DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
2019/12/03

医学者・高橋政代✕朝日新聞DIALOG患者をトータルにケアする医療を目指して

Written by 乙部修平 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 飯塚悟

朝日新聞DIALOGと朝日新聞本紙との共同企画「明日へのLesson」は、次代を担う若者と第一線で活躍する大人が世代を超えて対話するシリーズです。第9回となる今回は、2014年に世界初のiPS細胞を使った網膜手術を成功させた医学者の高橋政代さん(58)に、佐久間洋司さん(23)とハヤカワ五味さん(24)がインタビューしました。

高橋さんは理化学研究所(理研)で、再生医療や眼科の治療・リハビリなどに総合的に取り組む「神戸アイセンター」の設立にかかわりました。その活動を発展させるために、今年7月に理研を退職。神戸アイセンターと連携して研究・開発を担うスタートアップ、株式会社ビジョンケア(神戸市)の社長に就任しました。インタビュアーを務める佐久間さんは大阪大学の学生で、人工知能(AI)やバーチャルリアリティー(VR)を活用して人の意識に働きかける研究を進めています。ハヤカワさんは、コンプレックスを持つ女性のための下着ブランドや生理用品のプロジェクトなどを手掛け、ビジネスを通して内面的な社会課題の解決を試みています。

アカデミアとビジネスの両輪を駆動する高橋さんに、それぞれの分野で異彩を放つ若者2人はどのような質問をぶつけたのでしょうか。

再生医療もツールにすぎない

高橋: 最初にお話ししておくと、私はiPS細胞の研究者として紹介されることが多いのですが、それは活動のごく一部にすぎません。私は純粋な研究者になったことはなく、本業は臨床家です。医薬の分野で、基礎研究にもビジネスにも通じている中立な立場の人間は、世界的に見てもあまりいません。というのも、海外では、企業が治療開発をするのが一般的だからです。ところが、日本の再生医療だけは、医者が治療開発の中心になり、そこに研究者や企業が加わる形を取っています。こうしたシステムはバランスがいいし、その独自性から、従来のルールを変える可能性も秘めていると思います。

ハヤカワ: どういったルールを変えようとしているのですか?

高橋: 薬は主にケミカルな化合物なので、品質管理が簡単で、ルールにのっとれば取り扱いやすい。しかし、細胞は(薬に比べれば)巨大だし生ものなので、従来のルールに当てはまらない部分やムダがどうしても出てしまいます。また、私たちは患者さんの視点に立っているので、安全性を過剰に気にして、長い時間をかけて高価な治療法を編み出すより、臨床として妥当なラインを狙っていくべきだと考えています。そうした安くて早くて安全な治療法を作るためには、既存の薬とは違うビジネスモデルを確立する必要があります。

ハヤカワ: 私はこれまで基本的に服を扱ってきたので、例えば、突然、飲食をやれと言われたら困ります。品質管理や仕入れのルールが全く違いますから。新たなビジネスモデルと言われたら、抵抗を感じる人も多いのではありませんか?

高橋: 製薬の業界にどっぷり浸っている人は、そこのルールから外れることはしません。でも、例えば、外科医として活躍している人が研究の分野を見ると、「これはおかしいんじゃないか」と気づくケースが出てきます。また、私にとっては再生医療もツールの一つにすぎません。これからは医療にAIが参入してくる時代です。そうなると、医療は病気だけでなく、生活も含めて患者さんの全てを見ていかないといけない。だから私たちは、視覚障害者が車を運転する際のリスクを減らす自動運転の研究もしています。究極の目的は、視覚障害者のイメージを変革して、真のインクルーシブ社会(社会的包摂)を達成することなんです。再生医療はそのためのツールの一つ、iPS細胞はその中の道具の一つです。

ハヤカワ: 理研からスタートアップに移ったのも手段の一つですか?

高橋: 患者さんの生活をよりよくするためなら何でもします。2017年に開設した神戸アイセンターは、研究室と、眼科だけの病院、公益法人、会社の四つからなり、再生医療研究と眼科治療・開発のエコシステムを作っています。その中でも会社(ビジョンケア)は、民間企業とアイセンターをつなぐ組織として最後に作りました。

ハヤカワ: iPS細胞の手術も起業も、途中経過だということですね。

高橋: はい。14年に「世界で初めてiPS細胞の手術に成功した」と報じられたとき、私が「まだスタートです」と話したのは、そういう意味です。再生医療・眼科治療のトータルなビジョンの中では、ようやくスタートを切れただけで、何かを達成したわけではありません。

リスクとベネフィットを比べて判断してほしい

佐久間: 「利益相反」についてお伺いします。研究機関が民間企業と協力するとき、何はしてよくて、何をしてはいけないのか。周りの先生方と、よく話題になります。再生医療の分野では、医療としてはやってはいけないけれど、研究としてならやっていいことなどもあるかと思います。そのあたりのルールの制約はどうクリアしているのですか?

