2019/04/26

明日へのレッスン2
児童文学作家・はやみねかおる×朝日新聞DIALOG
「遊び心」で人生を楽しく、面白く

Written by 黒澤太朗 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 吉本美奈子

次代を担う若者と第一線で活躍する大人が世代を超えて対話する「明日へのレッスン」。第2回は、『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズや『怪盗クイーン』シリーズ、『 のトム&ソーヤ』シリーズなどで知られる、児童文学作家のはやみねかおるさん(55)です。1989年にデビューし、多くの子どもたちにミステリーの楽しさを伝えてきたはやみねさんに、平成世代の若者がインタビューしました。

聞き手は、全国の公立高校を対象に、プロジェクト型学習の導入を通じた学校改革を進め、子どもたちの人生の可能性を広げる活動をしている石黒 さん(25)と、「政治を、わかりやすく」をモットーに、様々なジャンルのニュースをイラストや動画にまとめて配信するメディア「POTETO」の代表を務める古井康介さん(23)。小学生時代から熱心な読者だった2人が、三重県のご自宅に憧れの作家を訪ねました。緑豊かな森に囲まれた仕事場で、創作の裏側や、日本の未来についてうかがいました。

冒険心はどこから……?

古井:僕は10歳の時に『都会のトム&ソーヤ』(サバイバル能力は高いが自分自身を平凡だと思い込んでいる中学2年生の ない と、秀才で大財閥の跡取りの そう が実生活で究極のゲームを作ろうと冒険する物語)シリーズに出会い、はやみねさんの作品で遊び方や生き方を学びました。朝日新聞DIALOGは未来をどう形づくるかを考えるメディアなので、幼いころの僕たちに青春を教えてくれた「先生」に、これからを生きるための新しい冒険の指針を聞けたらいいなと思ってやってきました。

石黒:私は「本の虫」で、小学校3年生の時は年間300冊ぐらい読みました。そのころは、自分も友達もみんな、はやみねさんの作品を読んでいて……。授業が始まる1秒前まで読んでいたりとか(笑い)。

はやみね:本当に照れますね(笑い)。恥ずかしい。

石黒:『都会のトム&ソーヤ』を読むと、ご自身が、主人公の内人、創也の2人と一緒に前に進み、同じ目線で書いているふうに感じます。はやみねさんの冒険心や好奇心はどこから湧いてきているのですか?

はやみね:自分は生まれた時から内人や創也のような感じでした。自分には、戦争で子どもを亡くした祖母がいて、外へ遊びにいく時には口癖のように「生きて帰ってこい」と言われてました。そうして培われたものは、自分の中に今でもあるし、主人公たちの内部にもあります。こんな田舎に住んでいたら、冒険心はいやおうなく身につきます。自分はスタバ(スターバックスコーヒー)で注文したことがなくて、未知の領域だからスタバは怖いけど、ここらへんの夜がどれくらい暗いかといったことは身にしみてわかっています。都会の方々には想像もできない暗さですから。

「ワクワク」がいちばん大事

古井:執筆中は何を考えているんですか?

はやみね:とにかく、締め切りに間に合うかなって……(笑い)。あとは、つじつまが合うかなということと、読んだ子どもたちがワクワクしてくれるかなということ。話はよく書けているけど、面白くないと思ったら、もう一回最初から書き直すこともあります。ワクワクというのが一番大事ですかね。

古井:子どもたちをワクワクさせるために意識していることはありますか?

はやみね:自分は若いころ小学校の教師をしていたので、ある話を子どもたちが聞いたら、どんな反応をするかはだいたいわかります。勉強ができるようになりたいという気持ちは、どんな子でも持っているんです。その子が何かを発見した時の「うれしい」という気持ちは忘れちゃいけない。こちらが一から十まで全部言ってしまったら、子どもは退屈する。何かの仕掛けをして、工夫をして、子どもたちに興味を抱かせることが重要です。

石黒:もともとは、どうして教師を目指したんですか?

はやみね:九つ上の兄が三重大学の教育学部に進学し、学園祭に連れていってくれたんです。数学科のゼミ室に山のように漫画があるのを見て、「極楽だ!」と思って、そこに入ろうと決めました。学科も数学科に決めましたもんね(笑い)。
入学してからは、小説をずっと書いていました。プロの物書きになりたかったけど、どうやったらなれるかわからなかった時に教育実習に行ったら、子供たちが「先生」と呼んでくれました。髪を腰の辺りまで伸ばして、薄汚い格好をした、ろくでもない人間を先生と呼んでくれたんです。感動しました。それで、採用試験を受けて教師になりました。

石黒:子どもから大人になっていく過程で、子どものころに持っていた冒険心を失いそうになったり、忘れそうになったりしたことはないですか?

