2019/03/27

観光を題材に、地域への愛着と誇りを
観光教育シンポジウム開催

【PR】観光庁

子どもたちが地域の魅力的な観光資源を理解し、愛着と誇りを持ってその魅力を発信できるようになることを目指す「観光教育」。その可能性や普及について産・学・官の三者が知見を深め、意見を交わし合う観光教育シンポジウム(主催観光庁)が3月13日、東京・築地で開かれました。

観光は地方創生の切り札

最初に、主催者を代表して観光庁観光産業課観光人材政策室の田口壮一課長補佐が登壇。昨年、訪日外国人が3000万人を突破したことを踏まえ、「観光は国の成長戦略であり、地方創生の切り札。これから日本が真の観光先進国になるためには、日本の将来を担う子どもたちが地域の魅力的な観光資源を理解し、地域に誇りや愛着を持ち、その魅力を発信できる人材になることが求められる。このシンポジウムを通して観光教育へのさらなる機運を高めたい」と語りました。

田口壮一さん

沖縄と福島でのモデル授業

続いて、モデル授業の取り組みとして、那覇市立開南小学校と福島県立猪苗代高等学校での事例が紹介されました。

開南小学校は、観光客に人気のある那覇市の国際通り近くに位置し、保護者にも観光業の関係者がたくさんいます。同校では5年生の総合的な学習の時間に観光教育のモデル授業が行われました。

開南小学校の喜屋武仁さん

導入部では、県が用意した観光学習教材などを利用して沖縄観光の現状を学びました。メインとなる聞き取り調査では、歴史・行事・芸能・買い物・自然・食べ物の六つのカテゴリーを設け、観光客がそのうちのどれを楽しみに沖縄にやってきたのかを調査。沖縄へ来る観光客の3割は海外からなので、英語での質問の仕方も外国語の時間を使って練習しました。見守り活動を行った保護者からは、「観光客から勇気と自信をもらった」「子どもが自信を持って話しかけていた」「地元に誇りをもてた」など、今回の学習に好意的な意見が多く寄せられました。
また、沖縄の観光業を牽引している沖縄観光コンベンションビューローの職員と県内大手ホテルチェーンの株式会社かりゆしのホテルマンの方々による、講話を行いました。最新の沖縄観光の動向や沖縄の魅力、観光客に喜ばれる接客などについて話してもらい、ホテルマンの立ち居振る舞いや朗らかな表情に感心する児童もいて、観光業に対する理解を深めることもできました。
最後に学習のまとめとして、これまで学んだことを生かして沖縄観光のポスターやPR動画を作製しました。 同校では4年生でも社会科の地域学習と連携し、観光教育を実践しました。縦に長い沖縄本島を北部、中部、南部に分け、それぞれの魅力について自然・食べ物・歴史・生活文化・施設・イベントの六つの観点で調べ学習を実施。そのうえで沖縄をPRするパンフレットを作りました。

開南小学校で観光教育のモデル授業を主導した喜屋武仁さんは、「観光客と実際にコミュニケーションを図ることで、沖縄の良さを知るという本来の目標に迫れたことはもちろん、人と人とがかかわるという社会生活の根本を学べたことや、外国人との意思疎通の成功体験を得られたこと、現場で実際に取材することの大切さを感じられたことなどが大きな収穫だった。
観光教育は単なる地域理解や職業教育ではなく、さまざまな分野に関わることが多く、体験的な活動を取り入れることで、子どもたちの思考力や判断力、表現力が高められる学びである。今後も実践を重ねていきたい。」と話しました。

開南小学校に続いて、猪苗代高等学校での取り組みが紹介されました。 猪苗代高等学校は、猪苗代湖や磐梯山という福島県でも有数の観光地に囲まれています。普通科と観光ビジネス科があり、今回のモデル授業は観光ビジネス科2年生を対象に行われました。