高橋: そうした利益相反が、会社を起こした理由の一つでもあります。(理研では)網膜研究では世界一流のラボを作れたと思っています。それを崩さないためには受け皿が必要でした。私たちはチームを大きくしたいのですが、(国立研究開発法人の)理研としては5年ほどでスタッフの雇い止めをしないといけないのです。

佐久間: 予算の都合上、研究者を定期的に解雇しなくてはいけないということですか。無期雇用者を増やしたほうがいいという意見はあるのでしょうか?

高橋: 理研は研究所なので、無期雇用の研究者ばかりになるのは、私もよくないと思います。同じ環境に浸ってしまうと、組織の代謝が悪くなる。だから無期雇用の人は2〜3割で、他の人には任期があります。しかし、せっかくうまく働いているチームが崩されるのは嫌なので、外に受け皿として会社を作りました。

ハヤカワ: 研究体制を維持できるように、ということですね。

高橋: そうです。「産学連携は利益相反だ」とよく言われますが、それは日本の現状を考慮しない発言だと思います。日本では(バイオ関連のビジネスは)ようやくスタートアップができつつある段階です。それなのに、ずっと先を行っていて、利益相反が問題となっているアメリカの厳しいルールを適用しようとしています。日本の再生医療分野のスタートアップには、まだアカデミアの助けが必要です。

ハヤカワ: ビジネスと研究がお互いに歩み寄らないといけないということですか?

高橋: 歩み寄るというより、一体となってオーバーラップさせる必要があります。研究を理解している人がアカデミアにしかいない現状では、アカデミアと企業が離れて活動していてはダメです。アメリカは、ビジネス側にもバイオについて分かっている人がたくさんいて、研究者もビジネスのことを理解している。日本はまだ厳しい制限をかける段階ではないのに利益相反を問題視する。少し潔癖すぎますね(苦笑)。

ハヤカワ: 失敗を恐れすぎているんですかね。

高橋: 再生医療もそうですが、リスク(危険性)がゼロじゃないとダメだという意識が強い。私はリスクとベネフィット(有用性)を比べて判断してほしいんです。例えば、治療法のない病気を患った人は、ある程度のリスクは引き受けるから、新しい治療法を試みてほしいと願います。一方で、研究者の相当数は、患者さんの望みやベネフィットは正確には分からないからリスクを冒してはいけないと言う。iPS細胞の初めての手術でも、本当に苦労したんです。私たちは技術的なリスクはほぼゼロにした。それでも、世界中がiPS細胞を手術に利用するのは危険だと言いました。ところが、私たちが一番恐れていたのは、実は手術そのものだったんです。普通の手術でも必ず、数パーセントの割合で合併症が起こる。細胞によるリスクとは比べものにならないくらい高い値です。ただ、ほとんどの人がそのことを知らないから、(細胞を使う)小さなリスクが大きく見えてしまう。

佐久間: 細胞のリスクを大きく見てしまうのは、臨床を知らない研究者ですか、それとも国の担当者ですか?

高橋: 臨床を知らない研究者ですね。厚生労働省はむしろサポートしてくれています。そもそも、日本全体にリスクを大きく見る傾向があり、国にとってマイナスになっていると思います。国内の研究が落ち込んでいるのは、不正が一つ見つかると全体的にルールが厳しくなり生産性が落ちる、ということが、いろんな分野で積み重なり、身動きがとれなくなっているからだと思います。

常に20年後の可能性を考える

ハヤカワ: 佐久間さんも研究の現場で同じようなことを感じますか?

佐久間: 個人的には、「機会費用」(選択によって得られる利益の差)を計算しない人が多いような気もします。何かに取り組むことで生じるリスクだけでなく、取り組まないことで生じるリスクもあるはずですが……。

高橋: 不作為のリスクですね。例えば、「リスクがあるので慎重に治療をしよう」と言って、2年間の現状維持を選択する。その場合、2年間で患者さんの容体がどれほど悪化するかということは考えられていません。

佐久間: そうした発想がないのは、なぜなのでしょうか?