はやみね:(大学入試センター試験の前身の)共通一次試験の前の1週間は冒険心をなくしかけましたね(笑い)。それまでは毎日、高校の近くの小さいころから行きつけの本屋さんに行ってたんですよ。でも、その1週間だけは行かなかった。その間だけは勉強して、なんとか共通一次試験では良い点数が取れました。大学合格後はまた通いましたけど、その1週間だけは勉強漬けでした。

石黒:その1週間はどんな気持ちでしたか?

はやみね:「大学に受かるんだ」と。自分にとって国立大学に合格するのはえらいことでした(笑い)。それだけの努力はしました。あの時は冒険心も遊び心も何もかもなくして、超必死でした。冒険心を失ったのはその時だけですね。

古井:本屋さんに行き続けていたら?

はやみね:(入試には)落ちてましたね(笑い)。

知識を使いこなす知恵が必要

石黒:初めて小説を書いたのはいつですか?

はやみね:ちゃんと原稿用紙に書いたのは小学6年生の時です。中学からはずっと書いてますね。

古井:トリックを考えるコツは何ですか?

はやみね:いろいろな手品の本によると、「逆に考える」ことが大事だそうです。例えば「ボタンがシャツから取れた」というのを、「シャツがボタンから取れた」というふうに考えよう、ということですね。それがトリックを考える基本になっています。(2人に1円玉を渡して)試しに指で曲げてみてください。曲がらないでしょ? でも、自分が中学生の時、テレビ番組で超能力者が1円玉を曲げていたんですよ。その時は、本当に超能力かもしれないと思ったんですけど、大人になってから科学の本を読み、アルミニウムでできた1円玉の特質を学ぶことでトリックがわかりました。そういう科学の知識を踏まえ、「超能力」として使う。これが自分のトリックの作り方ですね。いろんな本を読んで、いろんな知識を手に入れて、考える。本を読むのも大事だけど、そこから先が本当は大事だよって、子どもたちに伝えたい。
小学校の教師をやっていた時、柄が折れたスコップを子どもたちが直そうとしていた。(金属部分に残っている)木の残骸を彫刻刀でくりぬこうとしていたんです。なんでそんな無駄なことをするんだろう、と思いました。スコップを燃やせばいいのに。「木は燃える」「鉄は燃えない」という二つの知識から、知恵として、火に放り込むという行為に持っていけないとダメなんです。

石黒:教科書でいっぱい勉強して、知識を得ているはずなのに、それを使えていない。それは今の子どもたちの課題でもあると思います。はやみねさんが大自然の中で考えていらっしゃることの中には、いろんなヒントがありますね。

はやみね:いやいや……みなさんは、こんな詐欺師と会っても学べるんですね(笑い)。父親が自転車屋をしていたので、小さいころから部品をいじったり、いろんなものを作ったり直したりしていました。自分は普通の機械だったら直して何とかします。今の時代は、便利すぎるというのも問題なのかもしれないですね。壊れたら買えばいいや、となっちゃう。

子どもたちの読解力が落ちている

古井:30年間、プロとして本を書いてきて、昔の子どもと今の子どもの違いや変化を感じることはありますか?

はやみね:15年ぐらい前のインタビューで同じようなことを聞かれて、その時に答えたのが、読解力が低下しているということでした。昔はこう書けばわかるはずと思って書いていたことを同じように書いたら、今の子どもたちには意味が伝わりません。10年前ぐらいから、さらに強くそう感じるようになりました。最近も、読解力はますます落ちている。やっぱり読書量、読書体験の不足が原因なのだろうと思います。

石黒:逆に、こういうところは面白くなったという部分はありますか?

はやみね:横書き小説がスッと違和感なく受け入れられるところはいいですね。今の子どもたちは、キャラクターの性格や、設定なんかを勝手に考えられる想像力もある。勘もいい。アプリなんて説明書がなくても使えますものね。コンピューターを使うときも、のみ込みが早い。そうした点は、自分たちの世代にはなかったところですかね。

人間にも「遊び」が必要

古井:華麗な怪盗が活躍する『怪盗クイーン』シリーズの主人公クイーンは、普段はネコのノミをとりながら助手のジョーカーをからかっていますが、怪盗として仕事をする時は目の色が変わって真剣になる。別人格というか二面性があります。こういう二面性はあえて書いたのですか?

