2019/07/22

朝日新聞SDGsイベント「食と服 大量廃棄このままでいいの?」
買い物で世界を変える 「もったいない」から「持たない」もトレンドに

Written by 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 曺 喜郁

「いいものを、安く」。よく耳にするこのフレーズが、世界規模の資源の無駄遣いと、過酷な働き方の上に成り立っているとしたらーー。大量生産、大量消費、大量廃棄について考える、朝日新聞SDGsイベント「食と服 大量廃棄このままでいいの? 650万トンと10億着が毎年捨てられる日本」が7月2日、朝日新聞東京本社で開催されました。

ゲストは女性誌「VERY」の専属モデルで、エッセイストやラジオDJとしても活躍するクリス-ウェブ佳子さんと、食材の有効利用に向けて独自の取り組みをしている、東京・池尻大橋のフレンチレストランのシェフ、荻野伸也さん。司会進行は、4月に光文社から新書「大量廃棄社会~アパレルとコンビニの不都合な真実~」を上梓した、朝日新聞社会部の仲村和代記者と、オピニオン編集部の藤田さつき記者が務め、学生やビジネスパーソンなど、約150人が参加しました。

仲村和代
1979年、広島市生まれ。2002年、朝日新聞社入社。長崎総局、西部報道センターなどを経て、10年から東京本社社会部。著書に「ルポ コールセンタ- 過剰サービス労働の現場から」(朝日新聞出版)など。

仲村記者は冒頭、年間10億着(推定)の洋服が売れ残って新品のまま廃棄される日本の現状と、その理由を解説しました。経済産業省の調べによると、国内で販売される洋服の供給量は、バブル期の1990年から20年間で、ほぼ倍の年間40億点に。一方、家計の衣料品購入単価は同時期、6割にまで落ち込んでいます。競争が激しくなるなか、メーカーはコスト削減のため、人件費が安い国からさらに安い国へと生産拠点を移してきました。「5千枚で足りるのに、あえて5万枚発注して単価を下げる。買う人が増えていないのに作る量が増えれば当然、余ります」と仲村記者。

ちなみに、廃棄された洋服の一部は再販売されるものの、ほとんどは焼却されるか、破砕されてプラスチックなどとともに固め、燃料に加工されるそうです。洋服の大量廃棄が食品に比べて注目されづらいのは、「正確な統計データがないこと、生産拠点が海外のため、労働問題として見えづらいこと、『リサイクルされるなら、もったいなくないのでは』と思われがちなことが背景にある」と仲村記者は分析しました。

ただ、2013年にバングラデシュで、縫製工場が建物の強度不足から倒壊し、1100人を超す犠牲者が出た「ラナ・プラザ事件」以降、アパレル業界の労働問題がクローズアップされるようになってきました。月給5千円、休みは月に1度といった過酷な条件で働く人々の実態が明らかになるなか、メーカー側も工場の情報を開示するなど、改善策が講じられつつあります。「誰かを苦しめて自分が得をするのは居心地が悪い。適正な価格で買おうという変化の芽が広がっていると感じます。買い物は社会運動でもある。何にお金を使うかによって、社会を変えていけるのではないでしょうか」と仲村記者は語りました。

藤田さつき
1976年、東京都生まれ。2000年、朝日新聞社入社。奈良総局、大阪社会部、東京本社文化くらし報道部などを経て、18年からオピニオン編集部。消費社会や家族のあり方などを取材。

続いて藤田記者が、食品ロスの現状について解説しました。日本では、まだ食べられるのに捨てられる食品の量が年間650万トンにものぼると言われています。これは実に、国連が全世界で実施する食料援助の量の約2倍。国民1人あたり、毎日ご飯1膳分(140グラム)の食品を捨てているのと同じだそうです。

こうしたことが起きる背景として、藤田記者は日本独特の商習慣を挙げます。「3分の1ルール」と言われ、賞味期限の3分の1までを小売店への納品期限、次の3分の1までを消費者への販売期限とするものです。納品期限や販売期限がきたら、賞味期限前であっても返品や廃棄処分となります。「すべてが企業の責任とは言えません。少しでも新しいものを求める消費者心理も一因ではないでしょうか」と藤田記者。小売店は、欠品すると競合店に客が流れる不安から、多めの納品を求めがちになるといいます。欠品した場合、メーカーは小売店から罰金を求められたり、取引停止にされてしまったりすることもあるため、多めに仕入れて廃棄する慣習ができてしまったと、藤田記者は解説します。

「コンビニでは廃棄費用は店が負担しなくてはならず、アルバイトに商品を買い取らせるケースもありました。事態が問題視されるようになり、コンビニが期限間際の弁当を値引きしたり、賞味期限内の食品をフードバンクに寄付したり、子ども食堂で使ったりするなど、ロスを減らす工夫が広がっています」と藤田記者。5月には食品ロス削減推進法も成立し、消費者の意識や商習慣が変わっていくことが期待されると述べました。そして、食品ロスの半分は家庭から出ていることをふまえ、来場していた食品ロスジャーナリスト・井出留美さんの著書から、食品ロスを減らす方法を紹介しました。