ハヤカワ: 余裕がないからですかね。「ジェネレーションZ」と呼ばれる24歳以下の人の思考を検証すると、短期的な考え方の人が多いように思います。経済的、時間的に余裕がないと、中長期を考えず、目先のことにとらわれやすくなるのかもしれません。

佐久間: 高橋さんの若い頃は、僕たちと比べていかがでしたか?

高橋: 私は近視眼的でした。学生時代は何も考えていなかった。普通にいけば医者になって、どこかで白内障の手術をして、やがては部長になって……と思っていたんです(笑)。だから、学生に講義するときは「学生時代なんて、なーんにも考えなくて大丈夫よ」と話しています。ハヤカワさんがこの若さで起業してるってすごいと思う。

ハヤカワ:いやいや(笑)。

佐久間: 臨床医をしながら基礎研究もして、さらに再生医療へと向かうことになったきっかけは何ですか?

高橋: 1995年にたまたまアメリカのソーク研究所に留学しました。神経幹細胞の研究では世界最先端の研究所でした。そこで、それまでは治療法がなかった網膜の病気を治せる可能性に出合って、眼科医でこれを知っているのは私だけという状況に気づいたんです。35歳のときでした。私が治療法を開発しなかったら5年は遅れるなあと、半ば義務感が生まれて、臨床医だけど再生医療にかかわるようになりました。

今では、常に20年後を考えています。しかし、そうできるようになったのは40歳くらいからかな。20歳だとまだ物心ついてから10年くらいしか経っていない。でも、今の私は30年前を知っているので、30年後の変化はすごいだろうなと予測がつきます。

バッシングで終わらない世論づくりを

ハヤカワ: 未来についての話が出ましたが、私は最近、医療保険制度に関心を持っています。今後、医療が発展していくと、どこまでが保険で賄われるのか。少子高齢化という背景もあるなかで、どうお考えですか?

高橋: 日本の医療保険制度は、すでに破綻してしまっていると思います。医療費削減の必要性が強調されていますが、なぜ医療費が増えているかというと、日本で医薬品や医療機器を作っていないため、海外におカネが流れてしまっているからです。あんなに働いているのに、病院にはほとんどおカネが入りません。医療者は働いても働いても貧乏って感じです(苦笑)。

ハヤカワ: 今まで医療費はどこかに消えていくイメージだったんですよ。今のお話で気づいたのは、そのおカネが国内で回っていないから消えていっているし、だから医療費を削減すべきだとなるんですね。

高橋: アジアで薬が作れる国は日本だけだったんです。なのに、こんな状況に陥ってしまっている。その原因の一つはルールが厳しすぎることです。日本の企業は長年、研究を諦めたり、海外に拠点を移したりしてきました。医薬品や医療機器の審査などを担当する医薬品医療機器総合機構(PMDA)のトップが変わったのを機に大きな変革があり、すごくフレキシブルになりましたが、まだまだ中堅層のアタマが固いという話をよく聞きます。政府や省庁でも同じで、上の人は驚くほどラジカルで柔軟なのに、中堅層が硬直的です。その層は今までのルールを守ることを重視しているので、「中間岩盤」と呼ばれています(笑)。

ハヤカワ: 半導体などもそうだったと思いますが、日本は実際にビジネスにしていく段階や、広めるフェーズがあまり得意じゃないような印象があるんですけど……。

高橋: リスクを取りたがらないからね。私は「明治維新や終戦時のように、ルールをいったんゼロにしないとあかん」と官庁の委員会などでも話しているんです。でも、現実には新たなルールによって、どんどん身動きがとりづらくなっている。iPS細胞を使った初めての手術のときも、再生医療の安全性を確保する法律が2014年11月に施行されることになっていました。法律が施行されたら(研究・開発の)スピードが極端に下がると思ったので、その2カ月前に手術しました。再生医療の分野で、基礎研究ができてマーケットも分かっているのは自分たちのグループしかいないと思ったので、やり遂げることができました。

再生医療分野は、外貨を獲得するためにも、日本で治療法を確立しようとしています。それが世界のスタンダードな治療になったら、海外からどんどん追いかけられるようになる。医療業界全体における期待の星です。ただ、「ハイプサイクル」が気がかりです。ハイプサイクルとは、新しい技術が生み出されると一気に期待が高まって、ものすごく過熱して、でも、思ったほどじゃないやんってなったらバッシングが始まって……というものです。欧米ではそれをはねのけて、本当に優れた技術が生き残り、新たな可能性を見せたりするんですが、日本の場合は、バッシングを受けると、そこからなかなか盛り返せない。メディアには、バッシングが終わった後、再度その技術を吟味、評価するような記事も出してほしいと切に思います。

佐久間: 研究費を出す、出さないを決める人たちも、それに乗ってしまうのですか?

