DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2018/08/31

詰め込み教育ではもう無理!?
Society5.0に向けた教育のあり方とは?

Written by 丹羽菜々香(POTETO) with 朝日新聞DIALOG編集部

家電同士をネット回線でつなぎ、声で指示するだけで電気がついたり、電話をかけられたり……。一昔前には考えもつかなかった世界が広がっています。AIなどのテクノロジーが飛躍的に進化すれば、私たち人間の役割も大きく変わっていきそうです。そうした新しい時代に求められる教育とは、どのようなものなのでしょうか。

朝日新聞DIALOGでは、今年1月から4月にかけて連続セッション「U25が考える 2030年に求められる人材とは」を開催し、2030年の日本と世界が、①どんな社会になるか、②ライフスタイルはどう変わるか、③そのとき求められるのはどんなスキルか、を軸に活発な議論を交わしてきました。6月には文部科学省と経済産業省が、未来の学びに関する報告書を相次いで発表しています(文科省「Society5.0に向けた人材育成」、経産省「未来の教室」)。
こうした一連の議論や問題提起を踏まえ、DIALOGでは7月12日、「Society5.0に向けた教育のあり方とは」と題するセッションを、東京・渋谷で開催しました。

冒頭では、連続セッションのファシリテーターも務めた、「Society5.0に向けた人材育成に係る大臣懇談会」メンバーの新居日南恵さんが、懇談会の概要と、6月に文科省が発表した報告書のポイントについて話しました。
「議論が始まった背景には、従来の詰め込み型の勉強では、これからの時代には生き残っていけないのではないか、という危機感があります。指示されたことを粛々とやるのではなく、自分の頭で課題を見つけて解決する人が必要。そうした人をどうやったら育てられるかが課題でした」

新居さんによれば、報告書のポイントは三つあります。
一つ目は「公正に個別最適化された学びの実現」。生徒全員に同じ内容を教えるのではなく、個々人の興味・関心、個人の能力・好奇心に従って、個別の学びができる環境をつくっていくことです。
二つ目は「大学等における文理分断からの脱却」。テクノロジーが発達すればするほど、より理系的な知識が求められるようになる。すべての子どもが、理系の科目やアートについて学べるよう、文系と理系という分断をなくしていくこと。
三つ目は「体験ベースの学び」。中学、高校、大学の10年間をストレートに進学するのでなく、ギャップイヤーや休学の活用を促進することで、留学やインターンなど多様な経験を積める時間をとる。それによって、自分が何を学びたいのか、何をしたいのかを考えられる機会を持つことです。

続いて、朝日新聞で文科省を担当している根岸拓朗記者が、文科省と経産省の報告書の違いについて解説しました。

経産省の報告書「未来の教室」について、根岸さんは、「学びの生産性」がキーワードになっていると指摘しました。子どもたちが、教室に集まって同じことを学んでも、退屈する子もいればわからない子もいます。それよりも、テクノロジーを使って、一人ひとりに合った学びを目指したほうが生産的なのではないか、という考え方です。

「経産省の報告書のほうが、より未来感が強い。学力、学年、授業の時間数といった概念も移り変わっていくという言い回しがあったり、学習スタイルを社会人の仕事スタイルに近づけていこうとする姿勢が明確だったり。日本からグーグルやアップルのような会社が出てこないことへの危機感が見え隠れしている。文科省の報告書には、学びの格差の拡大への懸念や、学力の底上げの重要性を意識したところも感じられるが、経産省のほうは、日本を引っ張っていくとがった人材を出したいという意図が軸になっていると思います」

「一人ひとりに合った教育を」という基本的な考え方は同じでも、底上げのための個別最適化された学びを重視するのか、トップ層を引っ張ることを重視するのか、意見が分かれるところでしょう。また、教えるべきことが増えて教師がますます忙しくなっていることや、新しいスキルを身につけるための教師の再教育など、整備すべき課題もたくさんありそうです。

セッションの後半では、新居さんと根岸さんの解説を踏まえ、参加者全員によるグループディスカッションを行いました。学生からベテラン社会人まで幅広い層が六つのグループに分かれて議論し、最後に各グループが議論の概要を発表しました。

複数のグループから出たのは「学校を社会とつながる場にしよう」という提案です。小学生や中学生のときから、社会人や専門家とつながる機会を作ることで、子どもたちの好奇心を刺激し、興味を明確化することが重要という意見でした。

また、「ヒトがAIに負けないのは、自分が好きなことを究める能力。それが未来の職探しでも重要になってくる」といった意見や、「『スタディ・ログ』などのビッグデータを活用すれば教師の負担が減り、個々人に合った指導ができる」といった声もありました。

一方、「国が本当に求めているのは理系人材で、それを『文理分断からの脱却』という言葉でオブラートにくるんでいるだけでは」といった指摘や、「学校教育だけでなく、受験や就職のあり方、教師の役割も変えていく必要がある」といった提案も出ました。

セッション終了後に、参加者にお話をうかがってみました。

次世代向けの教育などに取り組む一般社団法人ROOTS SPIRALの齊藤寛子代表理事は、「『スタディ・ログ』で個別化・明確化するという考え方には賛成だが、キャリア教育の部分を明文化してほしい」と言います。

「想定外の未来をつくる!」をコンセプトに、中高生のやりたいことや好奇心を後押しするNPO法人青春基地の石黒和己代表理事は、「学校の定義が変わると、教師に求められるものも変わる。教師は、子どもたちが知識ではなく好奇心・探求力を身につける際にサポートをする立場になる。そのための具体的な支援・指導方法を理解することが重要になってくる」と指摘しました。

「人と人とのつながりで、社会をより良くする」をテーマに、大学生のキャリアプランニングに関する様々な活動を展開している株式会社キタイエの喜多恒介CEOは、「DIALOGのセッションのような、異なる世代やバックグラウンドをもつ人々が集まる場所が、未来の学校のようになるのではないか」と話しました。

さて、ここまでいかがでしたでしょうか。
筆者は現在、教育学部で学ぶ大学生で、将来は教師になりたいと思っています。学習指導要領の改訂や大学入試の方法など多くのシステムが変わっていくなかで、戸惑うことも少なくありません。そんな私がずっと気になっているのは、教師の指導力についてです。

教師の今の役割は、決められた知識を教えることが中心ですが、今後、教師の役割が変わり、子どもたちが「生きる力」を身につけるためのサポート役になるとしたら、さらに高度な指導力や知識が求められそうです。今も多忙といわれる教師が、そうした大変革についていけるでしょうか。教師の再教育はうまくいくでしょうか。自分が将来出ていく現場であるからこそ、次々に疑問が湧いてきます。

未来の教育に関する考え方は多様ですが、いずれもメリットとデメリットがありそうです。これからの時代に何が本当に必要になってくるのか。私はまだ絶対的な正解を見つけられていません。でも、テクノロジーが進化した未来を生きるうえでは、やっぱり人間らしさが求められてくるのではないか。改めてそう感じたセッションでした。

pagetop