DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

「透明」にこだわり、「新しい豊かさ」を作りたい
中村暖さん

Text by 休場優希 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 石黒シエル(作品と制作風景のカットは中村さん提供)

「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGでは、若きソーシャルイノベーターの活動を継続的に紹介しています。今回注目したのは、「人間に一番近い空間」としてジュエリーやバッグなどをデザインするクリエーターの中村暖さん(24)です。作品づくりで一貫してこだわるのは「透明(クリア)」であること。透明なプロダクトを生み出すだけでなく、その制作過程や使用後も含めた透明性を追求しています。

透明はラグジュアリー

Q: 中村さんは、本物のクロコダイルの3Dデータからアクリル素材で「透明なワニ革」を作っています。透明なサングラスやバングルなど「透明」へのこだわりは徹底していますね。

A: もともと透明なものが好きだったのですが、美大に入って自分が作り手の立場になったときに、透明を作り上げるのは難しいことが分かりました。透明って傷が入りやすく、ちょっとでも傷が入ったら透明度が落ちて最上級のクオリティーが出せないし、ちょっとでも温度が上がったら白く曇ってしまうし、気泡が入ったらくすんでしまう。透明を作るのは一番難しい。だからこそ、透明は新しい最高級の価値で、「究極の透明=ラグジュアリー(豪華)」だと信じています。

また、透明なものに限りませんが、僕は、その制作の背景にあるものが見えないと、すごく違和感があります。例えば、結婚指輪に使われる宝石や金属のなかには、発展途上国の子どもたちが危険で劣悪な環境で採掘したものがあると言われています。それが果たして、身に着ける愛の証しとしてハッピーなものなのか。指輪を巡るすべての循環の輪の中で、誰かが悲しんだり泣いていたりする状況はどうなのか。こうした倫理性が問われる時代に、「プロセスとしての透明性」は調和してくると思います。

僕の作品は再生可能素材を使っているので、リサイクルすることができます。例えば、透明なワニ革は軟らかいプラスチックでできています。熱加工処理をすれば、何度でも繰り返し使える素材。熱を加えればリセットされるので、ワニ革の次にヘビ革にだってなれちゃうんです。

Q: 2019年には「透明なシャンデリア」を発表しました。

A: この作品のコンセプトは、「Scratches and broken pieces of plastic shine as chandeliers(プラスチックの傷や壊れた破片はシャンデリアとなって輝く)」。「傷や壊れた破片に、新しい美しさを見いだしたい」と考えて制作しました。具体的には、ライオンがかみ砕いたり、爪で引っかいたりしたおもちゃの破片や傷がついたものをパーツとして、僕が一つずつ紡ぎ合わせて作りました。「傷=美しくないもの、廃棄されるもの、価値のないもの」に僕が手を加えることで、新しい美しさを形にし、美しさを再定義しました。

Q: どうやってライオンと協働したのですか?

A: 何度も一緒にトライアンドエラーを繰り返しました。まずシャンデリアのパーツとなるおもちゃを作ったのですが、ライオンがなかなか興味を示してくれなくて……(苦笑)。僕は動物に詳しいわけではないので、大勢の専門家に協力していただきました。この作品には本当にたくさんの人がかかわってくれています。その皆さんの気持ちがあってできています。協力してくれる人や応援してくれる人がいるから、僕も頑張れるし、その方々にとってもこの作品にかかわっていることが自慢になったらうれしいですね。

美しさの“幅”を大切に

Q: 中村さんはどんな環境で育ったのですか?

A: 三つ子の末っ子として、佐賀県で生まれました。父は陸上のコーチで、兄はサッカー、姉は陸上をやっているスポーツ一家でした。僕もリレーの選手でしたが、高校受験で志望校の選択に悩んでいたとき、先生が「暖くんには美術の才能があるから」と背中を押してくれて、県立高校の芸術コースに進みました。佐賀県には「肥前びーどろ」というガラスの伝統工芸があって、その作品に触れる機会が多く、小学生のころからガラス職人になりたいと思っていました。

Q: 高校卒業後は京都造形芸術大学空間演出デザイン学科に進学しました。

A: 高校1年生の時に、日本画家の千住博先生の作品と出合い、すごく感動しました。その後、たまたま千住先生が九州で講演する機会があり、僕は学校の制服姿で参加しました。講演会が終わった後、先生のタクシーを追いかけ、先生の作品のどこに感動して、僕はこんな絵を描いていて、こんな作品を作りたい、といったことをお話ししました。これをきっかけに、以後はずっと千住先生に作品を見ていただいています。京都造形芸術大学に進んだのも千住先生が学長をしていらっしゃったからです。空間演出デザイン学科は、ファッションからインテリア、まちづくりまで、自分が空間ととらえるあらゆるものをデザインしていく学科です。僕は「人間に一番近い空間」を意識し、肌につけるジュエリーなどを制作してきました。今は大学院に在籍して、千住先生の研究室で透明なプロダクトを作っています。

Q: 現在、取り組んでいる作品はどのようなものですか?

A: 「透明で見えなくて、身にまとうことができるもの」として、香水の制作に挑戦しています。世の中はいろんな香水であふれていて、百貨店や空港など様々な空間で売られています。そのうえで、まだ存在しない香水って何だろうって考えたときに、人が初めて嗅ぐ香りをデザインしたいなと思いました。そこで今は「ゼロの香り」を制作中です。

Q: 作品づくりで大切にしていることはなんですか?

A: 美しさの“幅”を大事にしています。例えば電車に乗っていて、誰かがゴミを拾ってくれたら美しいと思う自分がいるし、一流アーティストの彫刻や、800年前の和歌の口語訳を美しいなと思う自分もいる。「美しさ」って一言ではなかなか定義できません。そうした美しさが持つ“幅”を作品でも表現したい。また、クリエーターとして再定義したり、表現したり、伝えたり、デザインしたりするなかで、「何かを肯定することで、その裏側を否定しているわけではない」ということは、繰り返し意識して伝えるようにしています。

Q: 今後はどのような作品を構想していますか?

A: 作りたいものは、自分が生きてきたいろんなレイヤーが重なって、その時できていくものだと考えています。だから、これから作りたいものと言われても、すぐには浮かばないですね。ただ、作品として表に出させてもらっていて、それを美しいと思ってくれる人がいたり、登場してくれた人がいたりする以上、前の自分を常に超えなければいけないと思っています。そのハードルと戦っていくのは、永遠の課題ですね。

Q: 2030年の世界はどうなっていると思いますか?

A: 僕はほぼ3年単位で一つの作品を作っているので、2030年には僕の「新しい透明なもの」がいくつか生まれていることだけは断言できます(笑)。そして、自分の作品を見た人が、透明の先にある「新しい豊かさ」に少しでも気づいてくれたらうれしいです。一見、無価値なものこそ価値の宝庫だし、一般的に価値があるとされているものは、そのために価値が止まってしまっています。僕は、新しい可能性や価値を作り出すエネルギーが「新しい豊かさ」を作っていくと信じています。

中村暖(なかむら・だん)
クリエーター。株式会社DAN NAKAMURA代表。1995年、佐賀県生まれ。京都造形芸術大学大学院在学中。16歳で佐賀県の代表として世界一周を経験。世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityにも選出された。ジュエリー、シャンデリア、香水と形を変えながら、「透明」をコンセプトに作品を制作している。

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