高橋: メディアの影響もあると思いますが、官庁の仕組みによるところが大きいと思います。官庁では2、3年ごとに担当者が変わることが多いんですよね。研究費は、官庁の人が様々な意見を集約して決めるのですが、担当が変わると、前任の判断を引き継ぐだけではその人の仕事にならない。次の新しい分野に新しい研究費を立てるということが、その人のやりがいでもあるだろうし、全体で見れば大事なことでしょう。しかし日本の場合、そのサイクルが短くて、持続性がありません。

佐久間: AI分野ではこれまでハイプサイクルが2回あって、今は3回目に盛り上がっている最中なんです。

高橋: めっちゃ、盛り上がってますよね。今はAIって冠をつけないと研究を回せない(笑)。

佐久間: AI分野の先生方も、映画に出てくるようなAIの万能イメージが過熱しないように気をつけていらっしゃるように思います。でも、盛り下がるのは目に見えているから、学生や若手は不安ですし、今から準備をする必要があると思っています。

ハヤカワ: 医療の世界で心配なことってありますか?

高橋: 私たちの世代の医者で、大学病院に残った人はほとんど、臨床だけでなく研究もしています。アメリカは長年、医者と研究者が分かれていたのですが、最近になって両方する人が必要だよねと言い出し、学会でもそういうシンポジウムが立ち上がっています。ところが、逆に日本では、それが両立できないような医師臨床研修制度ができてしまった。今の若い医者は全然、研究をしなくなってしまいました。

ハヤカワ: だとすると、10年後、20年後にそうした若いお医者さんたちが上のポジションに来たら、ちょっとしんどそうですね。

高橋: しんどいと思う。企業だってそう。最近になってアメリカで、株主だけのための企業じゃないとか、SDGs(持続可能な開発目標)が大事だとか言い出しましたが、日本の企業って、実はもともとそういう組織だったんですよね。それが、アメリカ型を採り入れ、今になって採り入れなかったほうがよかったんじゃないの、って話も出ている。自分のいいところを殺しちゃった後で「あれ?」みたいな、「実は持ってたやん」みたいな感じ(苦笑)。

ハヤカワ: 医療者で研究をする人が減っているのは、結構、致命的なのでは?

高橋: 致命的です。医療のレベルはすごく下がる。やっぱり研究をやってから病気を診たり、手術を見たりすると、考え方、見方がまったく変わります。だから、年配の医者たちはものすごく危機感を抱いています。

社会課題解決におしゃれに取り組む

佐久間: 2030年の医療、そして世界はどのようになっていると思いますか?

高橋: 医療全体のことを言うと、2030年にはAIに診断を委ねるようになっていると思います。医者の役割は患者さんのケアが中心になってくるでしょう。例えば、いかにショックを与えないように病状を説明できるか。それは臨床医の醍醐味でもあって、患者さんの理解力や背景を瞬時に察知し、どのように言葉をかけるかという対応力が問われます。そこはまだAIには無理ですね。

ただ、変化はすでに始まっています。私のチームではAIロボットを使ってiPS細胞を作っています。技術の巧拙によって、できてくる細胞の質が変わるので、そこをそろえるためにはロボットのほうがいい。AIロボットをグループの一員にして働くのは、ある意味、社会実験みたいなもので面白いです。ただ、その結果、仕事が置き換わってしまう人も実際に出てきます。これが進むと、社会は二極化し、やがてはディストピア(反理想郷)になるのを実感します。そうならないためには価値観を変えないとやばいぞ、って真剣に思います。その際、希望となるのは、あなたたち若者です。

ハヤカワ: 私たちですか?

高橋: そうです。例えば今の若い優秀な人たちは、かわいそうな人たちを相手にするという既成概念や偏見抜きに、福祉や社会課題の解決に取り組むじゃないですか。人を助ける仕事をおしゃれにやっていく。日本では特にそうした若者が多いように感じます。そこが希望ですね。アジアの中で日本は中国に負けています。ただ、中国は今、おカネのほうに向かっている気がしますが、日本の若者には、おカネもうけよりも社会課題の解決に挑戦している人が少なからずいる。そうしたモラル感では、まだ日本のほうが勝っているような気がします。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(エズラ・F・ボーゲル)って知らないでしょ?

