DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

ソーシャルイノベーターに聞く
「学寮生活を通して、多様性を学びに変える教育を」小林亮介さん(28)

Written by ジュレットカミラン with 朝日新聞DIALOG編集部

「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGは、若きソーシャルイノベーターに注目しています。今回登場する小林亮介さん(28)は高校卒業後、米ハーバード大学に進学。そこで経験した「学寮生活を中心としたリベラル・アーツ教育」をコンセプトに、学校の形を超えた新たな教育を提唱するHLABを起業しました。「多様性を学びに変え、力を伸ばす教育をしたい」という小林さんに話を聞きました。

Q: HLABはどのような事業を行っていますか?

A: HLABはソーシャルベンチャー、つまり社会課題の解決のためにビジネスをツールとして使う組織です。具体的に取り組んでいるのはレジデンシャル教育=「住みながら学ぶこと」です。

世界のトップ20の大学はほぼ全寮制です。そうした大学は、例えば1学年1600人のうち、ビジネスで成功した1人が30年後に30億円を寄付したくなるようなビジネスモデルを作り、それを基金として運用していく。その基礎となるのが、学寮生活での体験です。

日本でもセクターや世代を超えた協働の重要性が唱えられていますが、それに向けたトレーニングは提供されていない。学寮は、異質な人たちと出会い、違いを学びに変えて成長していくトレーニングの場です。日本ではそれを大学内につくるのは難しいので、HLABが独立した組織としてやっています。

Q: そうした事業には自身の経験が反映されていますか?

A: もともと、進路の選択肢や将来設計などは、周囲の人々や環境によって既定のものとなってしまっているという問題意識がありました。例えば、高校の同級生の99%が大学に進学しないコミュニティーで育ったら、大学進学という選択肢がそもそも存在しません。逆に、有名進学校だと、東大などのトップ大学に行く以外の選択肢が見えづらい。

僕は高校生の時にアメリカに留学しました。きっかけは、たまたま海外から帰ってきた友人が同じクラスにいて、「楽しかったよ」と話してくれたことでした。自分を重ねられるぐらい身近な人の声は、とても重要です。イチローが大リーグに行ったから自分も行きたい、とはなかなか思えませんが、高校の野球部の先輩がプロになったら、自分もプロに行けるのではないかと思えるものです。

僕が学んだハーバード大学の寮は、建物の中心にある食堂を通らないと外に出られない構造になっていました。そうすると、日々、いろんな人とそこで出会います。図書館に行くつもりで外に出ようとしたら、食堂で議論している友人に引き止められるといったことはしょっちゅうでした。振り返ると、それが一番の学びだったと思います。ハーバード大学の寮生活は、多様な仲間の間に偶発的な交流を生み出し、人生を変えるような学びの体験をデザインしていました。自分がハーバード大学で体験したことを再現したいという思いで、HLABを立ち上げました。

ハーバード大学の卒業式で寮監と(写真はいずれもHLAB提供)

Q: HLABでは、どのような活動をしてきましたか?

A: 大学在学中の2011年に、短期間で学寮生活を再現する「サマースクール」を東京で始めました。現在は、長野県や宮城県の教育委員会と協働し、全国4カ所で実施しています。東京のサマースクールでは、国内外から集めた60人ほどの大学生と、日本の高校生80人が一緒に1週間過ごしました。高校生は、東京の有名私立から、地方の公立高校、高専、商業高校、インターナショナルスクール、海外の高校まで様々な学校から集まりました。

そうすると、受験勉強ではエリートとされる進学校の生徒が、物づくりでは工業高校の生徒に歯が立たないことがわかります。一方、地元から出たことがない高校生の隣に座っていた生徒が「昨日、フランスから帰ってきてサマースクールに参加しています」と言えば、その高校生にとっては外国がすごく身近に感じられるようになります。結果的に、日本の参加者の3〜4割が海外の大学を受験しました。

そこで、留学する学生たちのために奨学金を給付し、サポートするプログラムを作りました。自分が高校生のときに心から欲しかった環境を、一つずつ手作りしていくなかで、事業としての継続性を探りました。企業に協賛金を依頼したこともあるし、教育事業の目玉を求めている自治体と一緒にロビー活動をして、文部科学省に予算をつけてもらったこともあります。

現在は、学寮の短期的な再現であるサマースクール事業だけではなく、長期的に暮らしながら、互いに学び合える寮をつくろうとしています。モデルはオックスフォード大学の中の「カレッジ」です。大学から財政的に独立した機関で、教師と大学院生、学部生が一緒に住み、学んでいます。日本ではバブル崩壊後、大学が都心回帰し、校舎がビルのところも少なくない。それなら、既存の高校や大学に通いながら、住んで学べるカレッジを都心につくればいいと考えました。

Q: 小林さんは、どんな子ども時代を過ごしたのですか?

A: 父は情報システム分野の学者です。学者の息子は、特定分野では父親に絶対勝てないので、かなり早いうちからいろんな挫折を体験しました。ただ、学者は、自分の専門以外は一切分からないということを自覚している人種でもあります。そのため、私がやりたいと言ったことは基本的にさせてもらえました。また、父からは「感情的になるな。問題は課題に分割し、一つずつ解くことで解ける」と言われ、考えることの楽しさを教えてもらいました。

父は早稲田大学の教授で、僕が中高生のころは大学のマネジメントにも携わっていたので、大学の国際化や地方の高校を付属校化するといった話をよく聞きました。僕はもともと外交官かジャーナリストになりたかったのですが、アメリカで勉強するうちに大学の環境づくりに興味が向きました。どちらへ進むか迷った末、教育の環境づくりを本業にしたいと思いました。

サマースクールで高校生参加者と運営大学生が車座になりディスカッション

Q: 今後の目標は何ですか?

A: 「education」の原義は「educe」で、「引き出してあげる」という意味です。教育環境の作り手としては、日本という社会の中で、学寮教育の仕組みを利用し、多様性を学びに変えて、力を伸ばす教育を行っていきたい。それがHLABのゴールです。個人としては、HLABの活動を通じて日本と海外との橋渡しをしたい。高校生、大学生、社会人の異なるニーズやインセンティブに対して、共に参加できるプラットフォームをつくることで、社会に対するインパクトを作っていきたいと思っています。

Q: 2030年の世界はどうなっていると思いますか?

A: 世界や日本の課題に対する危機意識が高まっていてほしいですね。日本の一番の問題は、僕らの世代がマクロな議論にしっかりとかかわっていないことだと思います。社会人になると、自分のキャリア形成のみに必死になってしまい、マクロの政治経済や社会保障を議論する機会がありません。この国の課題は少しずつ可視化されていくと思います。しかし、解決策は簡単には出てこない。2030年には、そうした課題を直視し、「このまま自分たちの世代が課題解決に向けて動かないとまずい」ということを世代全体が共有してほしい。そのような世界をつくるために努力していきたいと思います。

小林亮介(こばやし・りょうすけ)
1991年生まれ。ハーバード大学卒業(政治・経済学)。在学中の2011年にHLABを創設。のべ約3000人の卒業生が輩出するサマースクールや、海外の大学進学支援のための年間10億円規模の奨学金、全寮制教育機関「レジデンシャル・カレッジ」を展開するなど、住環境と教育の複合領域で事業運営に取り組む。三極委員会から最年少でデイビッド・ロックフェラー・フェロー、世界経済フォーラムからグローバル・シェイパーズ、米経済誌Forbesから30 Under 30 Asia (社会起業分野)にそれぞれ選出された。

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