DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル

宇宙を活用した農業で、途上国の子どもの自己実現を
坪井俊輔さん

Text by 藤崎花美 with 朝日新聞DIALOG編集部
Photo by 石黒シエル(仕事中の写真は坪井さん提供)

「2030年の未来を考える」をコンセプトとしたプロジェクト、朝日新聞DIALOGでは、社会課題の解決を目指す若きソーシャルイノベーターの活動を継続的に紹介しています。今回注目したのは、宇宙を起点とした教育事業を立ち上げ、衛星写真のデータを活用した農業イノベーションに取り組んでいるSAgriサグリ株式会社代表取締役社長の坪井俊輔さん(25)です。

夢のはじまりは「宇宙」だった

Q: ご自身のルーツやバックグラウンドについて教えてください。

A: 私は横浜で生まれました。3歳から1年半、親の転勤でイギリスに住んでいた以外は育ちも横浜です。幼いころは、家族全員が東京ディズニーランドの年パス(年間パスポート)を持っていて、2週間に1度は行きました。ディズニーランドは、自分のやりたい気持ちを肯定してくれる場所です。ネズミから犬まで、いろいろな生き物がいますが、みんな仲良くしていて互いを否定しない。「将来、こんな平和な社会になればいいな」と思いました。一番好きだったのが「トゥモローランド」というテーマランドで、小学生のころの将来の夢は宇宙飛行士になることでした。

中学2年生のときに、宇宙飛行士で日本科学未来館館長の毛利衛さんから「宇宙エレベーター」の話を聞きました。宇宙飛行士は限られた人しかなれませんが、宇宙エレベーターを作ったら誰でも宇宙に行けると思いました。それからは、宇宙エレベーターを作る研究者を目指すようになりました。

Q: それで横浜国立大学理工学部へ進んだのですか?

A: 正直に言うと、第一志望は宇宙工学を専門的にやっている東京大学か東京工業大学でした。でも、現役のときも1浪のときもダメで、横浜国立大学に入りました(苦笑)。中学で、「将来は宇宙エレベーターを作る。JAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究者になる」と公言したら、周りから浮いてしまい、いじめられました。幼いころは「ケーキ屋さんになりたい」とか夢を持っていた同級生たちが、中学2年くらいになると自分のやりたいことを言わなくなりました。私は周りに合わせることができず、独りぼっちで深く傷つきました。宇宙へのモチベーションもなくしました。それが大学受験にも影響したと思います。

はみ出している子どもを助けたい

Q: 再び宇宙にかかわるようになったきっかけは何ですか?

A: 大学ではテニスサークルに入り、周りに流されて生きていましたが、何かおかしいと思い始めました。そのとき、ふと、幼少期を過ごしたロンドンに行ってみたいと思いました。一人で海外へ行ったことなんてありませんでしたが、親を説得し、夏休みに1カ月間、語学留学しました。そこで出会った人たちは、自分のやりたいことをはっきり言える人ばかりでした。その人たちから「シュンは何をしたいの?」と聞かれても、私は答えられませんでした。それがすごく悔しかったんです(苦笑)。

帰国後、自分の過去をさかのぼり、やりたいことについて考えるなかで、宇宙に憧れていたことを思い出しました。そこで、横浜国立大学で宇宙の研究をしている先生を探したら、JAXAから来た先生がいて、探査機が月や火星の地面に沈まないように設計する研究をされていました。研究室に所属するのは、本来は4年生からですが、私は1年生の後期から所属しました。そうこうするうちに、研究者の卵として、様々な所から宇宙に関する講演を頼まれるようになりました。その講演先で、かつての私のように周りからはみ出している子と出会い、なんとかして解決したいと思いました。はみ出している子がずっとはみ出し続けることができたら、何かを変えられるのではないかと感じたのです。

ただ、解決方法が全く分かりません。悩んでいるときに、大学の掲示板で、次世代のイノベーターを育成する学校「MAKERS UNIVERSITY」の生徒募集のポスターを見つけました。応募要件に「はみ出し者、火星移住・タイムマシンなんでもこい」みたいなことが書かれていたので、「これだ!」と思い応募しました。幸い合格し、社会で何かを起こしている人たちの「当たり前」を初めて知りました。当時の私にとって、例えば、休学する人は「人生の外れ者」みたいな認識でしたが、そこに集っている人たちにとっては普通のことでした。そこで学ぶなかで、私のミッションは「子どもたちがやりたいと思っていることを実現させてあげる」ことだと気づき、宇宙をそのきっかけにできるのではないかと考え、2016年に宇宙教育を行う株式会社うちゅうを立ち上げました。

「MAKERS UNIVERSITY」のTHE DEMODAYで登壇(16年)

