ソーシャルイノベーターに聞く「安全基地としての家族をみんなに」新居日南恵さん(24)

朝日新聞DIALOG編集部

「2030年の社会課題を考える」をコンセプトにした朝日新聞DIALOGのプロジェクトには、若きソーシャルイノベーターが多数参加しています。学生や若手社会人が子育て家庭の暮らしを1日体験する「家族留学」などを通して若者のライフプランニングを支援する、株式会社manmaの新居日南恵社長(24)に話を聞きました。

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Q: 事業内容を教えてください。

A: 大学生などの若者が子育て家庭を1日訪問する「家族留学」を行っています。訪問先の家庭で子どもと遊んだり、食事を共にしたりしながら結婚や育児のリアルを学び、自分の将来に役立ててもらうのが狙いです。参加者は400人を超え、最近は男性の参加も増えています。受け入れ家庭の登録数も約230世帯まで増えました。

参加したある女子大学生は、家族留学した家庭でお父さんが料理する姿を見て、「考え方が変わった」と話してくれました。その学生の両親は共働きでしたが、母親が仕事をセーブしながら一人で家事をこなす姿をみて育ったので、「自分は仕事を頑張りたいから子どもは産まない」と決めていたそうです。それが、家族留学を通して、父親も一緒に家事をする家族のかたちもあることを知り、結婚や出産に対して前向きになれたといいます。

今年8月には、国の交付金を受けて埼玉県と共同の家族留学を実施しました。自治体との連携はこれが初めてでしたが、今後も少子化対策の交付金を活用して自治体と一緒に事業を継続的に発展させていきたいです。

家族留学以外では、トヨタ自動車やソフトバンクグループなどの企業で就活生や女性社員向けのセミナーや情報発信なども行っています。就活のタイミングで家族留学に来る学生が多く、入社後も結婚や子育てをしながら仕事を続けていけるのか不安に思う人も少なくないので、そういう人たちに先輩女性社員の声などを届けることで「大丈夫だよ」と背中を押すことができたらと思っています。

Q: 「家族留学」を始めたきっかけは?

A: manmaは2014年、私が大学1年のときに学生団体として設立し、2017年1月に株式会社化しました。設立当初は、子育て中の大学准教授の女性へのインタビューや、ライフプランを考えるイベントの開催、託児所でのインターンシップなど、いろいろなことをしていました。そこで知り合った女性の自宅を訪問したことが家族留学を始めるきっかけになりました。

その女性は、働きながら3人の子どもを育てるシングルマザー。それまでも仕事や育児の話は聞いていましたが、実際に家を訪ねることで、子どもがいる雰囲気を実感し、リアルな本音を聞くことができました。一番驚いたのは、子どもと遊ぶってこんなに疲れるのか!ということ。5歳くらいの子たちと河川敷の芝生の斜面を段ボールで何度も何度も滑って、本当にくたくたになりました。子どもは目の前で泣いたり、けんかしたりもするし、子育てしながら働く家庭の飾らない本当の姿を見聞きできた実感がありました。

そのときの体験で手応えを感じたので、それまでの活動でつながりのあった家庭にお願いして、manmaの他のメンバーにもトライアルで体験してもらいました。それをSNSで報告したら大きな反響があり、もっと多くの学生に体験してもらった方がいいと思って2015年から受け入れ家庭と学生を募集し始めました。表向きはキラキラしている働くママたちも、実はいろいろな苦労をしていることを知り、就活では聞けないような本音を聞けることが、家族留学の広がりにつながったのだと思います。

Q: そもそも、なぜ「家族」に関心をもったのですか?

A: 高校生のときは教育に興味がありました。自分が自信のない中高生だったこともあって、小学生のうちから教育を通して自信形成を助けたいと思ったからです。その延長で、大学1年のときには発達障害やパーソナリティ障害の存在についても学びました。そうして、社会のなかで生きづらい人の理由を考えていくうちに「自己肯定感」に行き着き、それをつくるのは教育ではなく家庭環境だと思うようになりました。生きるのに必要な「自信」って、走るのが早くて誰にも負けないっていう自信ではなくて、転んじゃったけどそんな自分もいいよねと思える自己肯定感のこと。それは、小さい頃からの親の声かけや、両親の仲の良さなど、とくに家庭環境や親との関係の中で養われていくものだと思うのです。

私自身は双子だったこともあり、比べられることがしんどかった。でも、家族というテーマに向き合い続け、幸せな家族を探していくうちに、自信のなさやしんどさが消化されていきました。manmaをつくって、探究心の矛先が見つかったことが大きかったです。「私はこれ!」というものがあれば、世の中が台風だろうが晴れだろうが、ライバルがどうなろうが関係ないと思える。そうなると気楽なんですよね。本当に苦しいときに助けてくれる友人に出会えたことも支えになりました。

人が家族から受ける影響ってすごく大きいのに、家族組織は閉ざされていて外からの目が入りにくいことに問題意識をもっています。家族留学は、家庭をもつ前の人への支援ですが、今後は今ある家庭に対しても支援していきたいです。

Q: 理想の家族は、どんなかたちをしていますか?

A: 家族に求められる役割は時代によっても変わります。たとえば昔は夫が稼いで、妻はそれを支えることで経済も発展したけど、今は人口が減っていくなかで、家の中で家事労働をしていた人も外で働くことを求められるようになりました。その結果、家庭内では平等なパートナーシップを築ける人のほうが幸せになれる可能性が高かったりします。時代の変化に対応した家族をどうつくれるかに、とても興味があります。

ただ、家族のかたちは日々変わっていくので、どれが正解ということは言えないと思います。これから女性のほうがもっと強くなるかもしれないし、子どもがもっと家事労働にも参加していくかもしれないし、おじいちゃん同士のファミリーができるかもしれないし、パートナーを一生のうちに何度も変えることが当たり前になるかもしれない。だけど、安全基地としての家族的存在はなくならないし、それが人に重要な影響を与えることも変わらないと思います。個人にとって心地良い場所、安心して過ごせる場所をいかにつくっていけるかを考え続けたいです。

Q: 2030年の日本はどうなっていると思いますか? そのとき、どんな自分になっていたいですか?

A: 希望を言えば、そのころには人口減少を受け入れて社会がモデルチェンジできていてほしいです。そのために大事なのは、テクノロジーと海外人材です。機械化を進めるためにテクノロジーの開発に積極的に先行投資するべきだし、海外の優秀な人材が日本で楽しく働けるように彼らを一市民として受け入れ、みんなで支え合える環境をつくる必要があると思います。国が小さくなることを嘆くのではなく、小さいからこそいかに輝けるか、という考え方に変わっていかなければいけない。かつての高度経済成長の幻想を追いかけるのは、そろそろやめたほうがいいと思います。

私自身は、家族に関する事業と研究に誇りを持って携わる人になっていたいです。あとは、経済的、社会的、精神的に大切な人を守れる力をもった人間になるというのが、人生の目標です!(笑)

新居日南恵(におり・ひなえ)
株式会社manma代表取締役社長
1994年生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科修士2年。2014年にmanma設立。「家族をひろげ、一人一人を幸せに。」をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。文部科学省「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」構成員、日本国政府主催WAW!(国際女性会議)アドバイザー、「Forbes JAPAN WOMEN AWARD2017」ルーキー賞。

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