猪苗代高等学校の熊田厚志さん(右)と佐藤美由紀さん

テーマを「地元観光地が抱える課題と効果的な観光客誘致の方法」と設定。フィールドワークや企業実習を通じて、地元観光地やおもてなしについての理解を深めながら、生徒の課題解決能力を育成したいと考えました。特に修学旅行先をフィールドワークの場にし、比較検討することで、地元観光地の魅力や課題に気づき、解決策を考えることを目指して授業を設計しました。
生徒たちはまず、インターネットを使って修学旅行先の観光地について調べます。その後、地元旅館・ホテルでの7日間の企業実習や、地元観光地での自然散策のフィールドワークを行いました。
メインとなる修学旅行先でのフィールドワークでは、京都と大阪で外国人観光客からのヒアリングを実施しました。「京都・大阪で印象に残った観光地」について話を聞いたうえで、猪苗代町の代表的な観光スポットの写真を見せ、行ってみたいと思うところにマークしてもらいました。
佐藤さんは「1番に選ばれたのはあまりメジャーではない観光地で、生徒たちは驚いていた。また、何よりも外国人観光客とのコミュニケーションが、生徒たちにはとても刺激的だった」と話しました。

修学旅行から戻った後は、フィールドワークの結果を踏まえて、地元観光地が抱える課題についてグループで考察しました。これまでに学んだことや調べたことを踏まえ、観光客誘致の方法を考えます。この解決策を考える段階になると、生徒たちはグループ学習にも慣れ、グループ内での役割分担や意見交換が活発に行われるようになったそうです。他地域で行われている地域活性化策の紹介と効果的なプレゼンテーション方法について外部講師の講義を受けたうえで、全校生徒の前で最終報告を行いました。
モデル授業を実施した成果として佐藤さんは、地元観光資源に対する生徒の理解が確実に深まったことや、周囲と協力し、大きな課題に対してその課題の解決に主体的に取り組み、自分たちなりに解決策を導き出せるようになったことを挙げました。一方、「地元と修学旅行先の宿泊施設でのおもてなしの知識や技術の理解がやや不十分だったことが課題。もうひとつの課題としては、今回の授業実践の結果を、いかに次年度の授業に生かしていくかということです。」と話しました。

モデル授業の取り組み結果の発表に続いて、3月1日に実施された観光教育の授業指導案勉強会の報告が行われ、当日ファシリテーターを務めた東京学芸大学大学院教育学研究科の古野香織さんが登壇しました。

学生の視点から観光教育勉強会について語る古野香織さん

この勉強会は、観光教育を実際の教育現場にどのように取り入れられるかを模索するため、小学校から高校までの現役教師と、教師を志す大学生によって行われました(勉強会の詳細はこちらから

観光教育が抱える課題とは

続いて、観光庁が制作した観光教育の普及啓発動画「観光教育ノススメ」の先行上映をした後、5人の専門家によるパネルディスカッションが行われました。

まず、自己紹介を兼ねて各パネリストがこれまでどんな取り組みをしてきたかを語りました。
立教新座中学校・高等学校校長で立教大学名誉教授の村上和夫さんは、立教大学の観光学部の立ち上げに尽力。現在は高等学校での職業教育の必要性を重視し、自分の職業や人生について考えていく手段として、観光をどうやって位置づけていくかという課題に取り組んでいます。

村上和夫さん

玉川大学教育学部教授の寺本潔さんは、日本地理教育学会のなかに観光教育研究グループを結成。教育書の作成や、沖縄県で使われている副読本などの教材・ツールの開発に携わってきました。

寺本潔さん

京都文教大学総合社会学部准教授の澤達大さんは、教職課程を担当する傍ら、観光地域デザインコースで大学生とともにフィールドワークをしています。『観光教育への招待』を寺本さんと一緒にまとめたほか、宇治市の教育委員会と連携をして総合的な学習の副読本の編集にも携わりました。

澤達大さん

文部科学省初等中等教育局参事官(高等学校担当)付産業教育振興室教科調査官の西村修一さんは、高等学校の教科「商業科」を担当しています。昨年、学習指導要領が改訂され、商業科の中に「観光ビジネス」という科目が新設されました。観光ビジネスについて実践的、体系的に理解し、観光ビジネスを展開するために必要な資質や能力を育成することが狙いだそうです。