Q: 現在は農業のイノベーションにも取り組んでいます。

A: 宇宙教育事業の一環で、IT・ロボット教育をするためにルワンダへ行きました。現地の子どもたちも夢を持っていましたが、夢を語ってもそれはかなわないと自覚していました。親は子どもが労働力になることを期待しているので、中学や高校に進学せず、家の手伝いをしなくてはいけないと分かっていたからです。そうした家庭のほとんどが農家でした。ルワンダでは、教育だけでは子どもたちの夢をかなえられません。そこで、現地の農家の状況を変えられないかと考え始めました。

ちょうどそのころ、兵庫県丹波市と協力してロケットとドローンを活用した教育事業と地域活性化に取り組むことになりましたが、頭の中にはルワンダの農業のことが常にありました。丹波市は農業が盛んな土地です。私は工学専攻で農業のことは一切知らなかったので、「ここで学ぼう」と思い、18年に丹波市でSAgri株式会社を起業しました。

SAgriのスタッフや地元の農家の方と丹波市のオフィスで(19年)

Q: SAgriの事業について教えてください。

A: 丹波市の本社の他に、インド南部のベンガルール(旧バンガロール)にも拠点を置いています。人工衛星から撮影した写真を使って、特定の農地の過去と現在の状態を解析し、収穫量などを可視化したデータベースを作成しています。インドでは農家が低金利でおカネを借りられる仕組みがなく、年利20~30%が普通です。これまであいまいだった農地の状態や収穫量に関する情報が信頼度の高いデータで裏付けられれば、農家の信用が高まり、銀行融資が受けやすくなります。そのためのデータを提供するのがSAgriです。

インドとの出合いは一昨年、特定非営利活動法人クロスフィールズが実施している「留職プログラム」(リーダーとなる人材の育成と新興国の社会課題解決を同時に目指すプログラム)に参加し、3カ月間住んだことです。人口が多く、まだ手つかずの事業領域が多いところに可能性を感じ、ベンガルールに拠点を置きました。この街はエンジニアの数が米シリコンバレーに次ぐ世界第2位で、農業が盛んな地域でもあります。インドでの実績を踏まえ、現在はASEAN諸国などにも展開すべく準備を進めています。

SAgriは営利組織として、サステイナブルに課題を解決することにこだわっています。ボランティアとしてかかわっても、なかなか持続しません。「うちゅう」の事業でルワンダへ行ったときは、サステイナブルにはできませんでした。だからこそ、ビジネスとしてちゃんと継続できる仕組みにしたいと思い、模索し続けています。

サンジェイ・クマール・ヴァルマ駐日インド大使と(19年)

親の期待を良い意味で裏切ろう

Q: 坪井さんの究極の目標は何ですか?

A: 私自身は、最終的には教育分野に戻りたいと思っています。途上国の子どもたちの進路選択の幅を広げること、彼らの夢に寄り添い応援することが目標です。それぞれが使命感を持って、自由な選択肢の中から自己実現を目指すことで、優れたリーダーが生まれ、国自体も発展していくと思います。発展途上国という言葉はいずれなくなると私は信じています。

Q: 2030年の世界はどうなっていると思いますか?

A: 人工知能(AI)が多くの仕事を担うようになり、人間はだんだん働く必要がなくなっていくと思います。そうなると、自分がやりたいことをはっきりと言えないために不幸になる人が、たくさん出てくるかもしれません。逆に、うまくいけば、ものすごく個が意識され、大事にされるようになって、趣味とか衣食住にもっと意識を向けるようになる。仕事から解放されると都市に住む必要もなくなるので、自分の好きな場所に好きな人たちとムラ的な社会を作ることも可能になるでしょう。

そのためには、もっと個を意識し、一歩踏み出すことが大切です。日本の若い世代は、周りの期待、特に親の期待に応えることを求められがちです。本人も、親から愛されてきたから、親の理想をかなえてあげたいと思ってしまう。でも、自分以外の人に依存すると、結局、人に合わせた生き方になってしまいます。そこから一歩踏み出し、良い意味で親を裏切らないと変われない。自分を肯定するのは自分自身ですから。

SAgriの東京チームのスタッフと(20年)

坪井俊輔(つぼい・しゅんすけ)
SAgri株式会社代表取締役社長。1994年、神奈川県生まれ。横浜国立大学理工学部在学中の2016年に株式会社うちゅうを起業し、宇宙を起点とした教育事業の開発・運営に従事。人工衛星の観測データを基に農地管理や収穫予測を行うアプリ「Sagri」を開発し、18年にSAgri株式会社を設立。「MAKERS UNIVERSITY」1期生、「DMMアカデミー」1期生。第3回日本アントレプレナー大賞受賞。世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityに選出。「Get in the Ring Osaka 2019」「Singularity University Japan GIC 2019」で優勝。

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