「障害者」とひとくくりにしてしまっているのではないか。それは健常者にも言えること。そんなことに気づかされた取材でした。

最後に少しだけオマケ情報を。チョーク市場は、少子化や学校現場へのタブレットや電子黒板といった電子機器の導入で、年々縮小している。そこで日本理化学工業は、新しい固形マーカー「キットパス」を生産・販売している。窓ガラスやお風呂の壁に描いて消せるものや、ボディペイントができるものなど種類も豊富だ。もちろん体に害のない成分を使っているので安心。筆者も実際に使わせてもらったが、窓ガラスに絵を描くことがこんなに楽しいとは思ってもみなかった。「お風呂場でリラックスしているとき、思いついたアイデアをすぐに書きとめられます」と大山社長。子どもだけでなく大人にもオススメな「キットパス」は、クリエーティブライフにピッタリだ。

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