ソーシャルイノベーターに聞く「人と人をつなぎ、社会をよりよく」喜多恒介さん(29)

朝日新聞DIALOG編集部

朝日新聞DIALOGは「2030年の社会課題を考える」をコンセプトとしたプロジェクトです。2030年代に社会の最前線に経つ、若きソーシャルイノベーターが多数参加しています。2回目は「人と人をつなぎ、社会をよりよく」をテーマに中高生向けのキャリア教育などを実施している株式会社キタイエの喜多恒介社長に話を聞きました。

#キャリア教育 #社会資本 #つながり

Q:普段はどのような活動をしているのですか?

A:それが色々やってまして……。まずは大学院に通ってます。あとは、株式会社とNPO、社団法人を経営しています。そのほか、大学のキャリアアドバイザーを務めたり、ダボス会議(世界経済フォーラム)の若手メンバーの国際会議に参加したりもしています。僕の願いは、「人と人とのつながりで社会をよりよくすること」なんです。

今、特に力を入れているのは「やりたいことを見つける」をテーマにした高校生、大学生向けのコミュニティスクール「Narrative Career School」です。半年前に開講したばかりなのですが、すでに47都道府県から2千人を超す参加者が集まり、とてもびっくりしています。主な活動は、2泊3日の合宿プラス、2か月間のフォローアッププログラムです。合宿では数十人から100人規模で「対話」と「アート」を軸に、自分の「やりたいこと」を発見します。僕の知人の社会起業家やアーティストや研究者などが多数、メンターとして参加してくれています。

Q:なぜ、こうしたスクールを開こうと思ったのですか?

A:僕、line@をしているんですが、「自分のやりたいことがわかりません」「将来が不安です。どうしたらいいんですか」「卒業が遅れても、大学時代に留学に行くべきでしょうか?」「お薦めのインターンを教えてください」というメッセージが、毎日数十通届くんです。会ったことがない人からもですよ。それだけ、今の高校生や大学生が、自分の将来に対して悩みを抱えている。何とか解決できないかと考えて行きついた先が、このスクールでした。

思えば自分自身も学生時代から、周りの人たちの進路の決め方に違和感がありました。大学は東大だったのですが、周りの人になぜ入ったのかと聞くと、「とりあえず偏差値が一番高かったから」。就職先を決めた理由も「やりたいことはないけど、大手企業で安定してそうだから」。それで幸せならいいのですが、違和感を抱きながら過ごしている人も少なくないなと感じていました。

やはり僕らの世代には「やりたいこと=自分自身がやりがいを感じられること」が必要です。そして、各々が自分のやりたいことを見つけて活動をしていくことで、日本や世界がよりよくなるんじゃないかと思います。

Q:活動を続ける中で、見えてきた課題はありますか?

A:僕らの世代には「つながり格差」があるということです。自分自身の好奇心、やりたいことを引き出し、それを応援してくれる「よき大人」との出会いが、一部の人には沢山あって、大半の人にはほとんど無いという意味での格差です。ナラティブスクールの合宿に参加した学生の多くが、合宿後に泣きながら「こんなに自分自身と向き合ってくれる大人と出会ったのは、生まれて初めて」と言うんですね。

東京で活躍する学生起業家のような人には、彼らと深く向き合い、応援してくれる大人の「メンター」や「仲間」がいます。もちろん、そうした一部の、やる気やモチベ―ションの高い人に「よき大人」との出会いが集中するのは分からなくもないのですが、そこを教育やコミュニティーの力で何とか変えられないかと思っています。どんな若者にも「よき大人」との出会いがあれば、やりがいを持って社会で活躍するチャンスを見つけやすくなるんじゃないかと思うんです。

Q:これからどんな活動を展開していきたいですか?

A:まずは大学生だけでなく、高校生に向けても「自分のやりたいことを見つける」ための思考方法や、「よき大人たち」とのつながりを提供していきたいです。僕自身、大学院でこの領域に関する研究を行いながら、来るべき大学入試改革に向けて、単に偏差値だけで志望先を決めるのではなく、学ぶモチベーションを高く持って進学する生徒を増やしたい。こうした狙いを実現するため、実は今年の夏に都内のフリースクールと組んでサマーキャンプを開催しようと思っています。

また、ナラティブキャリアスクールの仕組みを海外展開していくため、今年はミャンマー、タイ、ベトナムでプロジェクトを展開する予定です。

さらには、今の高校や大学が担いきれていない、キャリア支援やコミュニティー機能を補完する「もう一つの大学」をつくりたいですね。何かを教えるのではなく、生徒一人ひとりの好奇心やモチベーションを引き出し、深めて広げていくことを学べる場。教授は、社会の第一線で活躍し、ファシリテーションができる人です。多くの企業や行政とコラボレーションしながら、仕組みをつくっていきたい。また、キャリア選択に関しては、カウンセラーとAIを活用し、個々の能力開発に最も資するインターン先や留学先、会うべき人や読むべき本をレコメンドするようなサービスも合わせて提供したいです。

Q:2030年の日本はどうなっていると思いますか? そのとき、どんな自分になっていたいですか?

A:現状のままでは、未来が見えない閉塞感の強い時代になってしまうと思います。一筋の希望を見出して楽しむ人たちと、諦めて日々をつらそうに過ごす人に二極化してしまう予感がします。テクノロジーは、良くも悪くも二極化を促進する方向に活用されていくでしょう。そのなかで、社会の分断を防ぐために、コミュニティーの存在がますます重要になっていくと思います。僕が得意とする「コミュニティーを創り、動かす力」をこういった方面で役立てられたらいいなと思います。

僕自身は、テクノロジーや資本の力を「人とのつながりをつくる」「人の可能性を開花させる」という方面で使っていきたいと思います。そのために、今まで培ってきた技術や力をコミュニティやテクノロジーにどんどん落とし込んでいきたいし、もしかしたら僕自身がAIやVRになってしまう日も遠くはないのかもしれないと思ったり(笑)

そのなかで「愛」「勇気」「信頼」「生命」「意志」とは何か、ひいては「人間」とは何かを考え続け、社会に問い続ける存在でありたい。それを肩書で考えた時に、起業家なのか、政治家なのか、学者なのか、アーティストなのかはよく分かりません。どれでもいいと思いますし、全部でもいいと思います(笑)。あ、少なくとも「優しくてかっこいいお父さん」にはなっていたいですね。子ども、大好きなんで。

喜多恒介(きた・こうすけ)
株式会社キタイエ 代表取締役社長
1989年、埼玉県生まれ。私立武蔵中高、東京大学農学部卒。慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士2年で、ソーシャル・キャピタル、社会ネットワーク理論などを専攻している。山梨学院大学キャリアアドバイザーとして、キャリアデザインの授業も担当。学部時代から、休学や留学を挟んで通算10年間の学生生活中に、文部科学省「トビタテ!留学JAPAN」、大学生の次世代リーダー養成プログラム「G1 College」、就活支援のNPO「en-courage」、空き家をゲストハウスにするNPO「Cloud JAPAN」、奨学金支給の「孫正義育英財団」、ミャンマーにキャリア教育を届ける「M-Link」の設立や運営を支援。「東京五輪までは学生でいる予定です(笑)」

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