「声の力」プロジェクト:DIALOG 日本の未来を語ろう :朝日新聞デジタル
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「声の力」プロジェクト

2019年12月11日公開

声優・水田わさび 特別授業@岐阜県立岐阜盲学校 お芝居のいいところは正解がないこと

Written by ジュレットカミラン with 朝日新聞DIALOG編集部

朝日新聞DIALOGは、シリーズ企画「声の力」を展開しています。視覚障害のある高校生たちが、プロの声優から声による表現方法を学ぶことで、自身の可能性を広げることを目指すプロジェクトです。その第2弾として、アニメ『ドラえもん』でドラえもんを演じる水田わさびさんが、岐阜県立岐阜盲学校(岐阜市)で特別授業をしました。舞台経験も豊富な水田さんの指導を受けて、生徒たちは声による表現に挑みました。

どこでもドアがあれば、毎日ここに来るわ

同校には小学部から高等部まであり、両眼の矯正視力が0.3未満または重い視機能障害のある児童・生徒が学んでいます。高等部には27人が在籍しています。

9月末、特別授業に参加する生徒10人が教室で待機していました。後方には、参観に訪れた生徒や学校関係者たち約20人もいます。生徒たちは少し緊張した様子でしたが、水田さんが「こんにちは!」という元気なあいさつとともに教室に入ってくると、大きな拍手で迎えました。初めて生で聞くドラえもんの声に、生徒たちは興奮気味です。

授業は生徒たちの自己紹介から始まりました。「名前以外に言いたいことがあったら言ってもいいよ。好きなタイプとか」。水田さんのジョークに笑いがはじけます。2年生の生徒がたくましい声で「鉄人兵団(映画『ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団』)が好きです」と伝えると、水田さんは「私も大好き! 君とはこれでスーパー仲良しだね」とにっこり。水田さんは自己紹介する生徒にコミカルに接し、緊張を少しずつほぐしていきます。「好きなひみつ道具は、タケコプターとどこでもドアとタイムマシンです」と話した生徒には、「どこでもドアがあれば、私、毎日ここに来るわ」と返しました。自己紹介が終わるころには、水田さんは生徒たちとすっかり打ち解けて、全員をファーストネームで呼ぶようになりました。

次は質問タイムです。3年生の生徒から、「『水田わさび』というのは本名ですか?」という質問が出ました。水田さんは「芸名です」と明かしたうえで、その由来を語りました。「私は三重県の、とても空気と水のいい村で育ちました。その実家の前にわさびが自生していたのです」。そのことを、かつて所属していた劇団の座長に話すと、「実家にわさびがあるから『わさびちゃん』がいい。わさびは水田に生えるから『水田わさび』だ」と言って芸名が決まったそうです。意外なエピソードに生徒たちは驚きながらも、水田さんが同じ東海地方出身であることで、さらに親近感が増したようです。

「ドラえもんの声を担当することになったとき、前任の声優さんから引き継いだことはありますか?」という質問も出ました。水田さんは大山のぶ代さんに代わって2005年からドラえもんの声を担当しています。「当時の『ドラえもん』の監督さんが、私が出演した舞台をたまたま見ていて、オーディションに呼んでくださいました」。ところが、『ドラえもん』の原作者である藤子・F・不二雄の大ファンという夫から、きつい一言が。「『ドラえもんの声優はあなたじゃ務まらないから、辞めるなら今だよ』と言われました。そのとき改めて自分が携わる仕事のすごさを実感しました(笑)」。アニメさながらのドラマチックな展開です。「それからコミック全巻を読み直し、藤子・F・不二雄先生に関する書物もたくさん読みました。毎年、先生のお墓参りにも行っています。誰にも負けないくらい、ドラえもんを愛しています」

呼吸を繰り返すと、疲れて汗だくに

質問タイムが終わり、いよいよ声を出すことになりました。水田さんは生徒たちを励まします。「お芝居や演技のいいところは、数学や理科と違って正解がないところ。だから、みんながやったことが正解です。堂々と声を出してください」。この言葉に生徒たちは意欲をかきたてられたようです。

まずは呼吸法の練習です。「息を鼻から吸って、口から吐いてみましょう」。水田さんの合図で全員一斉に練習を始めました。「みんな、疲れるでしょう? アテレコする際は、今のような呼吸を何回も繰り返すから、疲れて汗だくになります」。言葉の端々から声優という職業の厳しさが伝わってきます。

