ソーシャルイノベーターに聞く「好奇心を大切に、一人ひとりの可能性を広げる教育を」石黒和己さん(24)

朝日新聞DIALOG編集部

朝日新聞DIALOGは「2030年の社会課題を考える」をコンセプトとしたプロジェクトです。2030年代に社会の屋台骨を担っているであろう、若きソーシャルイノベーターたちが多数参加しています。NPO法人青春基地の石黒和己代表理事(24)は、日本の高校生たちがより自由に、自発的に学ぶための授業を高校で実践しています。「想定外の未来をつくる!」というNPOのコンセプトに込めた思いを聞きました。

#教育 #NPO #学校

Q: どんな活動をしていますか?

A: 国内の公立高校で、経験を通して学ぶPBL(Project Based Learning)という授業を2017年春から行っています。17年に山梨県の高校で行った授業では、高校生たちが「まち」の魅力を地域の人に取材し、『18』というフリーペーパーを作りました。18年からは渋谷区の都立高校で3年間の学校改革を始動し、「シブヤ」をテーマに会いたい人に取材に行き、青春基地のウェブメディア(http://seishun.style/)に掲載するという授業を行う予定です。「どうせ無理」とやる前に諦めてしまう子が多いので、やってみたいことに挑戦するときに私たちが伴走することで、一人ひとりの可能性を広げることが狙いです。

もともとは自由参加の放課後プログラムとして、集まった高校生たちが会いたい人に取材に行って記事を書き、ウェブメディアをつくる活動をしていました。でも、そこに来ない生徒層にも届けたいと思い、自分たちが学校に出向くことに。活動を続けていくなかで、先生たちも困っていることが見えてきました。さまざまな高校の先生から「新しいことをしたくても、日々の業務に追われてできない」とか「どう取り組めばいいのかわからない」という話を聞くようになったのです。

Q: 活動を始めたきっかけは?

A: もともと国際協力に関心があって、高2のときにフィリピンの孤児院を訪ねるサマーキャンプに参加しました。そこで二つの気づきがあり、日本の教育に関心を持つようになりました。一つは、先進国と途上国という構図への疑問です。「支援」という言葉自体に、経済的豊かさを持つ者が持たざる者に与えるという前提がある。これは価値観の押しつけではないかと思い、国際協力を妄信していた自分に気づきました。

二つ目の気づきは、現地の子どもたちのほうが、私の周りにいる日本の高校生よりも生き生きしていたことです。フィリピンのほうが貧しくて、大人もゆるゆるなのに、子どもたちの将来への期待感は大きかった。一方で、日本で知り合った校外の友達の多くは「学校では本音を言えない」と、どこか不安感を抱いていた。それで、誰が幸せなんだっけ?と思ったんです。いくら経済的に豊かになっても、一人ひとりの可能性をつぶしている日本の教育のほうが課題は深刻。課題先進国である日本のなかで、新しい幸福や価値観のあり方を見つけて、それを途上国の人たちにも提示したいと考えるようになりました。

Q: ご自身は、高校生のころに不安や閉塞感を抱くことはなかったのですか?

A: 私はほとんどなかったので、大学1年のときに高校への出張授業ボランティアに参加して、生徒たちの空気を読み合う様子や、本音を言えない様子に強い違和感を抱きました。自分がのびのびと過ごしてこられた理由は、とてもラッキーな環境で育ったからだと思っています。シュタイナー教育の中高一貫校に通い、制服も教科書も試験もない自由な雰囲気のなかで学びました。歴史の授業で大航海時代を扱ったときには、帆船に乗って東京湾を小さく横断しました。帆船独特の揺れによるひどい船酔いや、風向きによっては全然前に進まないことを体験するなかで、当時の宣教師たちがいかに強い信念をもっていたかを感じました。そんなふうに、さまざまな経験を通して、自分の無力さや想像力を広げることの大切さを知ることができました。

一方で、山奥の学校にクラスメートが7人しかいない環境が当時はすごく嫌だったので、高校進学時に親と交渉してオートチャージのパスモをもらって、放課後は学校の外に飛び出しました。それで校外の友達もできました。社会起業家やいろんな大人にも出会って、彼らが私の話を面白がって聞いてくれて、無条件に応援してくれて、育ててくれた。それがめちゃくちゃ楽しかったんです。そのときの大人に対する感謝と、同じバトンを今の高校生たちにも渡したいという気持ちが活動の根底にあります。

Q: これから、今の活動をどうしていきたいですか?

A: 高校生たちが自分の進路や人生を選択するときの動機は、外発的なことが多い。親や学校の先生から言われたことに従ううちに、つぶされていく本人の思いがあると思います。どうやったら一人ひとりの内発的な好奇心を引き出せるかを考えていきたい。高校でPBLの授業をする取り組みは始まったばかりなので、今ある現場で試行錯誤を重ね、普遍的かつ新しい学びのあり方を提示していきたいです。

Q: 2030年の日本はどうなっていると思いますか? そのとき、どんな自分になっていたいですか?

A: 東京オリンピック以降は日本の経済停滞が決定的になると同時に、テクノロジーが生活を大きく変えると思います。教育もテクノロジーの影響を受けて、先生が教科を教える必要は縮小するのではないでしょうか。それでも学校という場は残っていくべきだと思います。それは経済成長のような大きな物語という幻想が消失し、「既定された当たり前」がなくなっていくなかで、価値観がより多様化し、人生の選択は難しくなり、人々の不安感が大きくなっていくのではと危惧しているからです。そうなったとき、PBLで育んだ「好奇心」という、誰にも評価されず、比較されない内発性が不安と戦う武器になると思う。そのためにも、社会の変化に負けないスピードで、現場の実感を踏まえながら教育の再定義をしていきたいです。

石黒和己(いしぐろ・わこ)
NPO法人青春基地 代表理事
1994年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒、東京大学大学院教育研究科修士2年。2015年、「想定外の未来をつくる!」をコンセプトに、全国の公立高校などで、好奇心や探究から始まるPBL(プロジェクト型学習)を生徒たちに届ける。中高時代は、教科書も試験もない「シュタイナー教育」の学び舎で自由に過ごした。慶大在学中は東京都文京区の青少年プラザ「b-lab」立ち上げに参画。NPOや社会的企業が連携し、課題解決に取り組むことを目指すNPO法人「新公益連盟」に加盟。

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