2018/08/23

発達障害の子どもたち、アートとテクノロジーを楽しむ
「音と光の動物園」、横浜で開催

Written by 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 松本哉人(POTETO)

アートとテクノロジーを融合し、発達障害の子どもたちの感性を刺激するワークショップ「音と光の動物園」が7月7日、横浜市の横浜みなとみらいホールで開かれました。4歳から10歳までの18人と保護者らが参加し、切り紙工作やデジタルアート、打楽器演奏やコンサートを楽しみました。

ワークショップの開催は4回目。主催するのは、東京藝術大学センター・オブ・イノベーション(COI)拠点という、やや聞き慣れない組織です。ワークショップの立案者で同大COI特任教授の (あら)()(おう)() さんは、「芸術と技術を融合し、障害のある方の表現活動を企業と共に産学連携で支援しています。研究を通じて生まれた新しい技術を、誰にでも使いやすい形で社会に普及させ、共生社会を実現することを目指しています」と話します。同大と共に、公益財団法人ベネッセこども基金、特定非営利活動法人ADDS、公益財団法人横浜市芸術文化振興財団がワークショップを主催しています。

会場に到着した子どもたちは、外の暑さなどすっかり忘れたかのように、切り紙工作に取りかかりました。カンガルーや象、亀、ペンギンなど、複数の動物の型紙から好きなものを選び、ペンや色鉛筆で着色。気に入った色だけで一心不乱に塗りつぶす子、様々な色を規則正しくパターンに分けて塗っていく子、シールをちぎり、模様として利用する子など、個性あふれる作品が次々に完成。子どもたちはそれぞれ、作品をiPadで撮影しました。

その後は、同大の研究者たちが開発中の3種類のデジタルアートで遊びました。アプリ「この音なあに?」は、「メエメエ」「にょろにょろ」「のっしのっし」など、動物にまつわるオノマトペが書かれたカードをiPadのカメラで読み込むと、拡張現実(AR)技術で、画面上にその動物のアニメーションが現れ、音声が出る仕組み。開発したCOI共感覚メディアグループの(うえ)(ひら)(てる)()さんは、「発達に凸凹がある子どもたちの中には、視覚情報と音声情報を結びつけることが苦手な子もいます。遊びを通じて、()()を増やしたり、言葉のイメージをふくらませたりしてもらえたら嬉しい」と語りました。

「あー!!!」「おーーっ!」。男の子たちが大声を張り上げて熱中していたのが、「音を目で見る」ことができる、その名も「OtOmi(オトミ)」というアプリ。COI共感覚メディアグループ特任助手の桒原寿行さんが開発しました。iPadのマイクに向かって大きな音を出したり、手をたたいたりすると、音量に応じて、画面に表示されるアニメーションが震えたり、大きくなったり、増えたりします。

三つ目は、人がビデオカメラの前で手を振ったり、おじぎをしたりすると、スクリーンに映し出されたアニメーションのネズミが、時間差で同じ動作をする、というデジタルアート。中には、ネズミがリアクションするまでの時間が待てず、何度もジャンプを繰り返す子もいました。この作品を修了制作として手がけている、大学院映像研究科修士2年の築地のはらさんは「来年1月の最終発表に向けて改良を進めます」と話していました。

工作とデジタルアートを楽しんだ後は、音楽タイム。COIのパートナー企業であるヤマハの関連会社、ヤマハミュージックジャパンによる打楽器の演奏体験です。全員で輪になって座り、ジャンベやトゥバーノといったアフリカの打楽器が1人に1台ずつ割り当てられます。ファシリテーターの飯田和子さんは全身で音量やリズムを指示し、会場はダイナミックな音と興奮、一体感に包まれました。

最後は、東京藝術大の卒業生有志によるコンサートです。ピアノにバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス、クラリネットに鉄琴。バイオリンによる救急車のサイレン音、ビオラによる牛の鳴きまね音など、それぞれの楽器の特徴のある音を生かした音当てクイズで盛り上がった後は、サンサーンス作曲の「動物の謝肉祭」の演奏が始まりました。カンガルーや亀、象など、様々な動物たちの動きをイメージして作られた組曲です。演奏中、合奏団の頭上にある球形のオブジェに映し出されたのは……子どもたちが最初に作った切り紙の動物たち。東京都から参加した小学2年の森花音さん(8)は「ペンギンさんやライオンさん、また作りたいな。音楽も楽しかったです」と嬉しそうに語りました。

東京藝術大は2011年から、障害の有無にかかわらず、多様な人々がともに芸術を楽しめる社会を目指して「障がいとアーツ」という授業を開講。学生たちが社会福祉法人や特別支援学校を訪ね、音楽や美術、書道、ダンスなどに取り組む障害者の方たちと作品を共同制作したり、海外から障害のある芸術家を招いたりし、その成果を毎年12月に「藝大アーツ・スペシャル」というイベントで発表しています。

2015年には文部科学省と科学技術振興機構による産官学連携プロジェクト「COI」の拠点に認定され、芸術と科学技術の融合で、障害者の表現活動を支援するほか、それらの新しい技術をユニバーサルな技術として普及させる研究に取り組んでいます。

人工知能を用いたピアノの演奏追従システムも、この枠組みで誕生しました。東京都内の特別支援学校とのコラボレーションで、車いすの高校生が「人さし指だけでショパンのノクターンを弾きたい」と話したのが開発のきっかけです。指が不自由で、足でペダルを踏むこともできないなか、どうすれば演奏できるのか。ヤマハと共に開発したのは、あらかじめピアノに曲を読み込ませておき、人間の演奏に合わせて伴奏を追従し、ペダルもそれに合わせて動く技術でした。「追従」という言葉通り、テンポが遅くなれば、伴奏も遅くなり、ミスをすれば、正しい音を弾くまで待っていてくれます。

新井さんは「1人のニーズに深く寄り添っていくと、ものすごくユニバーサルなものができるんです」と話します。テクノロジーの力で、表現や鑑賞の仕方の選択肢が広がることは、障害のある方だけでなく、より多くの人にアートを楽しんでもらうきっかけづくりになるのかもしれません。

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