2008年9月5日
画像1:MP3やWMA、AACファイル作成時に失われた高音域を補完する技術「サプリームEX」を搭載したケンウッドの「HD60GD9」
画像2:圧縮により失われた高音域を再現して原音に近い音質で再生できる「DSEE」を搭載したソニーの「NW−A829」
画像3:H2Cテクノロジーを搭載した東芝のgigabeat Tシリーズ「MET802」
MP3やAAC、WMA、ATRACなど音声ファイルのサイズを小さくできる音声用の圧縮フォーマットは、パソコンの音楽管理ソフトやデジタルオーディオプレーヤー(以下、デジタルオーディオ)で幅広く使われています。これを使うと、たくさんの音声ファイルを保存できる半面、元の音源と比べるとどうしても同じ音にはなりません。そこで最近では、圧縮ファイルをできるだけオリジナルの音源に近づけて再生する「高音質化技術」が登場しています。今回は音声ファイルの仕組みをおさらいしながら、高音質化技術について説明します。
デジタルオーディオで、たくさんの音楽が保存できるのはなぜでしょうか? 先ほど冒頭でも触れたようにMP3やAAC、WMA、ATRACなどファイルサイズを小さく圧縮できる音声用の圧縮フォーマットを使用しているためです。
音楽CDに記録されている音を非圧縮でパソコンへ取り込むと、CD1枚分の音楽で650〜700MBもの容量になります。最近のデジタルオーディオは記録メディアとしてフラッシュメモリーを内蔵しているものが多く、容量的には4GBや8GBといった製品が主流です。デジタルオーディオには非圧縮のWAVファイルをそのまま転送することもできますが、この場合はCDアルバム5〜10枚程度の音楽しか保存できないことになります。それに対しMP3やAACといった圧縮フォーマットを使うと、標準的な設定でファイルサイズはWAVファイルに比べ約1/11となります。単純に考えても、10倍以上の音楽がデジタルオーディオへ保存できるわけです。
このようにデジタルオーディオへたくさんの曲を転送するには欠かせない技術がMP3やAACといった音声用圧縮フォーマットなのですが、デメリットがないわけではありません。それは音質的にはCDとまったく同じではなく、音が劣化しているということ。パソコンのスピーカーを使い小さなボリュームで聴いているとあまり違いを感じませんが、デジタルオーディオのヘッドホンで聴いているとなんだか違和感を感じる人もいるでしょう。
この理由は音声用圧縮フォーマットでファイルを圧縮するその仕組みにあります。もともとCDは、高音が最高2万Hzまで記録できます。この2万Hzというのはいわば超高音域といった領域で、人間の耳では聴き取れない、または違いがわからないとされています。そして音声用圧縮フォーマットではファイル容量を小さくするため、オリジナルの音源に含まれているデータ、つまり音の一部を間引きするように削除することで圧縮しています。もうお分かりかもしれませんね、MP3やAACといったファイルにはこの超高音域の音はほとんどを間引きされていて、含まれていないのです。
理論上は先に述べたように、この超高音域は人間の耳では違いがわからないはず。しかし実際に聴いてみると、個人差はあるものの結構違いを感じるものです。たとえば高音の伸びが足りない、濁っているように感じるというのは、この圧縮の仕組みによるもの。聴覚に限りませんが、人間の感覚というのはある意味では理論を越え、かなり敏感なもののようです。
この音質劣化を防ぐにはMP3やAACを使わずにWAVファイルとして転送するか、または以前紹介したロスレスの圧縮方式を使う方法があります。ただしファイルサイズは大きくなるため、たくさんの曲を転送するという使い勝手の面ではマイナスになり、一長一短です。
そこで音声用圧縮フォーマットによる圧縮率の高さを享受しつつ、オリジナル音源に近づける高音質化技術というものが登場し、一部のデジタルオーディオに搭載されています(画像1、2)。これはデジタルオーディオでMP3やAAC、WMA、ATRACといったファイルを再生するとき、圧縮により失われた高音域を曲のデータから類推し、補完することでオリジナルのCDに近い音を再現する、というもの。失われている情報を推定して補完する仕組みなので完全にCDと同じ音質に戻るわけではありませんが、この機能のオン、オフを切り替えて聴き比べてみると高音の伸びに違いがあり、より自然な音の響きとなります。
この圧縮で失われた高音部を補完して高音質化する技術はメーカーにより名称は異なり、ケンウッドは「サプリーム」とさらに進化した「サプリームEX」、ソニーは「DSEE」、東芝は「H2Cテクノロジー」と呼んでいます。基本的な考え方は各社とも共通ですが、失われている高音部の情報を推定するアルゴリズムは独自技術のためか、その効果には多少違いもあるようです。デジタルオーディオを選ぶときには店頭で各社製品の音を聞いて、機能をオン、オフして効果の違いを体感してはいかがでしょうか。

ライター兼エディター。デジタルオーディオ機器およびDTM関連を中心に雑誌やWebサイトで試用レポートや解説記事などを執筆。「AV Watch」で藤本健の「Digital Audio Laboratory」の連載、「All About」で「DTM・デジタルレコーディング」のガイドを担当。「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)、「コンプリートDTMガイド・ブック」(リットーミュージック)など著書も多数ある。