続いて発声のレッスンです。「みんなでハッハッハッハッハと言ってみましょう」。全員で練習した後に、1人ずつ披露することになりました。発声中に力が入り、ピクピク動いていたおなかを水田さんが触ろうとしたため、思わず噴き出してしまう生徒も。「ごめん。邪魔しちゃった(笑)」と水田さん。教室に歓声が沸きます。

最後は全員で笑い方の練習をしました。水田さんが最初に模範演技。「ハハハハハ」。爆笑する声が教室中に響き渡りました。そこにフェードインするような形で生徒たちの笑い声が加わり、参観者も笑い出します。教室が爆笑に包まれたところで、1コマ目は終わりました。

芝居は、人の話を聞くほうが大事

2コマ目はセリフの練習です。水田さんはこの日のために特別な台本を用意していました。短い「呼びかけ」の言葉と、それによって喚起された「思い」のような一文がワンセットになった、詩のようなものです。

水田さんは生徒を2人1組にして、1人が「呼びかけ」を、もう1人が「思い」を読むように指示しました。その理由は「お芝居は、自分がしゃべるよりも人の話を聞くほうが大事だと思う」からです。例えば、「ドラえもんはのび太くんの話を聞いて、言葉を返しています。私が最初からドラえもんのしゃべり方を決めていたら、その演技はウソになります。のび太くんのしゃべり方によって、芝居の『温度』も変わるのです」。演技をするうえでの大切なポイントを伝えると、全員が聴き入ります。

生徒のペアがそれぞれに工夫を凝らして朗読していきます。あるペアの1人が別れの言葉をかみしめるように優しく読むと、もう1人が慈しむようなゆっくりとした朗読で応えました。教室中が2人のかもしだす空気に引き込まれていき、水田さんも、「私、鳥肌がたっているんです! 泣きそう。めちゃくちゃよかった!」と大絶賛しました。

生徒と水田さんがペアで朗読する場面もありました。生徒の素直でけなげな声に応えるように、水田さんは優しく、丁寧に、抑揚をつけながら読んでいきます。生徒の別れのセリフに続いて、水田さんが泣き出しそうな悲しい声でゆっくりと読み終えると、大きな拍手が送られました。

授業の最後にサプライズ

あっという間に2コマ目も終わりに。水田さんが「みんなとても上手で、うるうるしてしまいました。とっても楽しかったです」と締めくくると、サプライズが待っていました。生徒たちが心を込めて作ったさをり織りのペンケースを水田さんにプレゼントしました。「ありがとう! 大事に使います!」。サプライズの成功に生徒たちもうれしそうです。最後に全員が水田さんを囲んで記念写真を撮り、この日の授業が終わりました。

授業後、水田さんは、「生徒さんたちは、指摘すると2回目は的確にやってくれました。感覚が鋭くて、聞く力がすごくいいと思います。私は声優の専門学校でも教えていますが、意外と同じようにはできないのですよ。今日の生徒たちはとても素直で、めちゃ楽しかったです。またみんなに会いたいです」と話しました。

生徒たちにも感想を聞くと、「ドラえもんは水田さんの地声なんだってわかって驚きました。仲良しの友人とあうんの呼吸で読めて楽しかったです。自分の中の本当の自分を、ありのままに出すことが大切だと思いました」「人前で読むのは恥ずかしかったけど、何でも積極的に取り組んで、自分で工夫してみないといけないと感じました。声って大事だなあとも思いました」という答えが返ってきました。

朝日新聞DIALOGでは、「声の力」プロジェクトの模様を継続的にお伝えしていきます。

【プロフィル】
水田わさび(みずた・わさび)
声優、ナレーター、舞台俳優(青二プロダクション)。三重県伊賀市生まれ。高校卒業後に上京し、「劇団すごろく」に入団。2005年、アニメ『ドラえもん』のドラえもん役に。『忍たま乱太郎』『あたしンち』『ヒカルの碁』などのアニメ作品でも主要キャラクターの声を担当。趣味はプロ野球観戦で、広島カープの大ファン。高校生と小学生の娘がいる。

「声の力」プロジェクトとは
文化庁の「平成31年度 障害者による文化芸術活動推進事業」として、視覚障害児が声による伝え方の多様性を学ぶことで、自分の可能性を再発見することを目指すプロジェクト。文化庁と朝日新聞社が主体となり、株式会社青二プロダクション/青二塾と株式会社主婦の友インフォス(「声優グランプリ」編集部)の協力を得て進めている。

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