はやみね:キャラクターにギャップがあったほうが面白いというのは、いろんな本を読んで思うことですね。ずっと緊張状態が続いたら、人間はもたないと思います。自転車も、チェーンに「遊び」がないと車輪は回りません。調子に乗ってチェーンを締めすぎると回らない。遊びが大事なんです。遊びばっかりだとダメな人間になりますけど(笑い)、オンとオフの切り替えというのは、誰でも本能的に必要としているんじゃないですかね。

石黒:はやみねさんから見て、これからの社会とか、子どもたちを取り巻くことの中で、一番問題だなとか、取り組みたいなと思っている課題は何ですか?

はやみね:子どもについては先ほど言った通り、読解力です。社会の課題というと……やっぱり、世の中に遊び心があったほうが楽しいとは思いますね。チェーンの話と同じですけど、遊びがないというか、余裕がない。もっと人生は面白くなるだろうに、せっかちに答えを求めている。だから楽しめないのかな……。おいしい料理を味わうことなくガフガフのみこんでいるような。もっとゆったり味わってもいいんじゃないかな。もったいないと思います。

石黒:答えを急ぎすぎているということですか?

はやみね:そうです。それから、テレビなんかを見ていると、みんな一つのほうへいっせいに向かいますよね。もうちょっと違う見方や、違う意見、考え方があるということを紹介してくれたら、子どもたちにもこんな見方があるのかと参考になるだろうに……。子どもたちにとってはよくないですね。

石黒:はやみねさんが入試前の1週間だけ過ごしたような日々が365日続く人も、たくさんいると思います。なかには、自分がそういう日々を過ごしていることを自覚することすらできなくなっている人もいるでしょう。そうした人に役立つヒントをいただけるとうれしいです。

はやみね:自分はあの1週間は大学に行きたかったから猛勉強したわけです。確かに冒険心や遊び心はなくしていたけれど、それはそれで大事な時間だと思うんですよ。何のためにやるかということさえしっかりわかっていれば、何をしていてもいいんじゃないですかね。忙しくて余裕をなくしている人も、何のためにこれをやっているんだろうか、というのがしっかりつかめていれば、我慢もできるだろうし、もっと頑張ろうという気にもなるだろうし。何のためかがわからない行為というのは、人間にはきついですよね。

戦っているうちは大丈夫

石黒:朝日新聞DIALOGは、2030年の未来視点から社会課題の解決策を探ることを目指しています。2030年の未来はどのようになっていると思いますか?

はやみね:そのとき自分が生きているかどうかわからないですけどね(笑い)。たぶん世の中が便利になって、かえって不便なことも増えているんじゃないかな。自分たちが若いころはコンピューターがなかったから手書きだったんですけど、ワープロができて、すごく早く作業ができるようになった。とても便利になったけど、空いた時間に違う仕事が入るようになって、結局、仕事量が増えてしまった。ポジティブな面では、もっと面白い漫画や、本が出てくるんじゃないかとか、面白い映画の技術が出てくることとかを期待しています。これは楽しみですね。

石黒:テクノロジーが進化すると、人間がやらなきゃいけなかった仕事を、機械が自動である程度のところまでやるようになるといわれています。そういう便利な世の中になったとしても、せわしなさは課題になると思いますか?

はやみね:仕事がなくなってお金が入らなくなるのは困りますよねえ。でも、しんどい思いして金もうけをする必要がなくなったら、ちょっと余裕ができて、もっとみんな、面白いものを考えるんじゃないかな。そんな時に面白いものを考えられるような子どもたち、退屈だと言わない子どもたちを育てたい。そのためには、やっぱり読書が大事です。知識がたくさん入るし、そこから考えることもできる。本は大事ですね。

石黒:はやみねさんにとって、読書とは何ですか?

はやみね:最近は老眼が進んで読む量が減りましたけど、昔は息をするみたいに読んでいましたからね。ごはんみたいなものですよ。読まなきゃ死んでしまうというか。

古井:はやみねさんのポリシー、信念は何ですか?

はやみね:あんまり立派なことも、国のことも考えてないし、将来のことも考えていないですけど、死ぬまでは楽しく生きたいと思います。せっかく生きているのに、楽しくないともったいないですから(笑い)。ただ、自分が楽しくなりたいと思っていても、子どもたちがそばで泣いていたら、やっぱり楽しくないじゃないですか。自分は、これまでは幸せに生かしてもらった、本当に運が良かった、と思います。子どもたちが選定委員として友達に薦めたい児童文学の作品を選ぶ「うつのみやこども賞」(宇都宮市立中央図書館など主催)を4回もいただきました。幸せ者ですよ、自分は。感謝しないとダメですね。

古井:冒険心を失わない秘訣は何ですか?