今日からできる 食品ロスを減らす10カ条
①買い物の前に、冷蔵庫をチェック
②空腹時に買い物をしない
③すぐ食べるものは、棚の前のほうから買う
④「○○限定」やまとめ買いに注意
⑤食べ物を使い切る工夫を
⑥残り物は、別の料理へ
⑦「賞味期限」は目安。自分で判断しよう
⑧備蓄食材は普段から使い、入れ替えよう
⑨飲食店では注文しすぎない
⑩飲食店では残さず食べる。残したらドギーバッグを

井出留美さん著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)から

クリス-ウェブ 佳子さん
1979年生まれ。大阪府出身。音楽コラムの執筆や翻訳など、幅広いジャンルで活躍中。2011年から「VERY」のモデルに。著書に『考える女(ひと)』(光文社)、『TRIP with KIDS こありっぷ』(講談社)など。
荻野伸也さん
1978年生まれ。愛知県出身。2007年、東京都世田谷区に「レストランオギノ」を開店。デリカテッセン「ターブルオギノ」も3店舗経営。全国のレストランやカフェのメニュープロデュースなども手がける。

「クリス-ウェブ佳子さんは、「 断捨離だんしゃり 」という言葉が流行し始めた当時、「捨てることへの罪悪感が薄れ、安いものや流行でなくなったものは簡単に捨てていいという風潮が生まれるのではと心配になった」と語りました。とはいえ自身も職業柄、消費を促す側にいることに葛藤を感じるとし、プライベートでは買う物を厳選し、食肉工場から出る動物の毛皮やオーガニックコットン素材の服、古着など、生産過程などに注目して買い物をしていると語りました。「ファストファッションも取りいれていますが、気に入った物を長く使いたい」

荻野さんは07年からフレンチレストラン「レストランオギノ」のオーナーシェフを務める傍ら、「ターブルオギノ」という総菜店を品川、渋谷、湘南で展開しています。循環農法を実践する北海道の養豚農家を訪れた際、畑の隅に規格外の野菜が大量に廃棄されている光景を目にし、それらの野菜も買い取って有効活用するために、 総菜店を開業することにしたと言います。

総菜店はデパートの地下や駅ナカにあり、「昔ながらの商習慣が色濃く残る環境」と荻野さん。しかし、あえてそこで「無添加、売り切れ御免、売れ残りは値引きして翌日も販売」という、これまでの商習慣とはまったく逆のスタイルで運営しているそうです。「そういうスタンスを理解してくれるオーナーさんも増えてきました。店が行動で示すことで、お客様の意識も変わっていくのではないでしょうか」。レストランでも、食品ロスを減らす取り組みを徹底。一度、テーブルに出したバターも、客が使わなかった場合、肉や魚を焼くのに使っているそうです。

その後は質疑応答へ。「大量廃棄社会は作り手と消費者のどちらにより責任があるのか」という問いに対しては、荻野さんが「簡単に断罪できるものではなく、ちょうどいいバランスをみんなで考えていくしかない。企業も消費者も、上流から川下まで知ろうとすることで、意識が変わっていくのでは」と語りました。

また、「リサイクルよりリデュースが大事なのでは」という質問に対しては、クリス-ウェブさんが「『もったいない』じゃなくて、『持たない』こともトレンドになっていい。衣料品店に古着を持っていくと、リサイクルを免罪符に、必要でないものを買ってしまうこともありますよね。自分の人生のモヤモヤを消費で解決したり、必要以上の購買行動にかられたりしないために、一人ひとりが意識することが大事だと思います」と述べました。

その後は会場とのやりとりも。世界の飢餓問題に取り組む国連WFP協会の職員は、昨年10月の世界食料デーの前後に、家で余りがちな食材を活用してクリエーティブな料理を作り、その写真を「#ゼロハンガーレシピ」というハッシュタグをつけてSNSに投稿してもらうキャンペーンを実施したことを紹介。投稿数や、投稿についた「いいね!」の数に応じて、キャンペーンに賛同する企業が協会に寄付をする仕組みで、学校給食5万人分の寄付が集まったと語りました。

最後にクリス--ウェブさんは、食品ロス問題への啓発や取り組みを進めるために「著名人を活用するといいと思います。使ってください」とエールを送りました。また、荻野さんは愛読書だというパタゴニア社の創設者が書いた『社員をサーフィンに行かせよう』という本を紹介し、「目の前にある大きな問題に対して、問題を生み出す原因側に立つのか、解決側に立つのか、いつも考えています。捨てられていくものを、見て見ぬふりをするのではなく、買い取って加工し、価値をつけて販売していく。それをこれからもやっていきたい」と語りました。

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