2019/02/01

落合陽一が個展「質量への憧憬」を開催
「視力2.3」で切り取った「デジタルで表現できないもの」とは

Written by 小平理央 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 松本哉人(POTETO)

メディアアーティスト落合陽一さんの個展「質量への憧憬 〜前計算機自然のパースペクティブ〜」が、東京・東品川のギャラリーで開かれています(2月6日まで)。落合さんが撮り続けている写真作品が中心です。1月24日にあったプレス向けレセプションで、落合さんは「デジタルの世界で表現できない、物質性を持った表現を志向した」と語りました。その言葉どおり、展示作品の中心は、デジタルカメラで撮影した「イメージ」を印画紙に定着させることで物質性をそなえた「写真プリント」。落合さんが見ている「質量」の世界が、約2000点の写真の中から浮かびあがります。

質量性のある存在を写真にとどめる

落合さんは1987年生まれ。世界のメディアアートを対象とする「アルスエレクトロニカ賞」を受賞するなどアーティストとして活動しています。その一方で、社会的課題解決のためにテクノロジーの社会的実装を提言し、大学教員として次代の社会を担う人材育成にも取り組んでいます。

レトロな機械類の細部にも視線を向けた(提供amana)

広範な活動ぶりを反映するかのように、今回展示された写真のイメージも実に多彩。枯れた植物や、光にきらめく海面、レトロな工場に残る機器の細部、海岸線に立ち並ぶ電柱の遺構などが、カテゴリー別に展示されています。日没後の残照に映える雲や地平線をとらえた写真は、横幅が十数メートルの壁面を埋め尽くすほど。落合さんが見いだし、写真にとどめたイメージの世界を体感するような展示になっています。
「視力2.3」(自称)という、高精度のセンサーのような視線を駆使してとらえた光景。そこに浮かび上がるものこそ、落合さんが感じた「質量」の世界なのです。

看板を撮影したシリーズ(提供amana)

落合さんは、「生きているか死んでいるかわからないもの」に特に質量性を感じると言います。例えば、古びた看板を撮影したコーナーにある「広告主募集」と書かれた建物の写真。広告が繰り返し貼り替えられた跡が残っています。工場の写真では、硫黄で朽ちてきた配管や錆びた鉄骨が「近代産業」の面影を伝えます。
また、神社に結ばれた大量のおみくじの写真からは、デジタルでは感じとることのできない、おみくじという物質に込められた人間の情念の密度を感じさせられます。この作品には、おみくじが表象する人々の「祈り」とともに、それを撮影する落合さんが感じた「やすらかな物質になってほしい」という質量への「祈り」が込められています。
物質がその役割を終えて朽ちていく姿に、写真で新たな息吹を与える。そこに生まれる物質の呼吸が、「質量への憧憬」や「祈り」を呼び起こすのです。

そうした落合さんの写真術を象徴するのが、今回展示した4点の「ソルトプリント」でしょう。
ソルトプリントは、19世紀前半、写真の黎明期に英国人写真家タルボットが発明した印画方法。食塩水に浸した紙に感光剤を塗布して印画紙を作ることから始め、1枚の写真プリントを得るまでのプロセスすべてが手作業です。落合さんは写真イメージとしての「質量」を追って撮影するだけでなく、その物質化ともいうべき写真プリントの作業でも「原点」に立ち返ることで、いっそう深く「質量」を探求した、といえそうです。

「ソルトプリント」の作品について説明する落合さん

デジタルの次にくる感覚

会場には写真作品とともに、立体作品も数点、展示されています。

会場のそこここに設置された立体作品と写真作品が響き合う(提供amana)

その中でも目を引くのが、コンクリートブロックを素材とした作品です。昨年6月の大阪北部地震でブロック塀が相次いで崩壊した記憶もあってか、落合さんは「日本中でこいつ(コンクリートブロック)がひたすら朽ちている」と語ります。

コンクリートブロックと新旧のテレビを組み合わせた立体作品

コンクリートブロックに8Kディスプレーとブラウン管という新旧のテレビを併置した作品について、朽ちてきた「質量」としてのコンクリートブロックを背景にすると、「8Kディスプレーよりブラウン管の方が高解像度に見える」。デジタルの側からフィジカル(物質)に帰ってきた時に鮮明になるフィジカルのたたずまい。そこで感じた、これまで以上の「解像度」こそ、落合さんが思惟する「デジタルの次にくる感覚」なのでしょう。

愛用のカメラを手に。ライカに50年以上前のレンズを装着している

科学技術が急激に進歩していく過程の中で「朽ちていくもの」が、「生きている」瞬間をとどめる。そこにある「質量性」が物質を超えた命を醸し出し、私たちを「憧憬」や「祈り」に導く。落合さんが写真で切り取った「質量」の世界は、私たち人間が言語や媒体を超えた同一の次元に生きていることを思い出させます。それは人類が技術や言語を持つ以前からある感情への回帰であり、郷愁なのでしょう。

個展にあわせて発売される写真集。アクリルボックスに入っている

メディアアーティスト・落合陽一の世界
「質量への憧憬 〜前計算機自然のパースペクティブ〜」
会期:2019年1月24日(木)〜2月6日(水) 無休
時間:11:00〜21:00
会場:amana square (東京都品川区東品川2-2-43 T33ビル 1F)
入場料:無料

多数の関係者がつめかけたレセプション(提供amana)
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