DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2019/06/18

フランスの規制庁トップに聞いた
私たちはGAFAとどう向き合うか

Written by 黒澤太朗 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 石黒シエル(POTETO)

インターネットが一般に利用されるようになって四半世紀が経った今、ITは私たちの生活に不可欠な存在です。そうしたなか、Google、Apple、Facebook、Amazon.comの4社を表す「GAFA(ガーファ)」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。これらの巨大IT企業は独創的なサービスや商品を提供し、膨大な数のユーザーを抱え、揺るぎない地位を誇っていますが、大量の個人情報を保持していることや、従来の仕組みでは課税しづらいといった問題点も指摘されています。そうした課題に対し、いち早く動いたのがEUです。例えば昨年5月には、「一般データ保護規則」(GDPR)が施行され、個人情報を扱う企業がそのルールを破った場合、罰金などの処分が科されることになりました。

EUのなかでも、IT企業への課税や規制に最も先進的な取り組みをしている国の一つがフランスです。朝日新聞DIALOGは、その牽引役を務めるフランス電子通信郵便規制庁のトップ、セバスティアン・ソリアノ局長(43)にインタビューしました。国境を超えて活動するグローバルIT企業に、どのような姿勢で臨んでいるのでしょうか。

インターネットは「使わない」という選択肢がない

――フランス電子通信郵便規制庁は、どんな仕事をしているのですか?

フランスでは1990年代まで通信や郵便は政府の事業でしたが、それ以降は民間に開放されたので、公正な競争環境をつくる目的で設立されました。政府から独立した機関です。私は2015年から局長を務めていますが、その年にEUでインターネットの中立性に関する規則が定められました。それを受けて、事業者にとって経済的に平等な環境をつくることに加え、誰でもインターネットにアクセスできるようにするという新しい役目が加わりました。

――インターネットが一般に使われるようになった当初は、インターネットは個人の自由を広げ、社会をより平等にするツールだと期待されていたように思います。当時はどのように受け止めていましたか?

フランスにはもともと電話回線を使った「ミニテル」という通信ネットワークがあったので、インターネットの登場をあまり重視していませんでした。当時は、ミニテルを維持しつつ、発展させていけばよいと考えていました。

――現在は、インターネットをどう捉えていますか?

今は「当然に存在するもの」と言えます。スマートフォンの登場でさらに拍車がかかりましたが、気がつかないうちに常時、インターネットに接続している状況になっていますよね。今後も、ネットにつながっている製品がどんどん増えていくでしょう。

――フランス、あるいはEUにとって、GAFAに代表される巨大IT企業はどのような存在ですか?

広い範囲にかかわる問題なので、いくつかに分けてお話しさせてください。まず、いま問題になっているのは、インターネットが発展していく中で、人々にとってネガティブなものになっていくのでは、という恐れがあると思います。別の言い方をすると、テクノロジーをどのようにコントロールしていくかということです。これまでは、新しいテクノロジーが登場しても、それを使うかどうかを人間が選択できました。今は多くのものがインターネットに接続されているので、その選択ができなくなっている。今後、インターネットは人間にとって便利なものであり続けるのか、それとも人間を縛っていくものになるのか。これは考えなければいけないところです。

次に、GAFAを含む「ビッグテック」(巨大IT企業)は、現代の社会においてあまりにも重要な地位を占めています。IT分野では独占的な地位にいるので、消費者が圧倒されて、「買う・買わない」という選択をする力が弱まっている。企業の努力やイノベーションを否定するわけではありませんが、そうした状況が消費者にとって良い方向に発展していくとは限らない、ということは言えると思います。

GDPRはデータの扱い方を見直すきっかけに

――巨大IT企業がはらむリスクを軽減するために、EUやフランスはどのような対策を取っているのでしょうか?

いろんなことをやってきましたけれども、まだ検討の初期段階にあるというのが実情ですね。フランスにしてもEUにしても、「オープン」で「国際的」で「門戸を広く開けておく」という三つの原則に基づいて検討を進めていこうとしています。ビッグテックにかかわる問題は、機密にするべきものではなく、EUだけでなくいろいろな国がかかわるべきものだからです。今年は偶然にも、G7はフランスが、G20は日本が議長国です。そうした場を活用して、多くの国が一緒に考えていくことが重要だと思います。

――日本では、EU が2018年5月に施行したGDPRがしばしば話題になります。その目的や、意義、実効性についてどう考えていますか?

GDPRはこれから行われる様々な政策の最初のもので、ビッグテックだけでなく、個人情報を扱う全ての企業が対象です。その意義は、市民一人ひとりが自分のデータは自分で管理し、勝手に使われないようにすることにあります。例えば、企業が個人からデータを集める時には、ちゃんと目的を示して正当に集めていると伝える必要がありますし、それを利用するには個人の同意が必要です。まだ始まったばかりなので、効果などについて総括できる段階ではありませんが、少なくともこの規則を施行したことによって、様々な企業が自社のデータの扱い方の現状に気づいたり、見直したりするようになりました。それが波及して、世界中の企業や団体が、収集した個人情報をどのように使っているのかを再認識するきっかけになったと言えるでしょう。

ビッグテックとユーザーの関係性が変化

――巨大IT企業は個人情報を容易に収集できるようになっていますが、個人とそうした企業の関係性をどのように捉えていますか?

