DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2019/01/28

「トビタテ!留学JAPAN」テック系カンファレンスで見た
70億のバーチャル世界がもたらす幸福な未来の可能性

Written by 乙部修平 with 朝日新聞DIALOG編集部

グローバル化とボーダーレス化が加速する現在。意欲と能力のある全ての日本の若者が、海外留学に自ら踏み出す機運を醸成するため、2014年から官民協働でスタートした海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」は、これまで約6000人の学生を114の国・地域に送り出してきました。

帰国後、各界で活躍するトビタテ生と、支援企業が交流し、新たなアイデアを生み出すテック系ピッチ型カンファレンス「TOBITA Tech Conference 2018」が2018年12月6日、東京・虎ノ門ヒルズで開かれました。「データサイエンス」「サイバーセキュリティー」「ブロックチェーン」を主なテーマに、学生と社会人の計10人がカジュアルな雰囲気のなかでピッチを行い、盛り上がった当日の模様をお伝えします。

会場には参加者が200人以上集まったため、急遽、椅子が取り払われ、スタンディング形式のイベントとなりました。テック系の学生を留学させるため、2年前から未来テクノロジー人材枠を設けたというトビタテ。開会のあいさつに立ったプロジェクトディレクターの船橋力さんは、「2カ月半前にサマーダボス会議に出席し、人工知能(AI)関連のユニコーン企業トップ50社のうち14社が中国企業で、日本企業はゼロと知って衝撃を受けました。日本も一刻も早く同じレベルの人材が輩出するようにならなければいけない。世界で起きていることを見る若者が増えたほうがいい。また、テクノロジーに関する知識はどの分野でも必要になるので、今日のピッチで出てくるような話をみんなが当たり前に知るようになるといい」と話しました。

続いて、トビタテ4期生の佐久間洋司さん(22)が、「人を優しくする機械で、人類のハーモニーは実現できるか?」と題した基調講演をしました。
佐久間さんは、アンドロイド開発などで知られる大阪大学大学院基礎工学研究科石黒浩研究室でAIを研究するかたわら、日本最大級のAIコミュニティー「人工知能研究会/AIR」代表なども務めています。

AIに人間らしい動きを学習させ、システマティックに人間の情動的共感を促進することを研究課題としている佐久間さんは、「私が目指すビジョンは『英知を持って人に影響を及ぼし、世界に調和をもたらすような人間になる』というものです。ユネスコは、争いのない世界を実現するには教育が重要だと言っていますが、私は、教育者や指導者の属人性に頼らず、バーチャルリアリティー(VR)を使って他者をロールプレーすることで情動的共感を高めることができるのではないかと考えています」と話しました。

そのイメージ例として取り上げたのが、大ヒット映画「君の名は。」でした。
「よく調べてみると、瀧くん(主人公)と三葉(ヒロイン)は、作中では10回くらいしか体が入れ替わっていない。それだけで、あれほど愛し合うようになるのはおかしいと思いませんか? でも、他人の体に乗り移るという体験は、それだけ圧倒的に情動的共感を促進すると考えられているんです」

佐久間さんは、「私は、分野に縛られるのではなく自分のビジョンに従って研究していきたい。VRやAIはそこへ向かうツールとして使いたい。今日のピッチに登壇するみんなが何を考えてやっているのか。その背景にある軸を見据えながら聞いてもらえるとうれしい」と基調講演を締めくくりました。

ユニークな例え話に場が温まったところで、10人のスピーカーによるピッチが始まりました。量子コンピューターの活用法を考える会社を起業した5期生の楊天任さんや、AIによる医療診断に取り組む6期生の轟佳大さんらの刺激的なピッチが続きます。

佐久間さんも再び登壇。テーマは「人工知能がもたらす70億の幸福なバーチャル世界」です。

佐久間さんは、バーチャルユーチューバー(VTuber)が流行する背景には、人の動きを読み取るトラッキングシステムの高精度化と低コスト化が進んでいることがあると指摘。一人ひとりが自分のアバターを作成できるようになり、人間らしい動きを生成できるコンピューターが生まれ、対話感をもたらすシステムが発達すれば、個々人に最適化されたバーチャル空間が生まれ得る、と語りました。
「一人ひとりがVRヘッドセットを着けると、自分以外のすべての人が人間ではないのに人間のように動き、対話しているかのように振る舞うバーチャル空間で暮らすことができる。そんなの嫌だと思いますよね。でも本当にそうですか? みんなが、あなたをちやほやしてくれるかもしれない。自分以外は全員が異性の世界だってできる。70億人が70億個の、自分の望む新しい世界を創造し、幸福なバーチャル世界でそれぞれ暮らす。そんな世界が訪れると考えている専門家もたくさんいます」

そもそも幸福な世界とは何か。技術が提示してくれる可能性は、ときに世界そのものへの疑問を見せてくれる――そうした思いが込められた佐久間さんのピッチは、未来社会への示唆に富んだものでした。

これからの日本をリードするテック系の若者が一堂に会した今回のカンファレンス。登壇者の一人ひとりが、世界をどう変えるべきかという明確なビジョンを持っていることが印象的でした。政治や経済だけでなく、テクノロジーの面からも社会課題を解決すべきだという機運が、より高まっていることも実感させられました。

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