ソーシャルイノベーターに聞く
「ブームを生み出すより、長く愛されるお店をつくりたい」平井幸奈さん(26)

Written by 乙部修平 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 石黒シエル(POTETO)

「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGには、若きソーシャルイノベーターが多数かかわっています。平井幸奈さん(26)は、早稲田大学在学中の2013年に日本初のブリュレフレンチトースト専門店を立ち上げ、翌14年に株式会社フォルスタイルを創業。ビールサーバーを使って注ぐ「ドラフトコーヒー」を日本ではやらせるなど、食の仕掛け人としても知られる平井さんに、仕事の難しさや面白さについて聞きました。

Q: 食にはいつごろから興味があったのですか?

A: 食べることは昔から好きでした。でも、小学生のころは、マラソンの高橋尚子さんに憧れて陸上の長距離選手になりたいと思っていたんです。挑戦することが好きで、高校の夏休みにまるまる1カ月間、地元(広島県)から東京の塾に通ったり、ミュージカルやダンスのオーディションを受けたりしていました。大学進学に合わせて上京し、ダンス部に入ろうと思っていましたが、東京のダンスサークルは派手なイメージだったので、結局、英会話サークルに入りました。勉強することは好きだったんです。ホノルルマラソン完走会にも参加しました。

Q: 食品ビジネスにかかわるようになったきっかけは?

A:大学生になって、カジュアルフレンチレストランでアルバイトを始めました。そこでは勉強や学歴は関係なく、自分より仕事ができる人がたくさんいて驚いたんです。キッチンスタッフをして、作った料理をお客様においしいと言っていただけることや、笑顔を見られることがシンプルにうれしくてバイトにのめり込み、料理の世界に足を踏み入れました。

Q: 大学では何を専攻したのですか?

A:政治経済学部でした。そこでの勉強が今、直接、役に立っているかどうかはわかりませんが、授業で政治家や起業家の方々の話を聞いて、自分で道を切り開いたり、好きなことを仕事にしたりする選択もあるのかなと刺激を受けたことは確かです。

Q: でも、実際に学生で起業するのはハードルが高いと思います。怖くなかったですか?

A:最初から「起業しよう」と考えていたわけではなく、自分のアパートで友達に料理を教えることから始めました。それと並行して、パンケーキで有名な「bills」というレストランでアルバイトをしました。料理長にお願いして、大学2年の夏休みにシドニーの1号店で働かせてもらったことが、大きな転機になりました。

Q: 日本とシドニーの店は違いましたか?

A:ずいぶん違いました。向こうでは4年以上経験のあるプロしか働いていなくて、しかも2、3人で仕事を回していた。日本の半分くらいの人数です。初日にキッチンに入ると、「マイ・ナイフはあるか?」って聞かれて、「ない」と答えたら、「何をしに来たんだ」と苦笑いされてしまって。最初は、私の主な仕事はキッチンの端っこでのパクチーむしりだったんですが(笑い)、徐々に仕事を任せていただけるようになりました。

帰国後は料理教室を開こうと決心したのですが、お金も人脈もないし、キッチンスペースをレンタルするにも勇気が必要でした。大学の授業以外の時間は、友達と遊びに行かず、成人式にも出ず、時給900円のアルバイトで毎月24万円稼いでいたので、その蓄えを使ってキッチンの広い住まいに引っ越しました。帰国して1週間後です。そこで料理教室を始め、口コミで評判が広まって、単発のカフェのプロデュースや学生団体のパーティーのケータリングを任せてもらえるようになりました。そうこうするうちに、「日曜日が休みのカフェがあるから、日曜日だけ貸してあげるよ」と声をかけてもらったんです。そこで月に1回、日曜限定で「ブリュレフレンチトースト専門店」をスタートしました。SNSで拡散し、1カ月前から100人以上のご予約をいただいたので、思い切って実店舗のオープンに踏み切りました。

Q: 起業後は、どのようなことに取り組んでいるのですか?