ビッグテックが大成功を収めたプロセスは、ユーザー(消費者)と一緒に作り上げたものです。そうした企業は、例えば、Googleの検索エンジンやFacebookのような新しくて便利なサービスを消費者に提供し、その支持を得ることで巨大化してきました。Netflixという動画配信サービスが登場したとき、Netflixを支持する消費者は、旧態依然として新しいサービスを生み出さなかった既存企業に対して厳しい姿勢を見せました。ところが最近になって、ビッグテックはユーザーの支持がなくても自由に、好き勝手に動けるようになってきました。ユーザーとの関係性が変わってしまったのです。

――巨大IT企業は、収集した膨大な量のデータを背景に莫大な利益を得ています。EUは、グローバルに活動するIT企業への課税を強化する「デジタル税」(EU域内一律で売上高に3%課税)の導入を検討したものの、今年3月に見送ることにしました。この結果をどう見ていますか?

どんな企業であっても、公共のために使われる税金は払わなければいけません。これを特定の企業だけがきちんと納めないというのは考えられない。そうしたコンセンサスはできています。ただ、ビッグテックは世界をまたにかけて活動していますから、EUだけではなくOECD(経済協力開発機構)の中で加盟国共通のルールを作っていくべきです。それは、課税される企業にとっても、各国にとっても良いやり方だと考えられています。ただ、OECDには、アメリカのようにヨーロッパとは違う課税意識を持っている国も加盟しているので、調整が難しい。EUの中でも、OECDできちんとしたルールができるのを待つのか、それともEUだけでも規制を始めるのか、という二つの流れで対立が起きてしまった。その結果、今年は導入が見送られたと私は見ています。

5月15日に開催された討論会「巨大IT企業の規制」(在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本主催)には、ソリアノ氏もパネリストとして参加した

ユーザーの自由を保障する規制が重要

――従来の課税システムはグローバル企業には通用しないということですか?

領土というものを持つ国家が、領土を超えて活動するグローバル企業に課税するのは難しいことです。ある国の課税システムはその領土内に限ったことなので、グローバル企業が利益を出しても、その利益が違う国で計上された場合は利益に対する課税はできません。フランスではやむなく、売り上げに対して課税するという方法を取っているわけですが、もちろんこれは理想的なものではありません。規制をかける場合は、一つの国の中だけでは非効率です。EUのように国家が連合しているところは、全体で歩調を合わせてやったほうが効率は良くなります。

――巨大IT企業に規制をかけることで、経済活動が制限されてしまう側面もあると思います。そこの線引きについてはどう考えていますか?

まさに核心をついた質問ですね。私としては、国家は古い習慣や考え方を捨てるべきだと思っています。今までは、制限をかけるという意識や趣旨で規制をかけてきましたが、今後この分野では、ユーザーの自由を保障するような規制でなければいけない。つまり、ビッグテックが手に入れた巨大な権力を国に移譲するのではなく、個人や規模の小さな企業に移すこと、力のバランスをとっていくことが重要だと思います。規制をするかしないかという二者択一の解決策ではない、第3の道を追求していかなければなりません。

テクノロジーを消費するだけでなく、コントロールする側に

――朝日新聞DIALOGは2030年の世界を考え、そこからバックキャストする(振り返る)形で、現在の社会課題の解決策を考えるプロジェクトです。2030年の世界はどのようになっていると思いますか?

そんな先のことが分かっていれば大金持ちになってますよ(笑い)。それはさておき、これからは、人やものが常時オンライン接続された状態が今よりもひろがっていく。自動車や家電などの自動化も進んでいくでしょう。もしかすると、現実と仮想の境界線がぼやけているものまで出てくるかもしれません。問題は、そうしたテクノロジーが人間にとって好ましいものとして、人間の尊厳やそれぞれの地域の文化が守られる形で発展していくのか。それとも、あらがえない波のようにわれわれを覆っていき、究極的には世界中が同じようなライフスタイルや文化に染まってしまうのか。どちらに向かうかを決めるのは、今の若者なのではないでしょうか。

――個人と国家とグローバル企業、この三者は2030年にどのような関係を築いていると思いますか?

デジタル・テクノロジーは今後も発達していきます。そこで問題になるのは、テクノロジーをどうやって管理していくかです。ITなどのテクノロジーは国民の財産と捉えるべきだと私は思います。それを管理するのはすべての国民であるべきです。特にIT企業は、指紋や顔、そしてDNAといった生体データを集めたり、扱ったりすることがますます増えていくでしょう。そうしたデータを、ある特定の企業が所有しているのはおかしい。それはやはり公共の利益のために使われるべきで、国民あるいは国がコントロールしていかなければならないと思います。

――日本の若者に伝えたいことはありますか?

日本は非常に豊かな文化を持っているし、技術大国ですよね。だからこそ、日本の若者は重要な役割を担うべきだし、担わなくてはいけないと思います。新しいテクノロジーを使った新しい文化の消費者にとどまるのではなく、テクノロジーを自分たちでコントロールしていかなければいけない。それでこそ初めて、自分たちが住みやすい世の中を作り出せるのではないかと考えています。

【プロフィル】
セバスティアン・ソリアノ
フランス電子通信郵便規制庁局長。エコール・ポリテクニーク卒業後、主に電子通信競争規制の分野でキャリアを積み、2012年にフルール・ペルラン中小企業・イノベーション・電子経済担当大臣の大臣官房長官に就任。15年から現職(任期6年)。BEREC(欧州電子通信規制者団体)長官も務めた。

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