西村修一さん

株式会社JTB霞が関事業部マネージャーの高知尾昌行さんは、旅の予約情報を市区町村単位で公開し、昨年までの伸び率などを加味して予測を出す「観光予報プラットフォーム」というプロジェクトを担当。社会科の教員などからも問い合わせが来るそうです。

高知尾昌行さん

ディスカッションの話題は「観光教育の課題」に移りました。
村上さんは、観光教育において、経験をどのようにまとめて、体系的に教科の中に位置づけていくのかというスキルがほとんど開発されていないことを課題として挙げました。「自分が見てきたことをそのまま良いことだと思い、そのとおりに実現できれば良い提案になると思ってしまうことが問題だ」と指摘します。
寺本さんは「教員にとって、教育は子供の人間形成に役立たないとやる意味がない。観光教育によってどのような学力が身につくのかを明確にしないと、教員の意欲が湧いてこないのではないか」と課題を指摘したうえで、「新しい教育の提案をするのは簡単だが、動き出すにはいくつかのハードルがあると考えている」と語りました。

澤さんは「学校の教員は多忙で、英語教育やプログラミング学習など、やらなくてはいけないことがたくさんある。それに加えて観光教育もとなると、どうすればいいのかという思いになるだろう。しかし、今回の学習指導要領の改訂でもそうだが、課題解決的な学習が求められている。観光教育を使えばクリエーティブな教育が展開できるということを、現場の教員にいかに伝えられるかが課題だ」と指摘しました。
西村さんは、「ある地域で行われている観光ビジネス教育が、そのまま他の地域の学校で実施できるかと言ったらそうではないし、そうであってはいけないと思っている。そうしたところが、観光教育を進めるうえで大きな課題だ」と語りました。

高知尾さんは、観光予報プラットフォームを活用する授業を行う際の留意点として、「データ自体の精度と粒度と鮮度」「先生方と正対して授業内容について議論を進めていくこと」「学校のIT環境の脆弱さ」の三つを挙げました。

観光教育は今、始めないと間に合わない

たしかに観光教育を実践するうえでは、まだまだ課題がありそうです。では、どうすれば、それらを解決できるのでしょうか。

村上さんは「観光をすることの意義について、教育を通じてきちんと伝えなくてはいけない」と観光教育の重要性を改めて強調。観光教育を教育現場に普及させる即効策として、「教員免許更新時に観光教育の無料の講座を行う」ことを挙げました。
寺本さんは早急にやれることが二つあると言います。一つは「教材パッケージを提供する」こと。そしてもう一つは「観光業界が学校側に入り込んでくる」ことです。観光業を担う人材を育成することも観光教育の大きな目標です。寺本さんは、「現在10歳の子供が10年後には20歳になる。今始めないともう間に合わない」と観光業界に対して熱いメッセージを送りました。
澤さんは、「学校で一人の先生が頑張って観光教育を推進しても、その先生が異動すると誰もやらなくなる」として、「持続する観光教育が必要」と主張。「観光教育は生徒が夢中になるだけでなく、先生も楽しみながら教えることができる。生徒も先生も楽しむことが、持続性の重要なファクターである」と語りました。
また、西村さんは、「観光だけを学んでも、観光ビジネスを担う人材にはなり得ない。いろんな科目の中からアプローチしていくことが、これからは非常に重要だ」と話しました。

高知尾さんは、「本気で観光を日本の基幹産業にしていきたい。そのために観光予報プラットフォームというデータベースをより成長させていきたい」と語りました。
最後に、ディスカッションのファシリテーターを務めた朝日新聞DIALOGの喜多克尚編集長は、「議論を聞いて、観光教育をより広くスピーディーに実践していくことが、私たちの未来を切り開くことに直結するという確信がますます強まった。今日のシンポジウムには教員の方々もたくさん参加している。この会場に集まったみなさんと一緒に観光教育をもっと前へ進めていけるといい」と締めくくりました。

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