はやみね:自分は精神年齢が止まっています。14歳ですね(笑い)。大人にならなきゃいけないという思いは、ずっとあるんですよ。今は息子たちのほうがしっかりしてますから、これはよくないなと。ただ、自分は人生を楽しまないといけないし、「嫌なことがあっても、世の中は面白いよ」ということを、子どもたちや世の中に言い続けたいというのがあるんですよね。

古井:これから社会に出ていくけれども、冒険心を失いたくない。そんな青年たちにぜひメッセージをください。

はやみね:ファイト! これ以外、思いつかなかったですね(笑い)。戦っているうちは大丈夫ですから。

インタビューを終えて

取材に同行し、現場でやりとりを聞いていた筆者自身も、はやみねさんのファンの一人です。物腰柔らかで、優しい先生の雰囲気に魅了されたのはもちろんですが、その中に秘められた、子どもたちに自分の本を通じてワクワクしてほしい、楽しい人生を送ってほしいという思いを強く感じることができました。そして、何よりその人柄こそが、多くの子どもたちを冒険の世界へと連れていくうえでの大事な要素なのだろうと思いました。

では最後に、インタビューした2人の感想をご紹介します。

冒険心や挑戦心は誰もが持っているものなのかも(石黒和己)

はやみねさんは、小説の中から、そのまま出てこられたような方でした。ご自身にとって、「冒険」や「挑戦」は日常の中で積み重ねている三度の飯くらいに当たり前のこととして捉えられていたのが、とても印象的でした。冒険心や挑戦心は特別な才能ではなく、もともと誰もが持っているものなのかもしれません。ではなぜ、私たちは冒険や挑戦を恐れたり、あるいは誰かの出る杭を打ってしまったりするのでしょうか。はやみねさんとお話をしていて、それは失敗が怖いからではなく、昨日まではなかった自分の姿を見せることで周囲にどう思われるかという関係性の変化に対する不安なのかもしれないなあと思いました。みなさん、ぜひ、はやみねさんの小説を読んでみてください。子どもも、大人も、明日がちょっと楽しみになると思います。

競争で息苦しい時こそ「遊び」が必要(古井康介)

かつて、学校生活の中で降りかかる面倒な出来事を、遊ぶかのように楽しむ方法を教えてくれた本がありました。基本はユルく、しかし、やる時は徹底的にやり遂げる仕事の美学を持った主人公のお話もありました。そうしたことを教えてくれて、今の僕の事業や働き方に大きな影響を与えてくれた「先生」へのインタビューは、本当に愉快な授業のようでした。最近は働き方改革やフリーランス、起業などがはやりで、個人主義も進んでいるように思います。ともすれば、競争の連続で息苦しくなりますが、だからこそ、そこでは「遊び」が必要なのでしょう。大人になりかかっている僕たちにも、これからの冒険の指針を教えてくれるはやみねさんは、やっぱり僕らの先生だし、でも、たたずまいが先生らしくないから、ついつい話に引き込まれて聴き入っちゃうんだろうな。

【プロフィル】
はやみねかおる
1964年、三重県生まれ。三重大学教育学部数学科を卒業後、小学校教師に。教師生活の傍ら執筆に取り組み、1989年に作家としてデビュー。『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズや、『怪盗クイーン』シリーズ、『都会のトム&ソーヤ』シリーズ(いずれも講談社)などが小中学生を中心に人気を博している。今年、『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)が、「第35回うつのみやこども賞」に選ばれた。同賞史上初となる4回目の受賞。

石黒和己(いしぐろ・わこ)
1994年、愛知県生まれ。慶応義塾大学3年の時にNPO法人青春基地を立ち上げ、代表理事に。「生まれ育った環境をこえて、一人ひとりが想定外の未来をつくる」をビジョンに、全国の公立高校を中心に、好奇心や探究心を育むPBL(Project Based Learning)の導入を軸とした学校改革に取り組んでいる。東京大学大学院教育研究科修士課程で教育哲学を研究中。

古井 康介(ふるい・こうすけ)
1995年、富山県生まれ。若者に政治をわかりやすく届けるサイト「POTETO」を立ち上げ、1日2万人の若者が閲覧するメディアに。慶応義塾大学経済学部に在籍する傍ら、2017年に政治専門の広告会社「POTETO Media」を起業し、代表取締役社長に就任。元総理、現役大臣などのプロモーションを与野党問わず担当。中高生向けの主権者教育教材の開発や出前授業も実施している。

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