佐久間: (刊行されたのが)生まれる前なので、実感したことはないですね(笑)。

高橋: 私は、ジャパン・アズ・ナンバーワンのど真ん中で大人になったから、「なんで日本が一番じゃないの?」ってすぐ思っちゃうわけですよ。一番は当然でしょって。今の若者もそうした意識をもう少し持ってくれるとうれしいなって気もしますけどね。

再生医療では、日本はかなり良い線を行っていると思います。私たちは、バラエティーに富んだ本当に治療に必要な種をいっぱい持っている。まだ治験まで行ってないけど治験に行きそうな、海外にはない治療がいっぱい芽吹いている。そうしたものが、まだ治験に行ってないじゃないか、とバッシングされるのはちょっと悔しい。批判するほうは簡単ですが、違うよっていうことを証明するには5年くらいかかるんです。その間がつらいわけ。「ほら見ろ!」と言えるんだけど、いつか(笑)。

インタビューを終えて

想定外の質問も飛び出し、対話が生き生きと盛り上がった今回。異分野で活躍する若者たちの熱がこもった質問に、高橋さんも楽しみながら答えている様子でした。それでは最後に、インタビュアー2人の感想を紹介します。

研究に閉じこもらず、社会とのかかわりのなかで(佐久間洋司)

数十年後の医療の未来を見据えた高い視座のもと、世界最先端の治療開発に取り組んでいる高橋さんにお目にかかることができて光栄でした。研究成果の事業化や、研究機関と企業との利益相反などをめぐる難しさ、向き合い方について直接お話を伺うことができて、とても勉強になりました。特に、高橋さんが長期的な視点をもつようになったきっかけや、再生医療のハイプサイクルでのメディアなどとのかかわり方、2030年までに目指している治療開発へのマイルストーンなどのお話では、研究に閉じこもらず、社会とのかかわりのなかで世の中を大きく変えようとする姿勢が強く印象に残りました。自分自身は駆け出しの身ですが、先にビジョンを宣言して仲間や支援を集め、後からそれを現実にしてしまうという手法について、個人的にアドバイスをいただけたことも本当にありがたかったです。今回の学びを将来につなげられるよう一層精進してまいります。

リスクとベネフィットのバランス感が悩ましい(ハヤカワ五味)

高橋さんとお話しするなかで印象的だったのが、得られる便益とリスクについてです。自然界で起こるたいていの事柄に「絶対」ということは存在しませんが、昨今の世間を見ると、どうしても0.01%、つまり1万分の1のリスクばかりに注目し、残る9999の救われる命を軽んじているように思えます。一方で、ほとんど助かる可能性がないなかで、リスクがあっても新しい方法を試す価値があると考える人がいるということも、高橋さんのお話で浮き彫りになりました。最近の私自身の興味分野には、健康保険やサステイナブル(持続可能)な食事、エネルギー、発電などがあるのですが、そこでもリスクと長期的なベネフィットとのバランス感に悩まされます。最大の効果を発揮できて、より多くの人が納得できる選択を取る方法を模索中です。

【プロフィル】
高橋政代(たかはし・まさよ)
株式会社ビジョンケア代表取締役社長。理化学研究所生命機能科学研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクト客員主管研究員。1961年、大阪府生まれ。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。同大医学部付属病院探索医療センター開発部助教授などを経て、理化学研究所に。2014年、同発生・再生科学総合研究センター(現・多細胞システム形成研究センター)網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダーとして、iPS細胞を使った網膜手術を世界で初めて成功させた。19年から現職。

佐久間洋司(さくま・ひろし)
バーチャル認知科学者。1996年、東京都生まれ。東京都立小石川中等教育学校を卒業し、大阪大学基礎工学部システム科学科へ進学。人工知能やバーチャルリアリティを活用して人の意識に働きかける研究をしている。人工知能研究会/AIR代表、人工知能学会学生編集委員長、世界経済フォーラムのGlobal Shapersなども務める。孫正義育英財団第2期生(正財団生)。

ハヤカワ五味(はやかわ・ごみ)
株式会社ウツワ代表取締役社長。1995年、東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。高校1年生のころからアクセサリー類の製作を始め、受験の傍らプリントタイツ類のデザイン、販売を行う。主にEコマースで販売を続け、2015年に課題解決型アパレルブランドを運営するウツワを起業。18年にはラフォーレ原宿に常設直営店舗を出店。

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