A: 移動販売や料理教室などいろいろなことに挑戦しましたが、現在の事業の軸は三つあります。一つ目は「forucafe(フォルカフェ)」というブリュレフレンチトースト発祥のお店で、13年に西早稲田でオープンしました。今年3月に原宿で2店舗目をグランドオープンし、現在は3店舗目を構想中です。二つ目は、グラノーラの製造・販売。店舗を維持するには固定費がかかるので、オンライン展開ができないかと考えたのが始まりです。ブリュレフレンチトーストは生ものなので、賄いで好評だったグラノーラに目をつけました。カフェに併設した工房で作っています。三つ目は、ケータリングサービスです。ケータリングを手がけている業者の数はまだまだ少なく、宣伝をしなくても口コミで評判が広まります。今は仕事が追いつかないので、注文をお断りすることもあるくらいです。カフェと違い、固定費がかからず、一度にまとまった収益を見込めるので、将来性を感じている事業です。車での配達などのリスクはありますけどね。

Q: 三つの事業に共通する思いやこだわり、コンセプトは何ですか?

A: 「フォルスタイル(FORU STYLE)」という社名には、「FOR U(for you)」という意味が込められています。私たちのビジョンは「make life delicious」で、食を通じて目の前の人においしいを届ける、そしてその輪をぐんぐん広げていきたいと思っています。

以前は、ブリュレフレンチトーストのようなブームを連続的に生み出していくことに注力していました。でも、例えば「forucafe」の場合、料理のよしあしよりも「早大生が出したお店」というところが注目され、メディアに取り上げられるたびに売り上げは伸びましたが、リピート率はあまり高くなかったんです。今は会社のスタッフも30人になりました。正社員になってくれたメンバーのことも考えると、長期的な視野で事業に取り組み、働きやすい環境を作ることも大切なのではないか。自分が前面に出てブームを生み出すより、商品に目を向けると同時に、地元の人に長く愛されるお店を手がけたほうがいいのではないかと考えるようになりました。かかわってくださる全ての方への本当の「for you」とは何なのか、日々、試行錯誤しています。

Q: 起業していなかったら、今ごろ何をしていましたか?

A: 大学に入った頃はOLになりたいと思っていました。ビル風に髪をなびかせながら、ヒールをコツコツ鳴らすバリキャリに憧れていたんです(笑い)。そこから考えると、当時、想定していた生き方とは違うし、大変なこともたくさんあるけど、やめたいと思ったことはないですね。とにかく仕事が楽しい。まだまだやりたいこともたくさんあります。

Q: 私は大学4年生ですが、「就職活動しないといけないのに、やりたいことが見つからない」と言っている友達がたくさんいます。アドバイスをいただけますか?

A: 大学の授業で、「これだけは絶対に人に負けないことを一つ作れ」と言われたのを覚えています。一つのことを極めれば、人生の幅が広がるからって。私の場合、その「一つ」が料理でした。その「一つ」がすぐに思いつかなければ、「絶対にやりたくない」こと以外は全てチャレンジしてみてほしい。トライ・アンド・エラーの過程で道が見つかると思います。

Q: 2030年の世界はどうなっていると思いますか?

A: 食の分野では、これから中食産業が伸びると言われています。また、ロボットの導入や無人化の流れが加速すると、店員が必要なのかという問題がもっと取り上げられるでしょう。願望を込めて言えば、だからこそ逆に、ロボットにはない人の温かみやサービスへの需要は高まると思います。飲食店としては、時代の変化に合わせてメニューや店舗構造を適切に進化させていく一方で、ロボットに取って代わられない価値の提供を常に意識していきたいです。

平井幸奈(ひらい・ゆきな)
株式会社フォルスタイル代表取締役。1992年、広島県呉市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。カジュアルフレンチレストランのキッチンでアルバイトしたことをきっかけに料理の世界に魅了される。2012年、オーストラリアのシドニーに渡り、人気レストラン「bills」で2カ月間修業。13年に日本初のブリュレフレンチトースト専門店「forucafe」をオープン。黄金比グラノーラ「FORU GRANOLA」、オーダーメイドケータリング「FORU CATERING」も展開している。

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